子ども獲得のため競争が激化 「完璧に運営しないと」 一人っ子政策が終了した中国の幼稚園の今
「教育費に国防費の3倍の予算」を使う教育熱
中国は急速な経済発展を遂げる一方で、1979年から2015年末まで40年近くにわたって続けてきた「一人っ子政策」のために激しい少子高齢化が進んでいる。そこで2015年末でついに「一人っ子政策」は終了し、2016年からは2人以上、2017年からは3人以上の子どもを持つことが許されるようになった。子どもの数が着実に増えていく中、恐るべき勢いで増えているのが、特に富裕層向けの「幼稚園」だ。中には学費が日本円にして年間140万円を超える園さえもある。
実は中国では、0〜2歳の子どもに対する保育施設はほとんど整備されていない。長らく続いた一人っ子政策のために1人の子どもには4人の祖父母がおり、親が働いている間も、彼らに子育てを頼ることができる人が多いこともその理由のひとつだ。
一方、3〜5歳の子どもの幼稚園は、3年間の「就学前教育」として制度的に位置づけられている。現在、幼稚園への入園率は中国全体の平均で79.4%にまでに上がったという。
特に急速な経済発展を遂げた都市部では富裕層が増えたこともあり、学費は高くても環境が整えられた良い幼稚園にわが子を通わせたいという教育熱心な家庭が増えている。「一人っ子政策」が終わっても教育費の高騰などから2人以上の子どもを持つことを躊躇する人も多いと言われるほど、中国国内の家庭での教育熱は高まっているという。個人レベルだけの話ではない。中国では2013年に「教育費に国防費の3倍のお金を配分している」(丹羽 2014)というほど、国を挙げて教育の発展に取り組んでいるのだ。高等教育については、すでに世界ランキングでもトップクラスに入るような大学があることが知られているが、中国の「幼稚園」がどのようなものなのかは、あまり知られていない。そこで今回は、中国西南部の内陸地域にある成都・重慶・武漢の3つの大都市にある「幼稚園」を訪れ、日本ではまだほとんど知られていない中国の幼児教育の現状についてお伝えすることにした。
お城のような外観、人工芝のサッカーコートを備えた英才教育幼稚園(四川師範大学元迪龍城実験幼稚園)
日本から飛行機で約6時間あまり。ジャイアントパンダの繁殖地としても知られる四川省成都は中国西南部の内陸部に位置する。2016年3月にこの地にオープンした四川師範大学元迪龍城実験幼稚園を訪れた。園の周囲はいかにも高級住宅街という風情。町並みは美しく整備され、高層マンションが建ち並んでいる。
この園は私立の幼稚園で、インターナショナル・バカロレアクラス(国際部)と、一般部の2つの幼稚園がある。中国の学校について「私立」という場合、国から親への補助金を受けず、親が完全に自費で学費を支払うタイプの学校を意味する。こちらの国際部の授業料はこの地域では最も高く、日本円にして年間140万円程度、一般部でも年間80万円程度かかるそうだ。日本の私立幼稚園の月謝は地域によって違うが都市部でも2万5000円から〜3万5000円程度なので、一般部に通ったとしても一般的な日本の私立幼稚園に比べれば授業料はかなり高い。国際部なら、日本のいわゆる「お受験」を経て入園する有名私立大学付属の幼稚園と同じくらいかそれ以上の金額になるだろう。どのような家庭の子どもたちが通っているのか尋ねたところ、一般部の子どもの両親はほとんどが共働きだが、国際部の子どもたちは、父親が会社を経営しているなど特別に裕福であることが多く、母親が働いている家庭は少ないという。
保護者も鉄道の改札のようなゲートにIDカードをかざして入るというセキュリティの厳しい入口を入り、まずはとんがり屋根が特徴的なお城のような園舎の国際部を見学した。驚いたのはこのとんがり屋根の園舎の入口には温度センサーが設置してあり、熱がある子はそこでチェックされ、熱があるとわかるとそのまま入口近くの保健室に誘導されるということだ。日本の保育園では、毎朝、保護者が子どもの体温を測って連絡帳などに記入していくが、親がいちいち測らなくてもセンサーで自動的にチェックされる仕組みなら、保護者にとってもありがたいし、園にとっても体調の悪い子どもを正確に把握できるため、園全体の安心にもつながるはずだ。保健室には看護師が常駐しており、簡易ベッドがおかれていた。壁には病気についての説明が書かれたパネルが掲示されており、ちょっとした小児科の診療室のようだった。
