米失業率が目標に接近しFRBもガイダンスを変更か
米国のFOMCでは会合終了後に声明文が公表される。この声明文には、基本的な見解、政策決定内容、それに関する各FOMCメンバーの政策決定にかかる賛否といったものが記されている。会合の約3週間後にFOMCの議事要旨(Minutes)が発表され、議事録(Transcript)は5年後に公表される。
日銀の金融政策決定会合も終了後に公表文が発表される。会合の約1か月後に議事要旨が発表され、さらに10年後には議事録が公表される。
2月19日に2013年1月28~29日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が発表された。Minutesという用語の訳として「議事録」との言葉が使われることがあるが、日銀の「議事要旨」と「議事録」は、FOMCのMinutesとTranscriptに該当するとすれば、このFOMCのMinutesは議事要旨と訳しておいたほうが理解がしやすいと思われる。
そのような細かい指摘はさておき、1月28~29日のFOMCはバーナンキ議長としては最後のFOMCとなる。すでにテーパリングは12月の会合で2014年1月から開始することが決定されたが、1月の会合でもさらなる量的緩和の縮小が決定された。
気候の影響を受けたにせよ12月の雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比7.4万人増と市場予想を大きく下回り、1月の雇用統計でも非農業部門雇用者数が前月比11.3万人増に止まった。このあたりをどのように捉えていたのかも注目されたが、FOMCの議事要旨によると、大半のFOMCメンバーが米国の経済成長と雇用の先行きに「より強い確信」を表明し、量的緩和の緩やかな縮小を支持した(日経新聞電子版より)。
どうやら足下の非農業部門雇用者数の減少は置いといて、昨年10、11月の非農業部門雇用者数が月20万人増の規模に達したことや、失業率が下がったことなどを理由に、量的緩和策のさらなる削減を決定したようである。
たしかに米国景気そのものは回復基調にある。ただし、気候の変動の影響を受けて、それがここにきての米経済指標にも現れてきている。それでも失業率は低下傾向にあり、物価も落ち着いていることを理由に、今後も淡々とテーパリングを継続させていくものと思われる。
さらに議事要旨によると「比較的早期にFF金利の引き上げが適切であるとの可能性を挙げた」当局者が数人いたことも明らかとなった。2月7日に発表された1月の米失業率は6.6%と、目安としていた6.5%に迫っている。
2012年12月12日のFOMCで少なくとも2015年半ばまで低金利を維持するとの文面が声明文から削除され、その代わりに米失業率が6.5%を上回り、向こう1~2年のインフレ率が2.5%以下にとどまると予想される限り、政策金利を低水準にとどめる、という数値のガイダンスに変更された。いわゆるフォワード・ガイダンスと呼ばれるものである。その目安に接近し、フォワード・ガイダンスを変更することが近く必要となるとの見方も出ていた。
米失業率が6.5%になれば、利上げが意識されることになる。もちろん自動的に利上げするわけではないが、市場でも当然、そのような思惑も出やすくなる。やっとテーパリング開始に漕ぎ着けたところであり、市場があまり先んじて動いてしまうと、株式市場の下落等も招かねず、このあたりに配慮する必要もあるのであろう。
そういえばイングランド銀行も、2013年7月に総裁がキング氏からカーニー氏に変わり、8月のインフレレポートの発表時に、失業率が7%に低下するまで政策金利を過去最低の0.5%から引き上げる検討はしないとして、フォワード・ガイダンスを導入することを発表したが、半年あまりではやくもフォワード・ガイダンスの修正を行うそうである。すでに目標としてきた失業率が7%近くまで下がってきたことで、新たな枠組みで金融政策を判断するそうである。
このあたり金融政策の本来の目的と形式上の目的の違い、さらに市場への影響とともに、物価などにも配慮することも必要となり、なかなか難しい手綱裁きが求められている。ここでも金融政策はそもそも何のために、何をしようとしているのかを考えさせるものとなる。本来市場対策で行ってきたはずの非常時の緩和策ではあったが、その収束を金融政策の目的のひとつである雇用(FRBやBOE)に無理矢理結びつけると無理も生じる。これらの動きを見ても、ただ物価を目標値まで上げるためとして大胆な金融緩和(主に巨額の国債買入)を行っている某中央銀行の矛盾は今後、さらに広がるばかりとなろう。