総数4万5826件のうち高齢者は1万9309件…未成年者と高齢者、万引きとの関係
万引きそのものは減る傾向に
商店などでの物品の窃盗行為を万引きとも呼ぶが、特に未成年者(19歳以下)と高齢者(65歳以上)に多いとの印象がある。その実情を警察庁の公開資料「刑法犯に関する統計資料」から確認していく。
まずは直近発表の2022年分も含めた、現時点で取得可能な値を基に作成した、万引き検挙人員の経年推移グラフ。警察庁の資料では、未成年者として公開されているのは14-19歳。14歳未満は「触法少年」の扱いになり、刑法第41条の規定「14歳に満たない者の行為は、罰しない」に従い、刑事処罰されないので、今データにも反映されない。また、店舗内で発生した事案に関して、警察に連絡せずに示談などで済んだ場合も今件検挙数には反映されない。未成年者、高齢者では特にその類の事例は少なからずあることが推測されるが、今件公開値での確認は不可能である。
全体としては2005年までは漸増の一方、そしてそれ以降は漸減傾向だった。2009年は一時的に再び増加に転じたが、それ以降は再減少の動きを示している。この動き自体は喜ばしい話。直近の2022年では前年から4543人の減少。記録のある限りでは最少数を更新している。
これを全体、さらには記事タイトルにもある通り、スポットライトを当てている高齢者(65歳以上)と未成年者(14~19歳)に限定し、その動きを見たのが次の折れ線グラフ。
2022年の未成年者における万引きによる検挙人数は3399人、高齢者は1万9309人。手元にあるデータ(1998年以降)においては、2008年、そして2011年以降は連続しており2022年まで合わせて13回目の「高齢者の万引き検挙者数が未成年者以上」の状態。未成年者の減少、高齢者の増加といった人口そのものの増減、そして未成年者の行動性向の変化も一因だが、留意すべき動きには違いない。
検挙者の人口比率を確認
「高齢者の検挙数増加は大問題」「高齢者そのものも増えているのだから仕方ない」双方の意見とも理解できる。そこで「該当年齢階層人口」に占める「万引き検挙者」の比率を算出し、別の切り口から万引きの現状を推し量る。
1998年以降の人口推移について総務省統計局の人口推計から1歳単位の総人口を取得。その上で絶対人数ではなく、その年齢階層における検挙発生率に該当する値を導き出す。この類の数字は対10万人比が多いのだが、直感的に分かりやすいように対1万人比で各値を算出し、グラフを作成する。
高齢者は微増から横ばい、2013年あたりからゆるやかながらも下落傾向を見せ始めた感はある。他方未成年者はイレギュラー的な動きもあるが、大きな流れとしては減少。直近の2022年では記録のある1998年以降では2021年に続き2回目の、未成年者の値が高齢者の値を下回る結果となった。
この原因について資料では解説は無い。単純に未成年者の人口が減ったからではなく、むしろ万引きをする機会が減っている(個人書店の減少)、監視体制の強化、さらには未成年者の行動性向の変化(スマートフォンなどへの注力)が要因として挙げられると思われる。来年以降も同様のペースで減少を続けるのであれば、そして高齢者と未成年者の値の序列が入れ替わるようなら、さらなる検証が必要となろう。
万引きは窃盗
今回使用した警察庁の「刑法犯に関する統計資料」でも表現方法として「万引き」が使われている。しかしこれは実のところは「窃盗」に他ならない。さらに「万引き」の際に店員や警備員に抵抗し、何らかの暴力を振るった場合(例えば逃走中に警備員を払いのけ、警備員を転倒させただけでも)には「強盗」(事後強盗)に該当し、罪は一層重いものとなる。
「万引き」は得てして心の迷い、気の緩みによるものとされる。しかしそれが本人はもちろん、場合によっては周囲の人の人生を大きくゆがめてしまう。言葉の印象の軽さから軽率に道を外してしまわないよう、くれぐれも注意してほしい。また願わくば、「万引き」という表現そのものを止め、「窃盗」と表記することにより、罪の意識を認識させるようにしてほしいものだ。
なお高齢者の万引きに関しては、対象が食料品であるケースが件数・比率的に多い。このことから「高齢者は貧困により万引きをしてしまう」との解説が見受けられる。
理由の一つとしては確かにその通りではあるのだが、高齢者の行動性向や、他の各種調査(例えば法務省の平成26年版 犯罪白書の特別調査「前科のない万引き事犯者の実態と再犯状況」)を見るに、そのように簡単に説明できる類のものではないのも事実ではある。
今後、高齢者を中心に万引きの理由に関して警察庁からその手掛かりとなる資料が公開されるようになれば、それに関しても精査する必要があるかもしれない。
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