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フジロック第1弾ラインナップ発表 開催に向けて求められる参加者の自覚

レジー音楽ブロガー・ライター
(写真:アフロ)

国内のアーティストでフジロックの歴史を紡ぐ

今年の8月20日から22日に開催される予定の「FUJI ROCK FESTIVAL'21」。今年のラインナップ第1弾が発表となりました。事前に「海外からのアーティストの出演を断念」するというアナウンスがあり、それに対して音楽ファンの間で様々な予測・希望が飛び交っていましたが、ついにその一端が明らかになりました。

去年約束したように、今年は去年の分も含めた2年分のエネルギーで、苗場で楽しめるように進めていきます。でもコロナウィルスの影響はまだ収まった訳ではありません。

どうしたら、またどの様にすれば開催できるのかと思案し続けています。

海外からのアーティストの出演を断念。

感染予防のガイダンスに従い観客数を減らす。

徹底した感染症対策。スタッフはもちろん、来てくれる皆さんの協力が絶対に必要になる。

これが出した結論です。

今年は日本の素晴らしいアーティストとともに、苗場という森と清流に恵まれた大自然の中でコロナ禍の中で開催する「特別なフジロック」を創っていこうと思います。

自然の中で音楽を体験することを、また楽しんでいただけるよう一層の努力をしていきたいと思います。

出典:フジロックフェスティバル2021 日高大将からメッセージが到着!(fujirockers.org 2021年3月26日)

各日のヘッドライナーはRADWIMPS、King Gnu、電気グルーヴ。RADWIMPSは2017年のGREEN STAGEに出演して以来のフジロック、King Gnuは2017年のROOKIE A GO-GO初出演以降一気に増した勢いを受けてのステップアップ、そして電気グルーヴは出演キャンセルや昨年の延期を挟んで2016年のクロージングアクト以来のフジロック登場となります。

ヘッドライナー以外にも、すでにGREEN STAGEでの出演経験のあるCORNELIUS、KID FRESINOやSUMMITの面々といったヒップホップ勢、CHAIやMAN WITH A MISSIONのような海外でも支持を集めているバンド、フジロックらしさを担保する企画「忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER」など、海外アクト不在ながらもバラエティに富んだラインナップが第一弾発表ながら揃いました。

「国内のアーティストのみ」のフジロックということで、今までと全く毛色の違う顔ぶれがそろうのでは?というような声も一部ではありましたが、一見した感じでは「これまでのフジロックの流れを踏襲したラインナップ」に現段階ではなっているように思いました。これに関しては「フジロックらしさ」をどう捉えているかによって印象は異なってくるはずですが、今年のフジロックも「あくまでもこれまでの歴史の連続性におけるフジロック」であるという意識が発表内容からは垣間見えるかなと(ヘッドライナーがこれまでのフジでの実績も考慮されたうえで選ばれていることが象徴的なように思います)。

「これまでの歴史の連続性」という観点でいえば、2018年のWHITE STAGEで強烈なライブを見せてくれたcero(YouTube配信でもその興奮が伝わってきました)がどこまでスケールアップしたパフォーマンスを見せてくれるのか、同じく2018年のRED MARQUEEに出演したAwesome City Clubが「勿忘」のヒット後にどんな姿を見せてくれるのかといったあたりが非常に楽しみです。

もっとも、現時点ではまだ全アクトが発表されたわけではないので、この先さらにインパクトのある名前が出てくるかもしれません。引き続き注目したいと思います。

求められる感染対策

ラインナップにおいては一定の連続性が感じられる一方で、フェス全体を通しては「コロナ禍のフジロック」として従前とは少し異なる対応が求められることになりそうです。

前述の引用部にてスマッシュの日高氏からも「徹底した感染症対策」というメッセージがあった通り、マスクの着用や検温など関連するいくつかのルールが設けられることとなりました。

密室の屋内で行われるイベントではないものの、こういったルールを通して人同士の接触を減らしながら感染のリスクを可能な限り小さくしていこう、そして今の環境下においても楽しめるフェスのあり方を考えていこう、という気概の感じられるアナウンスだと思います。