子どもたちが過ごす保育室に行ってみた。ちょうど、子どもたちがお昼寝から起きたところだった。「幼稚園」といっても日本のように午後2時過ぎ頃の早めの時間に帰るわけではなく、おやつや給食、お昼寝もあり、保育時間は夕方までと、実際には日本の保育園と同じような役割も果たしている。保育室にはお昼寝用に子ども一人に1つずつのベッドが置かれ、子どもが自分の使った布団やシーツをキレイに畳んで片付けている。着替えもみんな自分で行っていた。このベッドは使い終わると積み上げて収納できるようになっており、清潔に管理されている。3〜5歳の子どもはこうしてお昼寝をするのが日課になっている。
環境に配慮した保育室の内部
別の建物にある、一般部の保育室にも行ってみた。そこでも国際部と同じように子どもたちのさまざまな活動の様子が見られた。先生たちの工夫で、子どもたちの制作物を壁などあちこちに美しく展示されているのが目を引いた。
室内は子どもたちが自由にペンなどを使って絵を描いたり、工作したりするなどの制作活動ができるよう、画材や用具類が使いやすいように種類別に整えられている。適度にグリーンが配置され、自然の枝などを使って子どもの作品を展示しており、幼児教育を行う施設として環境はとてもよく整えられている。
驚いたのは、幼稚園の先生の制服だ。こちらの園だけでなく、この後訪れたすべての園で先生はほとんどがミニスカートで、中には航空会社の客室乗務員のような制服を着ている園もあった。日本では先生の服装は園によって違うがパンツルックのことが多く、Tシャツやポロシャツがおそろいの「制服」になっている園も多い。もちろん先生がスカートをはいている園もあるにはあるが、膝上丈のミニスカートをはいている幼稚園の先生には出会ったことがない。
そこで1人の先生に、「ミニスカートでは、子どもたちと一緒の活動がしにくくないですか?」と尋ねたところ、「普段はズボンのことも多いんです。でも、お客様がお見えになるときはこの服です」と話してくれた。つまりこれが先生としての「正装」なのだ。一方、子どもたちの服装については、国際部では制服があるが、一般部では服装は自由だった。
こちらの幼稚園では1日2回、朝食と昼食の給食のほか、午後のおやつが1回出る。筆者も子どもたちと同じおやつをいただいた。カップケーキとクッキーは手作りで、きれいにデコレーションされている。ケーキのスポンジはフワフワで柔らかく、ほどよい甘さ。とにかく美味しかった。おやつにはほかにライチやスイカ、ブドウなどの果物も添えられており、どれも新鮮でとても美味しかった。
誰でも通える庶民派の幼稚園もゴージャス(春田里幼稚園)
前出の四川師範大学元迪龍城実験幼稚園から歩いて5,6分のところにある、春田里幼稚園。同じ地域にありながら、こちらは、いわゆる「公立」と呼ばれる、保護者が国から出る補助金を利用して安く通わせることができる比較的庶民的な幼稚園だ。1ヵ月の保育料は570元(約9440円)、毎日3食分の給食費が月480元(約7950円)で、3〜5歳の子ども1人につき、毎月国から補助金が240元(約3970円)支給されるという。「庶民的」な園とはいえ、周辺は高級な住宅街。園の周辺には英語や計算などの塾の看板を掲げたビルが立ち並んでいる。
園庭には人工芝が敷き詰められ、タイヤを使って手作りした「はらぺこあおむし」の遊具が目を引く。ほかにも、やかんや鍋などの台所用品を使い子どもたちが打ち鳴らして遊べる遊具も置かれている。これらはすべて警備員さんが手作りしたというから、そこにはやはり「庶民的」な雰囲気がある。園の裏庭には野菜畑もあり、子どもたちが季節の野菜を栽培している。畑には日本で見かけるのとよく似た「かかし」が立っていた。
授業形式でも自由に意見を言える活動
3歳児の教室を見せてもらった。教室の前には「黒板」ではなく大きなモニターが置かれていて、先生はコンピュータを使いながら子どもたちに説明することも多いという。今日は「はさみ」を人に渡すとき、どのようにしたら良いかを考える活動。授業形式で、先生が実際にはさみを持ってやり方を見せながら、どうすれば危険がなく相手にはさみを渡すことができるか、子どもたち自身に考えさせて、発表させていた。子どもたちはみんな静かに座って先生の話を聞いたあと、指名された子が立ち上がり、友達に実際にはさみを渡す。刃先を友達に向けてしまった子には「そうかな?」と先生が問いかけると、子どもが自分で気付いてはさみを持ち替え、持ち手の方を向けて渡していた。日本の小学校の授業のようなスタイルだが、子どもたちが自分の意見を言うシーンも多く、自由なやりとりが行われていた。先生はヘッドセットとマイクを付け、子どもたち全員に聞こえる大きさで、実に丁寧な言葉とアクションで子どもたちに説明していて、とてもわかりやすかった。
