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2023年も変わらなかった大谷翔平の「勝負の年」という思考

佐々木亨スポーツライター
2023年シーズンも進化を続けた大谷翔平選手。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平にとっての2023年は、タフな一年だった。

 自身初出場となった3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、体内に秘められたエネルギーと思いを全身で表現しながら、投打で躍動して世界一の瞬間を迎えた。余韻に浸る間もなく、メジャーのレギュラーシーズンに突入すると、その熱量とパフォーマンスはさらに加速していくようだった。89試合に出場した前半戦で、欠場したのはわずかに2試合。肉体的、そして精神的にも疲労が溜まる5月、6月を難なく乗り越えて投打における結果を積み重ねた。

 7月になると、さらに技術と思考は研ぎ澄まされて極上のパフォーマンスを見せる。現地7月27日に行われたタイガースとのダブルヘッダーでは、『2番投手兼DH』として出場した第1試合で被安打1の9勝目を挙げる。メジャーでは自身初となる完封勝利だった。数十分のインターバルを経て挑んだ第2試合では、『2番DH』で出場して第2打席で37号2ラン。さらに第3打席で、2打席連発となる38号ソロアーチを放つ。まさに二刀流だけが成せる業なのだが、その異次元とも言える投打の姿に多くの人々は目を丸くしたものだった。シーズン終盤は右肘手術の影響でグラウンドを離れたが、投手として二桁勝利を挙げ、打者としては44本塁打で日本選手初となる本塁打王を獲得。二刀流の輝きは、自身2度目の満票選出となるア・リーグMVPへとつながった。

挑み続ける行動力、「大事だな」と思う姿は変わらない

 大谷の技術や肉体は、年齢を重ねるごとに進化を続けている。スライダーの一種で、平均的なスライダーの曲がりよりも大きな弧を描いて曲がるスイーパーを駆使した投球術。パワーに加えて、打率3割台が示す通りに安定感が増した打撃技術。一昨年に比べて昨年、昨年に比べて今年と、間違いなく投打の質は上がっている。その一方で、彼の本質は変わらないのだろう。かつて大谷が残した言葉を思い出す。

「毎年、『大事だな』という積み重ねですね。日本でのプロ1年目も『すごく大事だな』って思いましたし。レギュラーを獲るとか、試合に安定して出るとか、結果を残すとか、次の年に向けてかなり大事な年だなって思ってプロ1年目を終えて。そして2年目も『ここが勝負の年だな』と思ってやりましたし。3年目は最多勝を獲っていろいろと受賞しましたけど、バッティングが悪かったりしたので、次の年はバッティングも頑張って、(投打)どっちも良い成績を収めたい、だからまた次の年も『勝負の年だな』と思ったし。メジャー1年目も『勝負の年』だと思ったし、バッター1本でいく2年目も、その地位を確立する『勝負の年』だと思いましたし。本当、そんな感じですね。前年より大事じゃないと思う年はないですね」

 その言葉通り、変わることなく「勝負の年」であっただろう2023年シーズンも、マウンドで、そして打席で、さらにグラウンドを離れた時間でも、常に未来を見据えて挑む姿があった。自らを「高過ぎるところを想像する性格」だと話す大谷は、現状に満足することなく突き動く。来年2024年は、右肘手術の影響で打者に専念するシーズンとなりそうだが、そこでも、たとえどんな苦境に立たされても限界を作らず、挑み続けようとする思考、つまりは大谷が持つ不変の思いが生き続けるはずだ。

スポーツライター

1974年岩手県生まれ。雑誌編集者を経て独立。著書に『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(扶桑社)、『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)など、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

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