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貯蓄率減少は本当なのか否か、家計の貯蓄率を複数視点で確認する(2021年公開版)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 将来の、そしてリスク体現のための備え「貯蓄」。その率が減少との話もあるが。(写真:アフロ)

国民全体の状況を内閣府の公開データで確認

貯蓄好きな日本人には気になるテーマ「貯蓄」。他人の事情を知る機会など滅多に無く、色々と気になるお話。その貯蓄率が減少しているとの話も話題に上ったが、本当なのだろうか。複数の調査結果から検証を行う。

貯蓄動向を示す指標としてイメージしやすい家計貯蓄率と呼ばれるものには大きく3つある。考え方としては「一か月の収入のうちどれだけを貯蓄に回せるか」。要は収入のうちどれだけを蓄財に回せるか、その余裕を示す指針の一つのようなもの。

・内閣府の国民経済計算における「家計貯蓄率」

 家計全体の可処分所得から、家計全体の最終消費支出をマイナスし、年金基金準備金の増減を調整。その値を可処分所得と年金基金準備金の増減の合計で割ったもの。マクロ的な考え方によるもので、高齢者、無職世帯など、勤労所得者以外も含んでいる。直近年度となる2019年度ではプラス3.21%。

・総務省の家計調査における「平均貯蓄率」

 貯蓄純増(預貯金と保険の純増減の合計※)/可処分所得×100。

 ※この合計額は経済学で通常呼ばれる「貯蓄」とは概念が異なる、との意見が多い

・総務省の家計調査における「黒字率」

 可処分所得から消費支出をマイナスし、それを可処分所得で割ったもの。経済関係の文献では家計貯蓄率、あるいは貯蓄率として、「黒字率」のうち、特に勤労者世帯の「黒字率」を指している事が多い。

※非消費支出…税金・社会保険料など

 消費支出…世帯を維持していくために必要な支出

 可処分所得…実収入から非消費支出を引いたもの

まずはこの一番上、国民経済計算における家計貯蓄率を精査してグラフ化を試みる。内閣府の公開資料を基に、家計貯蓄率に関する値を再構築してできたのが次のグラフ。

↑ 内閣府の国民経済計算における家計貯蓄率
↑ 内閣府の国民経済計算における家計貯蓄率

↑ 内閣府の国民経済計算における家計貯蓄率(直近10年間)
↑ 内閣府の国民経済計算における家計貯蓄率(直近10年間)

今件データは「日本国全体としての家計可処分所得や家計貯蓄額」を基に算出したもの。高齢者、無職世帯など、勤労所得者以外も含んでいる。2000年前後に家計可処分所得はじわりと減ったがその後はやや横ばい。しかし一方で家計貯蓄そのものは減少しており、2013年度ではマイナスに転じてしまった。結果として家計貯蓄率も減少し、マイナスに移行。この面、つまり国全体で見れば、貯蓄率は減少していることは間違いない。その後2015年度以降では再び家計貯蓄はプラスに転じ、それに伴い家計貯蓄率もわずかだがプラス値を示している。直近年度となる2019年度ではプラス3.21%。

しかしこのデータは年金生活者(年金は雑所得扱いにはなるが、年金のみの生活世帯は勤労者世帯には該当しない)や無職世帯も含まれる。これら、特に前者が増えれば、国全体としての家計貯蓄の積み上げも減るから(年金のみの生活者は概ね貯蓄を取り崩して生活している)、家計貯蓄率が減少するのは当たり前の話となる。

公開資料を確認すると(グラフ化は省略)、「強制的社会負担」(税金や社会保険料)はほぼマイナス値を示している。これはつまり貯蓄率を下げる、可処分所得が削られる割合が増加していることを意味する。この動きは家計内の収入と税金の関係とほぼ一致しており興味深い。高齢化社会の到来で、医療を筆頭に社会保障負担が増えている状況が、貯蓄率の面でも家計に影響を与えている実態が把握できる。

家計調査から勤労者世帯を確認

「国全体ではなく、働いている世帯単位での家計貯蓄率の変化はどうなのだろうか?」との考えから確認していくのが、総務省統計局の家計調査。平均貯蓄率では経済学の概念と違うとの意見が多いなどの理由から、今回は黒字率を精査する。

なお家計調査では年次で2015年分から、世帯主の年齢階層の区分のうち若年層が一部簡略化されている。具体的には「24歳以下」「25~29歳」「30~34歳」だったのが、まとめて「34歳以下」に統一された。これは該当年齢階層の世帯数が減少しており、統計的にイレギュラーな値が出やすくなるための措置と考えられる。グラフ上の「24歳以下」「25~29歳」「30~34歳」は2014年が最新でそれ以降の更新は無し、「34歳以下」は2015年以降のみとなるので読み解く際に注意が必要。

まずは全体平均の経年推移。これはあくまでも「二人以上世帯のうち勤労者世帯」を対象としたものであり、先の国民経済計算の家計貯蓄率とは母体が異なることに留意を要する。例えば年金と貯蓄の取り崩しで生活している、年金生活の夫婦世帯は該当しない。

↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯)
↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯)