この園で目を引いたのは、女の子たちのヘアスタイルだ。女の子のほとんどが、髪を伸ばし、カラフルなゴムをいくつも使ってキレイに結んでいる。家からこのヘアスタイルで登園するが、お昼寝のために髪が乱れるため、お昼寝から起きた後には、先生が髪をきれいに整えてゴムで美しく結んでくれるのだという。女の子たちの髪を整えるためのカラフルなゴムも部屋にちゃんと用意されていた。髪をきれいに結んであげることも先生の仕事の一つなのだと聞いて驚いた。
園が300万円かけて行う年1回の発表会が大人気(重慶愛貝貝国際幼稚園)
北京を抜いて、現在、中国で人口が最も多い都市である重慶。長江と嘉陵江という2つの大河が交わる場所にあり、昔から発展している工業都市でもある。その重慶に4つの園を展開している幼稚園グループの1つの園が「愛貝貝(アイ・ベーベー)国際幼稚園」だ。女性オーナーのココさんは、裁判官の妻で専業主婦だったが、2人の子どもを育てているときに幼児教育の重要性に気付き、子育てのかたわら大学院に入学して幼児教育を学び、その後、自ら幼稚園を開園するに至ったというパワフルな女性だ。この園にはそんなココさんの子どもに対する熱い思いが貫かれている。
月謝は月6000元(約9万9000円)と高額で、補助金を使わないタイプの完全な私立幼稚園だが、現在240人ほどの子どもが在園しているという。在園している子どもたちはみな一人っ子で、両親共働きの家庭が多いそうだ。毎朝、園には両親または祖父母が子どもを送ってくる姿が見られた。中国では最近「キックスケーター」が流行中。幼稚園への登園も、キックスケーターに乗って来ることがよくあるという。玄関にはキックスケーター置き場があったが、日本でよく使われる「ママチャリ」の姿は見かけなかった。
先生の配置が多く、手厚い幼児教育
園では英語での教育が行われている。1クラス25人で、そこに1人の英語ネイティブの外国人の先生と、3人の中国人の先生がつく。ちなみに、中国の法律で定められている幼稚園の先生の配置基準は、先生1人に対して子ども10人。一般的な園では1クラス30人で、保育士は3人いなければならないそうだ。ここでは全部で4人の先生が25人の子どもと関わるので、基準よりもずっと手厚いことがわかる。
おやつの時間には、子どもたちが配膳している先生から自分のおやつを運び、自分の席についておやつを食べるが、その間、1人の先生が子どものそばにつき、子どもが食べている様子の写真をスマホで撮っていた。日中、子どもと離れて忙しく働いている両親のために、日々の保育中に写真を撮影してメールで送っているのだという。この園では朝の給食はなく、昼とおやつだけだが、いずれもすべて園内の設備で調理されている。
園内の装飾はとてもポップだ。1クラス25人の子どもたちは、活動のための部屋、トイレなどがある真ん中の部屋、お昼寝のために使う寝室と全部で3つの部屋を使っているが、それらの3つの部屋の壁にはカラフルな色彩で絵が描かれている。
この幼稚園では毎年中国の「こどもの日」である6月1日に、日本円にして約300万円をかけた発表会を行っている。重慶市内でいちばん大きな劇場を借りて、子どもたちが歌や劇を披露する、というものだ。プロの演奏家や芸術家を招くこともあり、先生たちも衣装を着て歌や劇に参加する。DVDを見せていただいたが、とても大がかりで華やかな発表会で驚いた。とはいえ、その予算はすべて園が負担し、保護者負担はないという。「たくさんの人の前で歌うのも、子どもたちに自信を持ってもらうため。4週間ほどかけて練習します」とココさん。園児の家族にはチケットが配布され、みんな発表会を楽しみにしているという。
園庭での活動を見せてもらった。ここでは日々のカリキュラムの中に意識して園庭での活動を入れているという。園庭はオールウェザー。ときにはプロ選手などを専門の講師として招き、馬術や野球、サッカーの練習も行われるという。この日の活動は「ネコとネズミ」という遊びだった。ネコ役の先生が赤いボールに顔を伏せてしゃがみ、言葉を唱えてときどき振り返るのだが、先生が顔を伏せているうちにネズミ役の子どもたちと他の先生が少しずつ歩み寄り、先生にタッチすれば勝ちだ。日本の「だるまさんが転んだ」と同じ遊びだ。最初は神妙な面持ちでじりじりと動いていた子どもたちだったが、慣れてくるにしたがってはじけるような笑い声をあげ、ネコ役の先生から逃げて走り回っていた。
