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なぜ「ヘンテコな採用活動」はなくならないのか? 人気企業こそ「社会最適な採用活動」をして欲しい!

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「では、一発芸をお願いします!」(写真:アフロ)

■「ヘンテコな採用活動」はなくならない

私の本業は企業をクライアントとする人事コンサルタントですが、最近就活生や転職活動希望者にお話をさせていただく機会が増え、就職や転職を考えている方々の悩みに触れることが多くなりました。

そこで感じるのは、ある種の「無力感」です。というのも、彼らから様々な企業の「ヘンテコな採用活動」を聞き、一体どうすればいいのかと尋ねられるからです。

私としては、本質的にはこうすべきという意見はあるものの、おかしな採用活動に本質的な方法で対応しても、単に落とされてしまうだけかもしれません。そう考えると「ヘンテコな就職活動」をお伝えするしかなくなってしまうのです。

■学生間で流布する「都市伝説」は本当だった

実は私は以前、日経電子版で「シューカツ都市伝説を斬る!」という連載をしていたことがあります。人事担当者の立場からすると、学生の間で流布している就職活動についての噂や常識には、おかしなものがたくさんあるように見えました。

そこでそれらを「そんなことないですよ」ときちんと訂正することで、就活生が妙なことで悩む必要がなくなると思ったのです。そして、変な噂や常識を一体誰が作っているのか、誰がそんなアドバイスを学生にしているのか、と腹立たしく思ったものです。

しかし今思えば、それは傲慢であり過信でした。残念ながら現実の企業の採用活動は、今でもヘンテコなことだらけです。おかしな噂を訂正しているつもりが、単に「理想はこうあるべき」と言っているだけだったのかもしれません。

例えば、学生に対してエントリーシートや1次面接など初期の頃から「志望動機」を聞くのは、ちょっとヘンテコかもしれません。学生はたくさんの企業の中から候補になりそうな企業へ気軽に応募しており、最初からその企業を志望しているとは限りません。

それなのに「当社を志し、入社を望んだ理由」などを聞いても、嘘が語られるだけです。聞くべきは志望動機ではなく「その人が企業や仕事を選ぶ基準」でしょう。それなら嘘もなく、応募者のことを知ることができます。

■例えば、「自己PR」や「ガクチカ」は本当に必要なのか

最初のエントリーシート(ES)もヘンテコです。自己紹介や自己アピールならまだわかりますが、「自己PR」欄のPRとはPublic Relationsであり、まず言葉がおかしい。「強み・弱み」欄も、人の性質は仕事によって強みにも弱みにもなるので「自分が認識している自分の特徴」とでもするべきでしょう。

それに加えて「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」が並んでいたりするのですが、「自己PR」とどう書き分ければよいのか、多くの学生が悩んでいます(私もわかりません)。そもそもキャリアのない新卒学生が、事前にESを出す必要はあるのでしょうか。評価の妥当性も怪しいですし、なくても面接は可能なはずです。

「ガクチカ」は面接でもよく聞かれる質問の代表格です。私も模擬面接などで聞くことはあるので他人のことは言えませんが(実際に多くの面接で聞かれるので対策が必要だから)、悪い質問とまでは言えないものの最適な質問ではないと思います。

なぜなら、力を入れたことの多くは「好きなこと」「自発的に行ったこと」であり、仕事で多い「義務」「責任」「トラブル対応」「嫌でもやらねばならぬこと」の話は聞けないからです。好きなことを頑張れるのは当たり前です。専門職などは好き度合いで評価されるのもアリだと思いますが、一般的な総合職の質問としてはどうでしょうか。

■「ヘンテコ採用」に気づけない人気企業

今回の本題は「ヘンテコ採用」自体ではないので、例示はこれくらいにしておきますが、他にも採用活動でおかしなことはたくさんあります。

ふつう世の中では、ヘンテコなことをしていれば、そのうち淘汰されていき、やがてはなくなっていくはずです。しかし、現実の採用活動においては、人気企業や有名企業が率先してヘンテコなことをしていることも多いのが痛恨です。

なぜなら、そういう企業は多少ヘンテコなことをしていても、大量の応募者がいるために最終的には優秀な人材を採用できてしまうからです。ヘンテコなことをしていても採れているだけなのに、「ヘンテコなことをしているから採れている」と勘違いしているのかもしれません。自分たちのヘンテコさに気づけないのです。

人気企業がおかしな採用をしていると、就職活動対策全体が「ヘンテコ採用」への対策になってしまうのも仕方ありません。「人は第一印象でわかる」と勘違いする面接官には、第一印象をいかによくするかという対策が必要になります。志望度で評価をする企業には、本当はどうあれ、いかに志望度が高いのかを伝える工夫が必要になります。

応募者の経験事実を聞いて、そこからその人の能力や性格を推測する技能のない面接担当者がいれば、「自己PR」を美辞麗句で練り上げねばなりません。そして、それが就職活動のテクニックとして教えられ、流布していくのです。本当はそんなことをする必要はなかったとしても。

■「社会にとって」適切な採用活動を

私のような力なき者の声が届くかわかりませんが、それでも声を大にして言いたいのは、人気企業の採用担当の皆さんが適切な採用活動をしてくれなくては、結局世の中はどうにも変わらないということです。

適切な採用活動とは「自社にとって」ではなく「社会にとって」という意味です。人気企業は応募者が募集の何百倍も来るので、最初は適当に選別しても「自社にとって」は問題ないかもしれません。しかし、社会的な悪影響は多大なものです。

少子化の日本において、学生は希少な宝です。彼らに無駄な就活対策をさせたり、マッチングを阻害したり、ましては就活をトラウマにして心を折ったりというようなことを企業はしてはいけません。影響力の大きな人気企業ほど「社会最適な採用活動」をして欲しいと願います。

キャリコネニュースにて人と組織に関する連載をしています。こちらも是非よろしくお願いします。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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