【台風15号対応の課題】企業、個人、行政全てに共通する「想定の甘さ」「被害状況の確認の遅さ」
いつまで長期化するか分からない大規模停電、被害の全体がいまだにつかめない住宅被害、発災当初に生じた鉄道各社の運休や遅れによる大混雑など、今回の台風15号ではさまざまな問題が露呈した。1週間が経った今、あらためて課題を整理すると、風害への想定の甘さと、被害状況の確認の遅さの2点に集約することができる。
企業:過去の教訓を生かせず
停電の見通しの甘さについては、前回の記事でも書いたが、そもそも被害状況の迅速な把握ができなかった(あるいはしなかった)がゆえに生じた問題である。昨年9月4日に関西を直撃した台風21号では、今回の約93万軒を大きく上回る約220万軒が停電となり、広範囲にわたって甚大な被害が発生した。その際も「見通しの甘さ」が指摘され、関西電力では昨年12月に発表した検証報告書で「被害全容の把握に時間を要したこと」、「停電状況と復旧見通しの情報提供に時間を要したこと」などを課題に掲げ、今後、被害全容の早期把握に向けた体制整備と調査方法の改善、停電情報を収集するシステムの強化などに取り組んでいくことを改善策に盛り込んだ。
こうした事例が前年に起きているにもかかわらず、今回の台風では、現場の被害状況の確認もされないまま、復旧の甘い目標があたかも復旧の「見通し」であるように伝えられ、それが五月雨式に繰り返されていった。現場作業員が必死に頑張っても、経営陣や官僚が批判を避けるために根拠なき目標を掲げるような陋習はそろそろ変えていかなくてはいけない。
他の企業はどうか? 工務店や建設会社には、屋根の応急修理などの相談が殺到し、対応に手が回らず徹夜状態で働いているという話も聞く。警備業界でも、信号の停電による交通整理や金融機関の支店やATMの被災・停電により、警備員に無理な負担がかかっている。鋸南町のある金融機関の支店前にいた警備員は「突然招集され朝9時から夜9時までと夜9時から朝9時まで2人で警備を続けている」と話していた。2016年の熊本地震では、熊本労働基準監督署が被災した熊本市民病院で地震後の事務職員の時間外労働が労使協定の月の上限を超えたなどとして市民病院に是正勧告を出している。こうした対応は台風以外でも十分考えられることで、本来BCP(事業継続計画)の中で検討しておくべきことだが、甘い想定の「しわ寄せ」が現場社員に行くことだけは避けなくてはいけない。
個人:駅の混雑も予測できたはず
個人においても、見通しの甘さは反省すべき点である。首都圏で台風直撃の翌日に起きた各鉄道会社の運休や運行の遅れによる大混雑は、予測できたはずだし、防げたはずだ。これも昨年9月30日に関東を直撃した台風24号で経験していることだ。企業が出社判断基準を作るなどしないと従業員では判断できないことは前の記事では書いたが、最終的に自分の命を守るのは自分であることは忘れてはいけない。台風通過後には、交通機関の被害状況、運行状況をしっかり確認し、どの程度混雑が続くかを見通すというのは個人レベルでできることだ。
風害による被害を予想するとはどういうことか。今回のような大規模な停電や屋根の被害は避けられなかったかもしれないが、多少なりとも被害を軽減できる対策はありそうだ。平成27年に京都大学防災研究所監修のもと、「台風時の強風災害に対する対応」という小冊子が発行されている。停電に備え予備電池などをしっかり平時から備えておくことや、台風が来ると分かった際は、「屋外の吹き飛ばされそうなものは室内に移動するかロープやネットで固定する」「雨戸のないガラス窓は外側から板でふさぐなど飛来物から守る工夫をする」「冷蔵庫の温度調節を最も低い温度にする(停電対策として)」「窓や雨戸、シャッターを閉める」「ガラス窓のサッシの上下の溝に、細長く折り畳んだ古新聞を詰める」「窓ガラスの飛散を防ぐために、ガムテープを×の字に貼って補強する」「携帯電話やノートパソコンの充電をしておく」など細かな対策が載っている。夜中に台風が来るとわかれば夜中のうちに停電が起きても翌日困らないようにご飯を夜のうちに炊いておく、洗濯を済ませておく、お風呂も早めに入って新しい水を溜めておくなど、できることはたくさんある。もちろん停電が長期化した場合の備えとしては十分ではないが(自治会単位で非常用発電機を購入しておくなどの対策は考えられる)、被害の予測をすることは、あらゆる災害対策の基本となる。
沖縄県建築士会が発行している「わが家の台風対策」も予測を高める上で参考になる。
実際、被災地を回ると、風で飛んできた瓦や植木鉢などで窓が割れたり、壁に穴が開いているケースが多く目につく。「隣の瓦が飛んできて窓を割り、そこに猛烈な勢いの風が入ってきて屋根が吹き飛んだ」という施設もあった。これらの被害を予測して、一人一人が庭の植木類をしっかりしばっておく、窓が割れないなどの対策をしていたら、多少なりとも減らせた被害もあるのではないか。
行政:能動的な被害状況の把握と、国・県の支援が課題
自治体による住宅の家屋被害の把握については、今も状況確認が長引いているが、これもあらかじめ想定ができていなかったことが大きい。これまでのような地震や水害では、被害を受けた地域がある程度限定できるが、台風被害は広域に及ぶため一軒一軒を訪問するローリング方式でないと被害状況はなかなか把握できない。自治体は避難所の開設状況や避難者の数をもとに被害状況を把握してきたが、風害や停電に対しては避難所に来ない人も多く、こうした被害をどう把握するのかは、今後も大きな課題になる。住民から上がってきた情報だけで被害状況を把握しようとするのではなく、情報が上がってこない空白地帯について、いかに能動的に情報を集めるのか、さらに、電力や通信が使えないことも想定して、準備をしておくことがこれからの危機管理では求められる。
毎日新聞によれば、鋸南町は9月10日の時点で、全ての区長(自治会長)に区内の被害状況を調べて報告するよう要請したが、区長からの報告が出そろっておらず、15日時点でも全容把握ができていないという。本来被害状況を調査すべき職員は被災者対応に追われて人手が足りていない。さらに、市町村をサポートすべき県や国も対応が後手後手になっている。
「国や県から来るはずの派遣職員が来なかった」というような問題については、今回の災害に限った話ではなく近年の災害では毎回のように課題になっているが、市町村に責任を押し付けるような体制を根本的に見直していかなくては同じ問題は今後も繰り返される。国や県の役割は何かを考え、それぞれが当事者意識を持って災害対応にあたり、必要な支援を先手先手で行えるような体制にしておくことが求められる。