結婚・出産を経ても働けるように制度を充実
日本と同じように、幼稚園の先生になるためには教員免許が必要だ。中国の幼稚園の先生の多くは女性で、かつては結婚して子どもが生まれると退職することが一般的だったというが、こちらの幼稚園では女性が教員としてのキャリアを伸ばせるように制度を変えたという。たとえば国の制度では産休が産後3ヵ月までしかないが、ここでは育児休暇が1年間取れ、復帰した後は、教員はもちろん警備員まですべての職員は自分の子どもを無料で自園に預けることができるという。実際、園長のエミリー先生も2歳の子どもがいるママだ。「子どもが生まれたから仕事を辞める、のではなく、安定して働き続けてほしいと思っています。その安定感が園の子どもたちにも伝わると思うんです」とオーナーのココさんは話してくれた。それは自らが子育てをしながら努力して勉強し、専業主婦から園の経営者になったことからの自信に違いない。
元ショッピングセンターを転用した大規模幼稚園(一土国際幼稚園)
取材旅行最後の訪問地は、『三国志』の「赤壁の戦い」でも知られる古戦場・赤壁にも近い古都・武漢だ。経済都市としても、近年、急速に発展しつつある。
この地に今年3月からオープンした一土国際幼稚園。オーナーは不動産関係の建設会社を経営しているが、20年ほど前に小学校を作り、教育領域には経験があったという。子どもの数が急速に増え、幼稚園が足りていない現状を見て、2年ほど前に幼児教育の分野に参入したという。もとはショッピングセンターだったというレンガ色の大きな建物の内部を改装し、幼稚園の園舎に転用している。2階天井まで吹き抜けになった大きな中央ホールなど、言われてみればショッピングセンター時代の雰囲気が残されている。とにかく1つひとつの部屋や設備が大きく、豪華に作られている。雨が多く、夏は非常に暑い武漢では、特に夏には屋外での活動がしにくい。屋上には2500平米もの広さの運動場があるが、そこを使えるのは年に2ヵ月ほどで、あとは室内での活動が中心になるという。中央ホールもそういった運動場として使われると知れば納得する。
この幼稚園の毎月の月謝は日本円で10〜12万円程度。保育時間は、3〜5歳は朝8時〜午後4時半まで。さらにこの幼稚園ではまだ中国でも実験的に始まったばかりの0〜3歳の預かり保育も朝8時半〜午後4時半まで行われている。配置基準も特に定められていないが、きめ細やかに保育できるよう1歳までは先生と子どもが1対1,2歳は1対2〜3になるように配置されているという。ちなみに日本の保育所最低基準では0歳は先生1人に子ども3人まで、1〜2歳は先生1人の子ども6人までだ。
給食は朝・昼・夜の3食に加え、おやつが2度出る。3〜5歳児も1クラスに3人の担任の先生がつき、その他に、芸術(絵画や陶芸など)、音楽、体育などの活動に専門の先生がつくという。月謝にはそういった特別な活動の費用も含まれているので、それ以上の料金は必要ないそうだ。
制作活動のための工作室には、絵の具や画材などが豊富に用意されている。このほかに、専用のろくろが多く揃えられた陶芸室や、織物を作る機織り機がたくさん並んだ部屋など、工作の種目別にさまざまなものを作る部屋がそれぞれ用意されている。ほかにも映画館並みの設備を備えたホール(講堂)や、図書館、プールなどもこの建物の中にすべて作られている。
図書館には絵本や図鑑など、子どもたちが興味を持ちそうなさまざまな種類の本がたくさん置かれている。ここは、本を読むだけでなく、子どもたちが遊べるようなスペースも作られていて、ショッピングセンターの中にある大規模書店のような雰囲気がある。
建物の2階には、プールもある。3歳以上の子どもは、週に1度、金曜日はプールの日と決まっているそうだ。プールの入口や壁には、カラフルな魚の絵が描かれており、中は全面タイルで、やはりいるかや魚などの絵がプールの底や壁などに施されている。
この日は、中央ホールなどに子どもたちが遊べるメニューをたくさん用意して、入園希望者のための説明会を行っていたので、そこに大勢の親子連れ、祖父母がつめかけていた。この日だけで10人の子どもが入園を決めたという。
子どもにとって何が「成功」なのか?