2001年以降においては2014年の24.7%が最少、直近2020年の38.7%が最大。いずれにしても可処分所得に占める消費支出の割合は、先の国民経済計算の家計貯蓄率におけるような下げ方は見せていないことが分かる。ここ数年に限れば増加傾向にあると読める。

続いてこれを世帯主の年齢階層別に見てみることにする。最初に直近年分。

↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別)(2020年)
↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別)(2020年)

現役世代はおおよそ黒字率も大きく3~4割台を維持しているが、60代以降は減少する。これは勤労者世帯ではあるものの、定年退職を迎えた後の再雇用による就労で、収入が少なくなり、可処分所得と消費支出の差が少なくなるため。70歳を過ぎても就労できる状況にある人は、消費支出・非消費支出ともに少なくなっていることから、黒字率は増加する。

次に経年推移での若年層。ただし上記で説明の通り、詳細区分の年齢階層別は2014年分で終わり、2015年分以降は34歳以下で一括されている。

↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、若年層、世帯主年齢階層別)
↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、若年層、世帯主年齢階層別)

24歳未満の値で2005年以降減少の一途をたどり、2008年に急減したのが目立つ。恐らくは不景気・雇用情勢の悪化をダイレクトに受けたのだろう。しかし直後の2009年では大きく持ち直し30%を超え、後述する中年・高齢層と比べても負けるに劣らない黒字率を見せている。可処分所得が減少する中でも、若年層は必死に将来へ向けた蓄積を続けている。

また興味深いのは20代後半、30代前半では多少の起伏はあるものの、黒地率はほぼ安定している。特に30代前半の安定感が頼もしい。一方でそれ未満の年齢階層になると、若い層ほど起伏が大きい(回答母数が少ないための統計的なぶれの可能性もあるが)。

直近2020年では34歳以下すべてを合わせて43.4%。前年の41.0%から大きく増加。恐らくこれまでの24歳未満・25~29歳・30~34歳の区分でも、似たような動きを示しているのだろう。

なお今データは前述したように「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を対象としたもの。「結婚するほどの財力が無いから単身者が多い。だから貯蓄率が高いのでは?」との推測は当てはまらない。

続いて中年層。

↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、中年層、世帯主年齢階層別)
↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、中年層、世帯主年齢階層別)

意外にもこの年齢階層では特にコメントすべきような動きは見られない。景気後退が見られた2007年あたりから一部の階層で減少傾向が見られるが、ぶれの範囲でしかない。あえて言えばこの数年において、増加の気配が見られるようではある。特に直近の2020年では年齢階層を問わずに大きな増加の動きが確認できる。

最後に高齢層。

↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、高齢層、世帯主年齢階層別)
↑ 1世帯あたりの黒字率(二人以上世帯のうち勤労者世帯、高齢層、世帯主年齢階層別)

760歳以上のいわゆる年金生活者のうち、再雇用などもあわせて就労している世帯に関するデータとなる。年金だけで生活している高齢層世帯とは違い、一応黒字率がプラスを維持している(年金のみの収入による生活者では、貯蓄を取り崩して生活しているので、年間収支における黒字は有り得ず、貯蓄率も算出のしようが無い)。

高齢層においては直近2020年ではすべての年齢階層で増加したものの、過去の動向では他の層と異なり、就労世帯においても中期的に見れば明らかに黒字率は減少傾向にあった。これは非消費支出や消費支出の増加とともに、実収入が減少したのが大きく響いている。この実収入の減少は、再就職に伴う非正規化で手取りが減った人の割合が増加したことが大きい。見方を変えれば、少ない手取りとなっても年金だけの生活ではなく、勤労者に属する高齢者世帯が増えたとことでもあるのだが。

ただしこの数年では大きなぶれを見せながらも2014年を底に増加に転じると受け止められる動きを示している。今後の動向が気になるところではある。

まとめてみると、国全体として考えれば「国富」観点(マクロ的視野)においては、確かに貯蓄率(≒貯蓄変化額)は減少している気配があった。しかし中期的に生じている「可処分所得の減少」も一因ではあるが、それ以上に「貯蓄率が低い、あるいはマイナスの高齢者の絶対数・人口そのものに占める割合が増え、結果として全体の貯蓄率を減退させている」との表現が、より現実を的確に表している。さらに国富観点での貯蓄率もここ数年では増加に転じている。

また人口比を増している高齢者において、貯蓄率が低下しているのだから(長命化により高齢層の中でもより年上の人が増加する)、ますます全体に占めるマイナスへの影響力が増加するのは当然の話。マクロ的視野の数字で「貯蓄率が減った」のは事実であるが、すべての世帯で等しく貯蓄率が減ったわけでは無い。ましてや現役勤労世帯において貯蓄率の平均がマイナス云々の話ではない。くれぐれも注意してほしい。

さらにこの数年では景況感や労働市場の回復に伴い、貯蓄率も増加に転じる動きもある。それとともに貯蓄率にかかわる議論がトーンダウンしているのは、経済面での関心が薄れる観点では、残念でならない。

その上、根本的な問題ではあるが、超低金利・ゼロ金利時代が長く続くとともに、クレジットカードの利用率の上昇、インターネットショッピングの普及に伴い、貯蓄と流動性の高い口座への預け入れの境界線が曖昧となっているのも事実ではある。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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