『風の谷のナウシカ』の巨神兵。東京に現れた完全体ならどれくらい強いのか?
宮崎駿監督の長編アニメ映画『君たちはどう生きるか』の公開が7月14日から始まり、好評を博していますね。宮崎駿監督が、前作『風立ちぬ』で長編引退宣言をしたこともあり、新作長編作品が公開されたのは実に10年ぶり。1980年代から2000年代に入ってすぐのころまでは、ほぼ2年に1度くらいのペースで宮崎駿監督の作品を劇場で見られていたことを思えば、今回は待ちに待って、ようやく宮崎作品が見られるという感じです。
そんな感慨にふけりながら宮崎駿監督の作品をおさらいしていたところ、劇場作品の原点ともいえる『風の谷のナウシカ』(本作で宮崎駿監督は、原作・脚本・監督すべてを手がけた)を見ていて、人生で数百回目のとある感想を抱きました。
「巨神兵って強過ぎだよなぁ……」
「火の七日間」で世界を焼き滅ぼしたという巨神兵。口からはプロトンビームという光線を放ち、ぶつかった先に溶鉱炉を思わせる爆発と巨大なキノコ雲を発生させます。作中では、大群になれば街を踏みつぶして滅ぼしてしまうほど巨大な虫(王蟲)たちを、ビーム一発で軽々と吹き飛ばしていました。
しかしながら、残念なことにナウシカに登場する巨神兵は不完全な状態で、驚異的な破壊力のビームを撃つものの、すぐに腐り落ちて自滅してしまいます。世界を滅ぼしたという完全な状態の巨神兵の姿は、原作でも映画でもほとんど描かれていません。
そんなときに思い出したのが『巨神兵東京に現る』です。エヴァンゲリオンの庵野秀明監督の企画のもと作られた短編特撮映画で、『巨神兵東京に現わる 劇場版』として『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)と同時に劇場公開されました。
この作品に登場した巨神兵ならば、完全体と言えるのではないでしょうか?
と、いうことで、今回は完全体と思しき、東京に現れた巨神兵の強さを考えてみます。
※ なお、以下の数値はあくまで映像解釈や独自計算から得られたものですので公式設定や見解とは異なる可能性があります。ご容赦ください。
街を焼き払うのにかかった時間は約1分!
映像を見ながら確認したところ、巨神兵は飛来して攻撃を始めてからおよそ1分ほどで街を焼き尽くしています。街には沢山の建物が並んでいて、巨神兵に驚く人たちの姿もありました。しかし、1分後には辺りは火の海のようになり、人の姿は消え失せ、街は原形が分からない状態になってしまいました。
「火の七日間」どころか、わずか1分で世界滅亡!?
かと思いきや、実はまだ世界は全然滅びていません。というのも、巨神兵から見える範囲も、直線状のビームで攻撃できる範囲も限られているからです。
地球上の視界の範囲は限られている
遮る物のない平面上なら、視力が良くて充分な光さえあれば、どこまででも先を見渡すことができます(空の彼方にある星が見えるのと同じ)。
しかし、地球は球体なので、見える範囲には限りがあります。一定の距離が離れたところで地平線(または水平線)になり、その先は見えなくなってしまうのです。
イメージしやすくたとえるなら、ボールを手に持って固定した状態でボールの裏側半分は見ることはできません。それと同じように、球体は見える範囲が限られているのです。
地平線・水平線までの距離(=見渡せる距離)は身長によって変わります。
高いビルや山の上からだと遠くまで見渡せるのと同じイメージです。
上の図を見てください。身長の低い人の視線(黄色)は、×で地球の表面にぶつかります。
一方で、より高い身長から見渡した視線(紫色)より遠い○の位置まで見ることができます。
視界と同様に、直線状のビームを撃った場合も、直線と地球が接する位置までを焼き払うことができるはずです。つまり、巨神兵は、1分の間に巨神兵の身長から見える範囲一帯を焼き払ったのです。
では、その範囲はどれくらいなのでしょうか?
それを求めるには、まず巨神兵の身長を知る必要があります。
巨神兵の大きさはどれくらい?
