「ゴルフ」のチカラで命をつなげ。白いリボンとJ・ニーマンの願い
今週の米ツアー大会、マヤコバ・ゴルフ・クラシックに出場している選手たちが、キャップに白いリボンを付けてプレーしている。黒いリボンは喪章だが、黒以外のリボンを選手たちが付ける場合、その多くは特定の誰か、何かに対する人々の支援を求めるものだ。
今週の白いリボンを試合会場に持ち込んだのは、チリ出身の22歳、ホアキン・ニーマンであることがわかった。2019年にグリーンブライア・クラシックで初優勝を挙げ、米ツアー初のチリ人チャンピオンになった選手だ。
ニーマンの生まれたばかりの従弟(いとこ)、生後1か月のラフィータくんは、生まれて間もなく、脊髄性筋萎縮症という1万に数人の難病と診断され、そのままだと「長くても2年ぐらいしか生きられない」と医師から告げられた。
命の灯を消さないための唯一の方法と言われているのは、ゾルゲンスマという新薬。「ゾルゲンスマはスイスの製薬王手ノバルティスの薬。筋力を低下させる脊髄性筋萎縮症にかかった2歳未満の子に投与する。体内に遺伝子を入れて病気を治す治療薬」(日本経済新聞2020年5月14日付け)だそうで、日本では「1度の投与で1億6707万円という国内最高額の公定価格が付いた」薬だが、厚生労働省が保険適用とすることを今年5月に決めたばかりだ。が、ニーマンの母国チリでは2ミリオン(=2億円超)以上を要するという。
ニーマンは、その費用をなんとかして作り出そうと思い立ち、2週前のRSMクラシックと今週のマヤコバ・ゴルフ・クラシックにおける自身の獲得賞金全額を寄付することを決めた。さらに、バーディーを1つ取るごとに5000ドル、イーグルなら1万ドルを追加で寄付することにした。
そしてニーマンは、白いリボンが山ほど入った袋を試合会場へ持ってきて、1番ティと10番ティに置いた。試合に出ている選手やキャディにリボンを付けてもらい、従弟のラフィータくんの病気のことを社会に広めてもらうためだ。
リッキー・ファウラーやジャスティン・トーマス、トニー・フィナウといった米ツアーの仲間たち、そして地元メキシコの大会関係者たちも、みなリボンを袋から取り出し、それが何のためのリボンであるかを知り、「そうなんだ」「頑張れ」と頷きながら、キャップや洋服に付けているのだそうだ。
ニーマンはクラウドファンディング「GoFundMe」でもラフィータくん支援ページを立ち上げ、すでに12万ドル以上が集まっている。
そうやって、ニーマンは、できること、考え付くこと、すべてを行ない、そして今週、できる限りの好成績を出して少しでも多くの賞金を稼ごう、できることなら優勝を飾って129万6000ドル(約1億3400万円)をラフィータくんに贈ろうと必死だ。
「今、僕は自分のために戦うより、もっと大きなもののために戦っている。ラフィータのために頑張る。それは今、僕のモチベーションのすべてになっている」
初日を5アンダーで回ったニーマンは首位に1打差の2位タイと好発進。あと3日間、ラフィータくんも、世界中の人々も、大健闘を祈ってくれているはずだ。
がんばれ、ニーマン。がんばれ、ラフィータくん。私も「ゴルフ」が命をつなぐ力になってくれたらと願いながら、微力ながら、ペンを執った。