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金利の1%上昇による効果は国民全員に毎年10万円支給と同等か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

11兆円程度の支給を簡単に毎年捻出する方法

 以前に政府が経済の緊急対策で国民一人あたり10万円を支給したことがあった。日本の人口が1億2500万人程度であり、単純にかけ算をすると11兆円程度を配った格好となる。もちろん支給のための多額の費用も必要となるが、その費用も必要なく、この11兆円程度の支給を簡単に毎年捻出する方法が存在する。

 日銀の資金循環統計によると3月末時点での家計の現金・預金は1092兆円程度存在する。

 つまり現在ほぼゼロ%の金利を1%上昇させることで11兆円規模の利子が生まれる計算になる(現金も預金入りするという仮定)。

金利が1%というのは欧米ではめずらしいものではない

 米国の中央銀行にあたるFRBは、5月4日のFOMCで政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標について、0.25%~0.50%から0.75%~1.00%へ引き上げることを決定した。

 イングランド銀行は5日の金融政策委員会で政策金利の1%への利上げを決定している。

 ドイツの10年債利回りは3月あたりまでマイナスとなる場面があったが、ここにきて1%台に上昇している。

 このように金利が1%というのは欧米ではめずらしいものではなくなっている。日銀がよく使うグローバルスタンダードが1%といえる(ECBは出遅れているが)。米国の10年債利回りは3%台に上昇しているぐらいである。

消費者物価が日銀が目標とする2%に達する可能性

 日本では消費者物価指数が低迷しているため、強力な金融緩和を続ける必要があるとして、日銀は無理矢理に長期金利を0.25%に押さえ込んでいる。短期金利はマイナスだ。

 しかし、その消費者物価(除く生鮮)が4月分で日銀が目標とする2%に達する可能性が出てきた。コストプッシュだろうがなんだろうが、物価は上がってきているのであり、それに見合った金利を本来、我々は得られなければならないはずである。

 日本では家計の現金・預金が1092兆円程度も存在することで、金利上昇による効果は大きい。たしかに、金利が1%上昇して得られるはずの11兆円相当がそのまま個人消費に繋がるというわけではない。これは多額の費用をかけて10万円を配った際にも明らかである。

 しかし、費用を掛けずに同様の金額効果を引き出すことが可能となるのも事実である(ただし、預金が偏在しているので必ずしも同等の効果とはならないかもしれないが)。

金利が上がることによる効果

 1万円札の流通量は100兆円を超えているとされる。そのなかにはタンス預金が多く含まれている。しかし、金利が動けば、こういったタンス預金が本当の預金に加わる可能性も出てこよう。

 金利がいざ上がるとなると金利が低いうちに設備投資などを行うとの企業も出てくると予想される。これにより、景気への良い刺激になることも予想される。

 もちろん債務の多い企業や住宅ローンを抱えた個人などへの負の影響もあろう。しかし、0%あたりから1%あたりへの金利上昇はプラス効果のほうが大きいのではなかろうか。これによって金融機関の動きも活性化し、機能不全と化した債券市場も息を吹き返す。

 最もネガティブな影響を受けるのは巨額債務を抱える政府である。しかし、実は予算を計上するにあたり、長期金利の予想水準を1%あたりに置いている(多少の余裕を持つためでもあるが)。国債費の試算のベースとなる2022年度の予算積算金利は「1.1%」となっている。つまり1%あたりまでの金利上昇であれば大きな影響は出てこないはずである。

 ということを書いたが、現在の日銀のスタンスを見る限りにおいて、「金融緩和は止めるな」状態にあり、1%の金利上昇すら夢物語である。その分、我々は本来得られるものを失っているとも言えるのではあるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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