ただ、広大な会場において、運営サイドが全ての参加者のこういった行動を「取り締まる」ことはおそらく不可能です。「マスク飲食をしていない参加者」を一人ずつ見つけて行動を改めさせる、なんてことはどう考えても無理なはずです。このルール通りにフェスが進行するには、日高氏のコメントの通り参加者自身の意識づけが非常に重要となります。

ここで言及されている「過度な飲酒」や「禁煙」などについては、これまでのフジロックにおいても参加者間におけるハレーションを引き起こしていた実態があります。苗場の開放的な空間であるがゆえに羽目を外したくなる気持ちはその場にいる誰しもが理解できるはずですが、それが度を越した時には「誰かの自由が他人の自由を侵害する」という状況が生まれてしまいます。

「主役は参加者」--フェスを語るうえでたびたび取り上げられる表現です。今年のフジロックに関しては、今まで以上にこの言葉が重要な色合いを帯びてくると思います。

昨年2月のPerfumeのドーム公演の直前中止から現在に至るまで、音楽イベントはコロナ禍においてある種の「悪者」的な役割を押しつけられやすい存在となっています。そういった悪い意味での注目を浴びながら開催されることになるであろうフジロックにおいて、「参加者の制御されない行動」が悪意をもって拡散されるようなことがあったらどうなるか。

1997年に途中中止になった初回を経て開催された1998年(豊洲での開催)や1999年(初めての苗場での開催)のフジロックには、「何かあったらもうフジロックは開催されないかもしれない」というような漠然とした緊張感がつきまとっていました。2021年のフジロックも、運営サイドの思いを参加者やメディアが汲み取ったうえでそれぞれ自覚を持つことが求められそうです。

フェス文化の維持と復活に向けて

ぴあ総研が16日、2020年の音楽ポップスフェス市場に関する調査結果を公表した。市場規模は前年の330億円から97.9%減(323.1億円減)の6.9億円、総動員数も同295万人から96.8%減(285.7万人減)の9.3万人と激減した。

出典:音楽フェス市場 前年比98%減 330億円→6.9億円 ぴあ総研が公表(ORICON NEWS 2021年4月16日)

コロナ禍を通して、日本のフェス市場はほぼ「消滅」に近い状態にまで追い込まれました。感染が再度広がっている現状を踏まえると、市場のこの状況が今年確実に解消される保証はどこにもありません。

「市場の消滅」というのはもちろん産業的な意味合いもありますが、そこに従事していた様々な専門性を持った人々がやむなく廃業するようなことがあれば、日本の音楽シーンが20年以上かけて築いてきた「フェスで音楽を楽しむ」という文化の復活がこの先も難しくなります。

5月のゴールデンウィークにはJAPAN JAM(千葉)とVIVA LA ROCK(埼玉)、中旬にはMETROCK(大阪)と複数の大型フェスが開催予定となっており、それぞれの主催者は感染対策を講じながらどうやってフェスの空間を魅力的なものにするか検討を進めています。そういった努力に参加者がどう応えるか。2021年のフェスでは、参加者の行動が久しぶりのフェスで行われるアーティストのパフォーマンスと同じくらい重要になります。

「2021年の春~夏のフェスシーズンを大過なく終えたことで、日本のフェス市場は新しいフェーズに入った」。そんなことがこの先語られるようになることを願ってやみません。

(※記事内画像はフジロック公式サイトより)

音楽ブロガー・ライター

1981年生まれ。会社員兼音楽ブロガー・ライター。会社勤務と並行して2012年に「レジーのブログ」を開設。作品論のみならず、社会における音楽の位置づけ、音楽ビジネスの変遷、ファンカルチャーのあり方など音楽シーンを俯瞰した分析が話題に。現在は音楽を起点に幅広いジャンルの記事を寄稿。著書に『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(宇野維正との共著、ソル・メディア)、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)がある。

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