今回、中国の主に富裕層向けの幼稚園を見学したが、そのスケールの大きさに驚き、子どもたち獲得のための「競争」の厳しさをひしひしと感じた。ある園長は「もし、この園がよくないと親が感じたら、親はこの園を辞めさせて別の園に行かせてしまいます。ですから完璧に運営しなければなりません。教育面だけでなく安全面も含めて、いかに完璧に運営するかにかかっています」と話してくれた。高い月謝を取る以上、それに見合う教育と安全を提供するのは当たり前のこと、と言う覚悟があるのだ。
またある園長によれば、中国では以前はとにかく経済的に「子どもたちを成功させたい」という親が多かったというが、今は少し変わってきているという。「何が<成功>なのか? 子どもたちが幸せに暮らせることがいちばんなのではないか」という考えが主流になってきているのではないか、というのだ。もちろん、競争は激しい。親の経済力によって選べる教育が違ってくるから、「一人っ子政策」が終わっても複数の子どもを持つことを躊躇する親が多いこともうなずける。
軽く日本の14倍、15億人近い国民がいる中国では、比例して富裕層の数もとてつもなく多い。逆に貧しい人も多く、国民の貧富の差が大きいことを肌で感じた。その現実に対しては、ある園長の言葉が心に残った。「中国は貧しい人も、豊かな人もいる共存社会。ただ、貧しい人たちにも同じように教育を受ける権利があります。彼らは最も安く教育を受けられるようにするべき。幼児教育への補助金はそういう貧しい人たちのために使うべきなのです」。富裕層は補助金などなくても自力でいくらでもより良い教育を受ければ良いが、一方で貧しい人たちにはきちんと補助金を使って良い教育を受けさせるべきだという徹底した市場主義の考え方がそこにはあった。別の園長は、元々は別の事業から参入した法人だが、「教育分野に関わっていくことは社会的責任」と述べていた。
経済的に豊かになり、社会が成熟しつつある中国の特に都市部に住む人々が、子どもたちの「幸せ」は単なる経済的成功にあるだけではないと気付いたとき、そして、子どもが主体的に活動し、自身の内側からわき出る力を紡いでいけるようになっていったとき、何かとてつもない才能や、巨大な力が生まれるのではないだろうか。
教育は国を作る大切な土台である。そして、人間がいちばん最初に受ける幼児教育はもしかすると教育の中で最も重要な第一歩なのかもしれない。中国の幼児教育が今後どのように発展していくのかとても興味深い。引き続き中国の幼児教育の行方を見守っていきたいと思う。
【参考引用文献】
陳 卓君(2018)「0〜3 歳の保育における中国と日本の比較研究 ―乳幼児保育の機関から見えてきたもの―」『授業実践開発研究』第11巻 pp. 69-77 (https://core.ac.uk/download/pdf/156876532.pdf )
曹能秀、無藤隆(2006)「中国における幼児教育の現状と課題」『お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要』pp. 39-44 (http://133.65.151.33/ocha/bitstream/10083/3519/1/KJ00004831288.pdf)
外務省「諸外国・地域の学校情報 中華人民共和国」
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/world_school/01asia/infoC10800.html)
丹羽宇一郎(2014)『中国の大問題』PHP新書
天児 慧 (2018)『習近平が変えた中国』小学館
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【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】