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民間銀行の信用創造をなくすという、なかなか過激なスイスのソブリンマネー構想

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 スイスでは今月10日に中央銀行にのみ通貨創造を認めるという「ソブリンマネー構想(ソブリンマネー・イニシアチブ)」の是非を問う国民投票を実施する。ソブリンマネー構想とは、民間銀行によって行われている通貨の信用創造の仕組みをなくし、資金量の調節を中央銀行(スイス国立銀行)だけに任せるものである。

 銀行は預金者から預かった現金を準備預金として一定額を残し、残りを貸付にまわす。この貸付金が相手の口座に入金され、その預金のうち準備預金を除いた額が、さらに貸付にまわされることで、銀行全体とすれば預金が膨らむ格好となる。これが信用創造と呼ばれる仕組みである。

 信用創造と呼ばれるように民間銀行の信用を元に、経済規模にあった資金量が調節でき、信用創造そのものが景気の拡大に寄与しているといえる。

 しかし、その銀行がリーマン・ショックなどを経て信用がおけないとして、その機能を最も信用のおける中央銀行に集中させようとするのが、ソブリンマネー構想といえる。これはスイスの経済学者、金融専門家、企業が起草したとされる。

 スイスでは10万人以上の署名があれば国民投票にかけられることで、このような突拍子もない構想も国民投票にかけられる。国民投票にかけられたといえば、2016年に国民投票で否決されたベーシックインカム制度もあった。

 今回のソブリンマネー構想については「金融危機の発生を抑える」という名目であったとしても、もし実施されると民間銀行ばかりでなくスイス経済そのものにも大きな打撃を与えかねない。世論調査の結果では、反対が賛成を大きく上回っており、圧倒的な反対過半数で否決される見通しとされている。

 しかし、ソブリンマネー構想が国民投票にかけられることそのものに注意する必要がある。マネーの動きを規制するにしても、ある意味、資本主義を支えている仕組みのひとつを透明性向上のためとして外してしまうと、金融システムにはかなりの混乱を招きかねず、スイス国内ばかりでなく海外の金融市場にも影響を与えかねない。

 しかも中央銀行が資金をコントロールすれば、リスクは後退し、適切な物価がコントロールできるのかといえば、現在の日本の動向を見ても限界があることがわかる。日銀による長短金利操作付き量的・質的緩和によって、物価を思うとおりに目標に向けては動かせなかったことからも、中央銀行の資金調節が万能というわけではないことを示している。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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