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40歳以上の有病率8.6% 肺気腫などCOPDの息苦しさを和らげるモルヒネ治療に新知見

大津秀一緩和ケア医師
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、肺気腫や慢性気管支炎などの、呼吸時の空気の通り道の気管支や肺に障害が起きて呼吸がしにくくなる肺の慢性病で、喫煙との深い関わりが指摘されています。

COPDの総患者数は約26万人(厚生労働省「平成26年患者調査の概況」)で男性18万3千人、女性7万9千人です。

しかしこれは全数ではなく、日本人の40歳以上のCOPDの有病率は8.6%、患者数は530万人と推定されています【NICE study】。COPDであることに気づいていなかったり、診断されていなかったりがあるのです。

実態に比べると、よく認知されているとは言い難い状況は存在するでしょう。

肺や気管支が進行性に障害され、 現在の医学では完全に治すことはできないため、治療は進行を遅らせることがポイントになります。

症状は息苦しさや咳、たんなどの呼吸器の症状が中心です。病気の進行で肺が十分に酸素を取り込めなくなると、身体が低酸素の状態になります。

一定の基準を満たすようだと、在宅酸素療法といって、自宅あるいは携帯用で酸素吸入器を使って酸素を供給する治療法が必要となります。これには健康保険が使えます。

今月、有名医学雑誌のJAMA(米国医師会雑誌)である研究が論文化されました。それはこのCOPDに医療用麻薬であるモルヒネが安全に使用できたというものです。なぜCOPDにモルヒネが使用されるのでしょうか?

息苦しさの緩和とモルヒネ

モルヒネなどの医療用麻薬はがんの痛み止めとして用いられます。

一部の理解と異なり、意識をボーッとさせて痛みを取るのではなく、痛みの伝達経路に働きかけることで鎮痛効果を示します。

実は鎮痛効果だけではなく、モルヒネなどには息苦しさの緩和効果や、咳を抑える効果もあり、肺がんや肺に転移があるがんの患者さんの症状緩和にも用いられています。

COPDの呼吸困難にも効くことは現場では認められるのですが、一方でこの病気の特性がしばしば医療者を慎重にさせていました。

それはCOPDの呼吸抑制への懸念です。

セオリーに則した治療では起こることはかなり少ないのですが、患者さんの状態に比して大量の医療用麻薬を使用することで、呼吸中枢に影響が及ぶ可能性があります。

実は先日紹介したALSなどの神経難病と同様に、COPDも緩和ケアの保険適用とはなっておりません。

そのため、緩和ケア科が積極的に関わるという形にはなっていませんが、病気の性質上息苦しさなどが患者さんの生活の質を下げるので、主として診療する呼吸器内科から筆者もたびたび症状緩和について相談される機会がありました。

また在宅医としてCOPD患者の症状緩和に携わった経験もあります。

その際に、関わる医療者からよく為される質問として「本当にモルヒネを使って大丈夫ですか?」というものがあります。

要するに、呼吸抑制を起こして患者さんの状態をより悪くしたり、危険な状態に陥らせることはないのか? というのです。

今回発表された研究結果は、それに答えるものとなりました。

低用量の安全性は問題なさそう

次が論文へのリンクです。

Effect of Sustained-Release Morphine for Refractory Breathlessness in Chronic Obstructive Pulmonary Disease on Health StatusA Randomized Clinical Trial

研究はオランダで行われ、科学的な根拠性が相対的に高くなるランダム化比較試験です。

息切れの評価尺度(修正MRCスケール)で中等度から最重度の息苦しさがある111人のCOPD患者に、20mg/日のモルヒネを4週間使って効果と副作用をみています。なお20mg/日のモルヒネとは、がんの痛みでのよくある開始量と同等で、確かに多い量ではありません。

結果、息苦しさが重いケースでは症状が緩和されることが示唆されました。

そして本研究において重要な知見となるのは、この量において血中の二酸化炭素濃度はモルヒネ使用群と非使用群で差がなく、深刻な副作用もなかったということです。安全性に関しては特に懸念される結果ではありませんでした。

生活の質に関係する息苦しさの緩和を

今回の研究ではモルヒネが劇的に効くとまでの症状緩和は示さなかったものの、安全に使用できることもわかりました。

COPDには吸入薬などの薬物治療も発達していますし、酸素療法、禁煙、肺のリハビリテーションなどの様々な治療・ケアの組み合わせが大切です。

しかし現場ではそれでも慢性的な息苦しさなどに苦しむ患者さんがおられ、そのような場合の治療の選択肢としてモルヒネなどの医療用麻薬があります。

2020年現在、保険適用があるがんや末期心不全等以外にも、生活の質を損ねる疾患は多数あり、本来はそれら疾患にも緩和ケアの診療報酬が認められればと思いますが、制度が関係することなのですぐに変わるのもまた難しいとは思います。

COPDにも苦痛緩和の方法はあるのだということが周知され、苦しむ方には適切な症状緩和の治療が提供されることを願ってやみません。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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