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がん検診の受診率は低い。受けない理由は「時間が無い」

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ がん検診をすればがんの重篤化リスクは減らせるが受診率は高くない。なぜか?(写真:アフロ)

がん検診受診率は5割。若年層ほど低率

今や日本で最大の死因として挙げられる「がん(悪性新生物)」。検診を受けることで発症を自覚し、適切な対処を取ることができ、リスクを確実に減らせるのだが、がん検診の受診率はまだまだ低い水準にある。その理由は何だろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2017年1月末に発表したがん対策に関する世論調査(※)から確認していく。

今調査ではがんの対象を特定せず、単にがん検診に関して受診をしたか否かを尋ねている。その結果としては、5割強が2年以内に受診したと回答した。最後に受診したのが2年前より前の人が1割強、そしてまだ一度も受診していない人も1/3に達している。

↑ がん検診受診状況(2016年11月)
↑ がん検診受診状況(2016年11月)

女性特有の検診となる「子宮がん」「乳がん」の検診は基本的に2年おきに実施するものだが、それ以外の部位では毎年行うのが望ましいため、男女ともに「1年以内に受診」の回答が本来ならばあるべき回答。しかしながら該当者は4割強でしかない。男女別では女性の方が検診状況は進んでいるが、これも「子宮がん」「乳がん」の検診啓蒙が一因としてあるものと考えられる。

18歳から29歳の年齢層では「無し」の回答が極めて多いが、これは学生なども含まれており、仕方が無い面もある。しかし就業者ならば法定健診に含まれうるし、そうでなくとも自治体などによって安価にて検診の機会は提供されることから、当事者の検診意識が低いと見ることもできる。もっとも後述する理由からは「時間が無い」との回答が多数を占めており、時間を確保する工夫を仕組みとして提供することが、若年層の検診率向上につながるものと考えられる。また国によるがん検診の指針が子宮頸がんは20歳以上だが、肺がん・乳がん、大腸がんは40歳以上、胃がんは50歳以上となっているのも一因だろう。

40代以降は検診状況にほとんど変わりは無い。がんを自らにも生じうるものとして真剣に認識するのと共に、国の指針によるところも大きい。見方を変えれば40歳以降でも1/4前後は過去に一度もがん検診をしていない人が存在することになる。恐らくは以前に受けてそれきりの人も1割強に達している。

がん検診を受けない、その理由

それではなぜがん検診をしないのか。検診状況で「2年超前に受診」「無し」の回答者にその理由を尋ねたところ、もっとも多くの人が同意を示したのは「受診する時間が無い」だった。30.6%の人が受診に時間がかかる、多忙で時間を割り振る事ができないのが、受診していない理由としている。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2016年11月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2016年11月)

がん検診は対象となるがんの部位毎に受けねばならない。また、医療機関によっては一度に複数部位の検診はできず、複数部位の検査をしたい場合には時間・場所を変えて行う必要がある。たとえ検診の時間そのものが待機時間も含め数時間で済むとしても、平日仕事をしている人には各部位の検診毎に半日・一日の休みの確保が求められる。当然「受ける時間が無い」と回答する人が多いのも納得できる。

次いで多い回答率を示したのは「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」で29.2%。がんを罹患するのは何らかの形で体にトラブルが生じた結果であるとの認識なのか、あるいは健康体、若いうちには発症することは無いとの考えによるものだろう。実際には自覚症状としては健康体そのものでも、がんを発症している可能性はゼロとは言えないので、思い過ごしでしかないのだが。

第3位の「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」もほぼ同じ意味と考えられる。今項目は受診していない人に答えてもらっており、つまりは「今は心配していない(自分はがん罹患の可能性は無いと考えている)から受診していない」となるからである。

その次に多い回答率を示したのは費用負担。15.9%。多数の部位をくまなく検診すると数千円の負担が生じ、検査場所までの交通費も合わせると微額とは言い難い。しかしこれは各種医療制度(例えば年一回の公的な医療検査)を活用することで、最低限の金額に留めることができる。

「がんであると分かるのが怖いから」は11.7%。多分に因果関係の誤認によるもので、「検診したからがんを罹患する」のではなく「元々発症していた人が検査で確認できる」に過ぎない。放っておけば勝手に治癒する事例は無いに等しく、いわば虫歯と同じようなもの。単なる怖さからの逃げは、現実逃避でしかない。

属性別に確認

これを男女別に見ると一部項目を除き、女性の回答率が高いのが確認できる。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(男女別)(2016年11月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(男女別)(2016年11月)

同調査では「がんをこわいと思うか否か」も調査項目として挙げているが、男性より女性の方が「がんが怖い」と考えている人は多く、恐れる理由も多種多様に及ぶ。女性の方が男性よりも高い項目を確認すると、その女性の心理が反映される形となっている。怖いからこそ発症していると確認したらどうしようかと思い、検診を恐れてしまう、検診しなければいけないと思っているが、すぐに受信できるから油断してしまう、うっかりと忘れてしまう。がんへの一定の心構えを持った上で、検診を怠ってしまっている様子が分かる。

他方、時間や金銭といった具体的な余裕の無さ、自分の健康への過度の自信から来る検診忌避は男性の方が高い値が出ている。がんそのもの、そしてがん検診への優先順位は女性と比べ低く抑えられているようだ。

年齢階層別に見ると、それぞれの事情がおぼろげながらも浮かび上がってくる。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(世代別)(2016年11月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(世代別)(2016年11月)

時間の無さは若年層から中堅層が高回答率。高齢者には時間の余裕があり、検診も苦にならない。「経済的負担」もほぼ同じ動き。「健康への自信」はどの年齢階層も大きな違いが無いが、「必要ならばいつでも受診できる」の回答は高齢層の方が高い。がん検診では無く他の健康に関わる部分で医療機関に足を運ぶ機会が増えるからだろう。

また若年層では「がん検診そのものを知らないから」との回答も高めに出ている。これはひとえに啓蒙不足によるものであり、関係方面のさらなる鋭意努力を求めたい。

がんの治療は何よりも「がん」の発見が最重要課題。万一のことを考えれば、時間や費用など今件の上位回答におけるマイナス部分など、比較にもならないほどの小ささでしかない。また過度の自信でリスクを上乗せするのは愚行でしかない。面倒くさがらずに、定期的な検診をお勧めしたい。

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※がん対策に関する世論調査

2016年11月17日から27日にかけて、層化2段無作為抽出法によって選ばれた全国18歳以上の日本国籍を持つ人に対し、調査員による個別面接聴取方式にて行われたもので、有効回答数は1815人。男女比は856対959、世代構成比は18-19歳25人・20代119人・30代224人・40代283人・50代281人・60代397人・70歳以上486人。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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