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アトピー性皮膚炎治療薬デュピルマブの投与間隔延長について皮膚科医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

今回は、アトピー性皮膚炎治療薬であるデュピルマブの投与間隔延長について、最新の研究結果をもとにお話ししたいと思います。

アトピー性皮膚炎は、慢性的な皮膚の炎症を特徴とする疾患で、かゆみや皮膚の乾燥、発赤などの症状が現れます。近年、この疾患の治療に生物学的製剤のデュピルマブが用いられるようになり、多くの患者さんに効果を示しています。

【デュピルマブの標準投与方法と投与間隔延長の背景】

デュピルマブは、IL-4とIL-13という炎症を引き起こすタンパク質の働きを抑える薬剤です。通常、成人の患者さんには初回に600mgを投与し、その後は2週間ごとに300mgを投与します。この投与方法は効果的ですが、症状が安定している患者さんに対しては、投与間隔を延長することが提案されています。

投与間隔を延長するメリットとしては、過剰な治療を避けられること、副作用のリスクを減らせること、そして医療費の削減につながることが挙げられます。実際に、乾癬やリウマチ性疾患の治療では、このアプローチがすでに実践されています。

【デュピルマブの投与間隔延長に関する研究結果】

では、デュピルマブの投与間隔延長は本当に効果的なのでしょうか?この疑問に答えるべく、いくつかの研究が行われています。

LIBERTY AD SOLO-CONTINUE試験では、422人の患者さんを1週間/2週間、4週間、8週間の投与間隔グループに分けて比較しました。その結果、36週間後の時点で、1週間/2週間と4週間のグループ間で皮膚の状態を評価するEASIスコアに有意な差は見られませんでした。一方、8週間のグループではEASIスコアの改善度が低下していました。

また、オランダで行われた90人の患者さんを対象とした研究では、2週間ごとの投与と4週間および6~8週間ごとの投与を比較しました。6か月後、4週間および6~8週間のグループでEASIスコアの有意な増加は見られなかったものの、6~8週間のグループではかゆみの評価スコアが上昇していました。

【投与間隔延長の適応となる患者さんの特徴】

それでは、どのような患者さんが投与間隔延長の適応となるのでしょうか?フランスで行われた88人の患者さんを対象とした研究では、以下の3つの要因が特定されました。

1. 副作用ではなく、症状が安定しているために投与間隔を延長すること

2. 高齢であること

3. ステロイド外用薬の使用量が少ないこと

これらの要因を満たす患者さんでは、投与間隔を延長しても効果が持続する可能性が高いと考えられます。

【日本の状況と筆者の見解】

日本でもデュピルマブはアトピー性皮膚炎の治療に広く使われていますが、投与間隔延長についてはまだ十分な研究が行われていないのが現状です。しかし、欧米の研究結果は日本の医療現場にも応用可能であり、今後の治療ガイドラインの改訂に影響を与える可能性があります。

デュピルマブの投与間隔延長は、適切な患者さんを選択することで効果的な治療法になり得ると考えます。ただし、患者さん一人ひとりの状態を慎重に評価し、個別化された治療方針を立てることが重要です。今後、日本でもさらなる研究が行われ、最適な治療法の確立に向けた取り組みが続けられることを期待しています。

アトピー性皮膚炎は、患者さんのQOLに大きな影響を与える疾患です。デュピルマブは、この疾患の治療に新たな選択肢をもたらしましたが、投与間隔延長はさらなる治療の最適化につながる可能性を秘めています。皮膚科医として、患者さんに最適な治療を提供できるよう、今後も研究と臨床の両面から尽力していきたいと思います。

参考文献:

1. Spekhorst LS, et al. "Patient-centered dupilumab dosing regimen leads

to successful dose reduction in persistently controlled atopic

dermatitis." Allergy, 2022.

2. Patruno C, et al. "Dupilumab dose spacing after initial successful

treatment or adverse events in adult patients with atopic dermatitis: A

retrospective analysis." Dermatol Ther, 2022.

3. Worm M, et al. "Efficacy and Safety of Multiple Dupilumab Dose

Regimens After Initial Successful Treatment in Patients With Atopic

Dermatitis: A Randomized Clinical Trial." JAMA Dermatol, 2020.

4. Jendoubi F, et al. "Longer dupilumab dosing intervals in adult

patients with atopic dermatitis: experience from a French multicentre

retrospective cohort study." Br J Dermatol, 2022.

5. Ardern-Jones MR, et al. "Successful Dose Reduction of Dupilumab in

Atopic Dermatitis." Br J Dermatol, 2023.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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