『巨神兵東京に現る』では、巨神兵は街を飲み込みそうなほどの巨大さで空に現れます。ビームどころか、数歩歩いただけで東京を壊滅できそうなくらいに見えました。ただ、これは遠近法による錯覚だったらしく、少し後のシーンで街中に降り立ったときには、ビルの数倍程度の身長になっていました。
映像を止めながら確認したところ、だいたい巨神兵の膝くらいの高さに、高層マンションの屋根がありました。映像ではもっと低い建物や団地もあったので、膝の高さは、タワーマンションほどは高くない高層マンション(10階建て以上、20階建て未満)と同じくらいだと考えられます。具体的な数字にすると45m(15階建て相当)くらいになるでしょう。
巨神兵の頭身のバランスを、人間と同じだと仮定すると、身長は膝丈の3.77倍くらいになります。これらをもとに計算したところ、巨神兵の身長はおよそ170mほどと推定されました。
巨神兵の高さから見える範囲は?
人間の身長からだと、地平線・水平線までの距離は4km前後になります。富士山頂上の高さから見渡せば200km以上先まで見渡せます。そして、巨神兵の身長からだと、およそ45km先までの範囲を見渡すことができる計算になります。
つまり、巨神兵は約1分の間に、周囲の半径45kmを焼き払ったのだと考えられます。
その面積はおよそ6360平方km。離島を除く東京都のほぼ全域が焼かれてしまったうえ、周辺の都市にまで被害が及ぶほどの広さです。
7日でどれくらいの面積を破壊できるか?
巨神兵が何の前触れもなく突然に東京に現れたことから、巨神兵には瞬間移動に近い高速飛行能力があると思われます。そこで、巨神兵は街に降り立って1分で半径45kmを焼き払い、その後、瞬時に別のエリアに移動し、その一帯を焼くという作業を繰り返したと考えて計算してみます。
すると、1週間で6400万平方キロメートルほどが焼かれる計算になります。
地球の陸地面積はおよそ1億5000万平方キロメートルなので、巨神兵が3体いれば、1週間で地上を全て焼き尽くせてしまいます。
そのうえ、陸地には山や森林、砂漠など、人のいない地域もありますし、人口密集した都市部に限定すれば400万平方キロほどしかありません。目的が文明を破壊することなら、巨神兵1体だけでも余裕でしょう。・・・恐ろしきかな巨神兵!!
ちなみに、前に映画『風の谷のナウシカ』に登場する″腐った″巨神兵で同じような計算をしたら、1週間で陸地を焼き尽くすには数百体の巨神兵が必要だった気がしますから、やはり完全体はめちゃくちゃ強いようです。
なぜ巨神兵は複数体必要だったのか?
これだけ圧倒的な火力がある巨神兵なら、「火の七日間」のミッション(?)は、ほんの数体の巨神兵だけで簡単に完遂できてしまいそうです。そもそも、七日間というタイムリミットを設定しなければ、焼かれた街の復興や人類の抵抗を加味したところで、1、2体で充分世界を壊滅させられるはずです。
しかし、『風の谷のナウシカ』でも『巨神兵東京に現る』でもかなりの数の巨神兵がいたことが示唆されています。
どうして、それだけ大量の巨神兵が必要になったのか。その理由はビームを撃つ際の負荷の問題だと考えられます。
不完全な巨神兵は、ビームを撃つほどに体に負荷がかかり、腐敗が進んでいくようでした。
完全体ならばある程度は負荷に耐えられるはずですが、ビームの出力もより強大になっているため、やはりダメージがあるのだと思われます。だから、1体の巨神兵では焼ける範囲に限界があり、地球を焼き尽くすには何体もの巨神兵が必要だったのでしょう。
ものすごく強いけれど、ビームを撃つほどに弱っていき、いずれは腐り落ちてしまう運命の巨神兵。それでも使命を全うしようとする彼らの思いを想像すると、恐ろしさと同時にちょっと切ない気持ちになりますね。漫画版のナウシカを読んでいる人ならなおさらでしょう。
そう言えば、映画の巨神兵も、ドロドロに腐りながらも懸命にクシャナの命令に従っていました。『風の谷のナウシカ』を見るときには、そんな巨神兵の健気さにも注目しながら見てみてはいかがでしょうか!?