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血管を痛めつける「血糖スパイク」をホエイタンパク質が抑制。減量も期待可【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

油断大敵の「隠れ高血糖」それが「血糖スパイク」

「血糖スパイク」という言葉を聞かれたことはありますか?「食事のあとの急峻な血糖値濃度の上昇」を指す言葉です。物を食べ、腸管から糖類が吸収されれば誰でも血糖値は上がるのですが、普通ならばそれに応じたインスリンが分泌され、血糖の上昇幅は一定範囲内に収まります。それを飛び越すような、食後の急激な血糖上昇が「血糖スパイク」です。

「血糖スパイク」は続いても2、3時間なので、健康診断で採用している血糖指標 "HbA1c"だけではなかなかその存在を捕まえることができません。まさに特徴的な症状もない「隠れ高血糖」。気をつけたいものです。

「血糖スパイク」が続くと血管はボロボロに

「血糖スパイク」が生ずると「糖」が血管の内壁(内皮細胞)を傷害します。血管内皮細胞は長時間「糖」にさらされると「酸化ストレス」が増大するためです [文末文献1] 。内皮細胞は血管の健康を維持する大切な細胞たち。これが傷害されると色々と不具合が生じます

(イメージ図) 万国著作権条約に則り引用
(イメージ図) 万国著作権条約に則り引用

その一つが「血液の凝固」。血管の中で血液が固まらないのはひとえに、血管内皮細胞のおかげなのです。その内皮細胞が痛めつけられれば、血管内で血液が固まって発症する「心筋梗塞」や「脳梗塞」など心血管系疾患のリスクが上昇するのも当然でしょう。事実、糖尿病でない人たちでも、1万7千人のデータを解析すると、食後「血糖スパイク」の「ある」人たちではない人たちよりも心血管系疾患で死亡するリスクが増えていました [文末文献2] 。

心臓や脳より細い血管が通っている網膜や腎臓も、当然、悪影響を受けます。血糖スパイクの程度が大きいほど、網膜症や腎臓病になるリスクも高くなるのです。100名以上の日本人を6年間観察した結果を図で示します。

万国著作権条約に則り引用
万国著作権条約に則り引用

食前のホエイタンパク質摂取が「血糖スパイク」を抑制

そこで本題です。この「血糖スパイク」をホエイタンパク質(乳清)で抑制できる可能性が明らかになりました。ホエイタンパク質とはその名の通り、牛乳に含まれるタンパク質です。ヨーグルトの上澄み液などに豊富に含まれていますが、サプリで摂るのが一般的でしょう。

このホエイタンパク質が「血糖スパイク」を抑制するだけでなく、ダイエットにも良い効果をもたらす可能性を、デンマーク・オーフス大学のスタイン・スメデゴール氏らが「米国臨床栄養学雑誌」という学術誌の9月号で発表しました [文末文献3]。この論文誌は米国腎臓学会の公式ジャーナルです。信頼性は高いと考えて良いでしょう。

スメデゴール氏らが今回解析したのは、血糖などになんの作用も持たない「対照食」と「ホエイタンパク質」を比較したランダム化比較試験のデータです。合計250人弱となる16の試験が見つかりました。

ランダム化試験:比較する群をくじ引きで割り振る試験。どちらかの群が有利になるような人為性を排除できるので信頼性は高い。

その結果、食前に「ホエイタンパク質」を摂取すると「対照食」に比べ、食後血糖値の上昇が25 mg/dL抑えられていました。血糖スパイクが抑制されたのです

「痩せホルモン」GLP-1もホエイタンパク質で増加

それだけではありません。「GLP-1」というホルモンも、ホエイタンパク質食前摂取で増える可能性が示されました。 「GLP-1」は今話題の「痩せホルモン」。腸管から分泌され脳に「もう満腹」という指令を送ります。その結果、食欲は自然に落ち着き、体重も減ります。その「GLP-1」がホエイタンパク質の食前摂取で増えていたのです。

おしまいに

いかがでしたか?健康診断で糖尿病を注意されなくても「血糖スパイク」という恐ろしい「隠れ高血糖」が存在し、しかし食前にホエイタンパク質を摂ればこの「血糖スパイク」は抑制され、おまけにダイエットにも良い影響があるかもしれないという論文でした。

「痩せホルモン」GLP-1については以下の論文紹介記事も書いています。こちらもぜひお読みください。ではまた!

話題の「GLP-1ダイエット」。薬を使わず同じ作用を期待できる食べ順がこれ

今回ご紹介した論文

  1. 「血糖スパイク」は酸化ストレスを増大させ、血管を痛めつける [英語]
  2. 「血糖スパイク」があると心血管系疾患で死亡するリスクが上がる [英語]
  3. 食前のホエイタンパク質摂取は「血糖スパイク」を抑制しGLP-1も増やす [英語]

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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