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一人身年金生活者で「貯蓄であと何年不足分をおぎなえるか」を試算する

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ あと何年補てんできるのか。残高とにらめっこ。

一人身の高齢者、特に年金のみを収入源として生活する人が増える昨今、不足分の生活費補てんのための貯蓄の残高にも注目が集まりつつある。足りなければ生活の維持が難しくなり、過分では相続されない限り「死に金」、経済の活性化の足かせとなってしまう。そこで現在の貯蓄であと何年切り崩しができるのか、その期間を総務省統計局が2015年9月に発表した「2014年全国消費実態調査」のうち「単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果」の公開値を元に、試算することにした。

今回対象となる属性は、単身世帯のうち世帯主=本人が65歳以上で無職の人。つまり原則的には年金と財産収入(配当金など)、そして貯蓄の切り崩しを生活費に充てている人である。なお今件における「無職」とは、ズバリ働いていない人。具体的には勤労者(世帯主が会社、官公庁、学校、工場、商店などに勤めている人)では無く、社長、取締役、理事など会社団体の役員である人でもなく、個人営業の人や自由業者でも無い人。

この属性の人の家計収支は例えば次のような状況となっている。男女で収支状況は大きく異なる。

↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・男性)(2014年)(円)(一か月)
↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・男性)(2014年)(円)(一か月)
↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・女性)(2014年)(円)(一か月)
↑ 家計収支の構成(65歳以上・単身・無職・女性)(2014年)(円)(一か月)

この「実収入+不足分」のうち不足分が、貯蓄切り崩しに該当する。

上記収支表から分かる通り、実収入だけでは不足しているので貯蓄を切り崩している以上、貯蓄は減少し、増えることは無い(利子などで増えても些細な額に過ぎない)。国民全体としての貯蓄率が減少をしているのは、この高齢者による貯蓄の切り崩し=マイナスの貯蓄率を示す世帯が増加しているからに他ならない(二人以上の高齢無職世帯でも、貯蓄率はマイナスになる)。最終的には切り崩しができない状態となり、生活困難な状態に陥る。そこで、同じペースで貯蓄を切り崩していった場合、何年間生活費の補てんができるかを試算するのが、今回記事の目的。

次に示すのは男女・年齢階層別の回答次点での貯蓄残高。貯蓄の性質別に大別してある。

↑ 現時点の貯蓄残高(2014年、65歳以上・単身・無職・年齢階層・男女別)(万円)
↑ 現時点の貯蓄残高(2014年、65歳以上・単身・無職・年齢階層・男女別)(万円)

男性は70代後半、女性は70代前半でへこみが生じているが、原因は不明。原値では特に補足説明は無く、定年退職時期のタイミングによる社会情勢の影響も関連性を見出しにくい。また母数もそれなりにあるため、統計的なぶれとも考えにくい。ともあれ、その属性をのぞけば、大よそ1500万円前後が貯蓄残高となる。

他方、貯蓄とひとくくりにまとめているが、その性質は種類別に大きく異なる。通貨性預貯金は流動性が高く(普通預金など)すぐにでも出し入れできるが、定期性預貯金は一度解約してしまうと特典となる高金利は得られなくなるため、利用するのにはハードルが高い。有価証券は時価でよいのならすぐに現金化可能だが、生命保険(貯蓄性のあるもののみ)などは定期性預貯金と同じで一度解約すると(原則として)元に戻せない。

そこで生活費に充当する貯蓄として、「貯蓄高全体」「通貨性預貯金のみ」「通貨性預貯金+有価証券」の3つのパターンを想定し、それぞれのみを用いた場合の充当余力年数を算出したのが次のグラフ。例えば男性60代後半で貯蓄高全体は22.4とあるので、現在男性60代後半の人が手持ちの貯蓄すべてを生活費の補てんに回した場合、あと22年ぐらいは持つ計算になる。

↑ 現時点の貯蓄残高であと何年実収入の不足分を補えるか(2014年、65歳以上・単身・無職・年齢階層・男女別)(年)
↑ 現時点の貯蓄残高であと何年実収入の不足分を補えるか(2014年、65歳以上・単身・無職・年齢階層・男女別)(年)

今件は平均値を元にした試算であり、加えて経年による状況変化も加味されていない。上記の通り、通貨性・定期性預貯金は年の経過とともに利子が上乗せされ、貯蓄性の保険は満期を迎えれば相応額が通貨性預貯金へとシフトする。有価証券は株価の変動に伴い額面が大きく上下する。さらに対象者の歳がかさむに連れて必要となる生活費は医療費などで上乗せされるだけでなく、イレギュラー的な出費もありうる。

それらの影響を無視した上での試算ではあるが、現在の70代前半までは通貨性預貯金の切り崩しだけでは生涯の生活費の補てんは難しいことが分かる。有価証券の切り崩しまで考慮しても、60代後半、女性は70代前半でもギリギリといったところか。逆に70代後半以降になると、通貨性預貯金でトントン、有価証券まで合わせれば余裕で補てんし切れることが推測される。

それぞれの属性が定年退職を迎えるまでにどれだけ貯蓄できたか、貯蓄可能な社会環境にあったかも多分に影響するが、平均余命を考慮すると、70代後半以降は明らかに「自分の貯蓄を生活費として使い切る」には残高が多い。これは遺産を考慮していることに加え、いつ不必要になるかは自分自身でも分からないため、残高が少なくなってくると不安が募るようになることから、少しでも残高は多い方が良いとの考えが強まるのが原因だと考えられる。例えば、いつ陸地に到着するか分からない難破船の中で、いかに残された食料の食べ分けをするかのようでもある。

一方、本人が往生したあとの貯蓄は遺産などとして他の人に譲り受けされ、市場に出回るが、それまでは使われることなく滞留しているとも解釈できる。また、いわゆるライフプラン(金銭的な観点を重視した人生の生涯設計)においては、平均余命を元にお金の出し入れを試算していくことになる。

今件試算から何らかの結論を導くことは控えるが、色々と考えさせられる結果には違いない。

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グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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