南野なぜ選外だったのか? 右SB3人招集の意図は? 9月代表2連戦の26人選考を読み解く
9月シリーズはドイツ&トルコとの欧州2連戦
バスケットボールやラグビーワールドカップ(W杯)の熱気に押されがちの最近のサッカー界だが、9月には日本代表の非常に重要な活動がある。9日(日本時間10日3時45分~)には強豪・ドイツと敵地・ヴォルフスブルクで2022年カタールW杯以来の再戦に挑み、さらに12日(21時20分~)には2002年日韓W杯以来、21年ぶりとなるトルコとのテストマッチ(ゲンク)を戦うのだ。
ドイツは日本に苦杯を喫したカタールW杯でまさかの2大会連続グループリーグ敗退を余儀なくされ、その後も1勝1分3敗で低迷が続いている。指揮を執るハンス・フリック監督の解任論もまことしやかにささやかれ、万が一、日本に2度続けて負けるようなことがあれば、本当にそういう事態に陥らないとも限らないのだ。
トルコの方は3位に大躍進した日韓大会の後、W杯に出ていないが、ハカン・チャルハノール(インテル)やサリフ・エズジャン(ドルトムント)ら実力者が少なくない。しかもトルコのサッカースタイルは球際や寄せが激しく、ある意味、格闘技のような一面がある。そのタフさと粘り強さを軽視していたら、日本はとんでもない目に遭う可能性も否定できないのだ。
「ベースとなる選手たちで進化を示したい」というのが森保監督の思惑
そういった欧州勢との2連戦とあって、日本代表の森保一監督も慎重なメンバー選考を行ったと見られる。8月31日に発表された今回の26人の顔ぶれを見ると、新顔はセレッソ大阪で右サイドバック(SB)として躍動している毎熊晟矢1人だけ。DF陣は6月に帯同していた瀬古歩夢(グラスホッパー)が外れ、冨安健洋(アーセナル)が復帰。町田浩樹(サンジロワーズ)、橋岡大樹(シントトロイデン)が加わるといった変化があった。MFでは田中碧(デュッセルドルフ)が戻ってきたが、FW陣はほぼコアな陣容がズラリ。「今のベースとなる選手たちでドイツやトルコ相手にどこまで進化を示せるか」を指揮官はテストしたいのだろう。
多くのファンが期待した南野拓実(モナコ)が選外になったのも、こうした背景があると見られる。第1次森保ジャパンでは4年間絶対的主軸だった南野だが、ご存じの通り、リバプールで出場機会を思うように得られず、昨夏赴いたモナコでも適応に苦しみ、肝心のカタールW杯で輝けなかった。その後もクラブで出たり出なかったりを繰り返していたことから、森保監督は新生ジャパン発足の今年3月シリーズで南野を選外にし、6月には10番を堂安律(フライブルク)に託す決断をした。その流れを見る限りだと、「南野は第2次森保ジャパンのコアメンバーではない」という指揮官の評価が窺えるのだ。
南野や小川、町野らの代表入りは「継続性」が必要
実際、南野が代表で長く主戦場としていたトップ下には鎌田大地(ラツィオ)や久保建英(レアル・ソシエダ)がいるし、左サイドにしても三笘薫(ブライトン)という絶対的エースがいる。1トップにしても、現状では浅野拓磨(ボーフム)や前田大然(セルティック)らの方が前線からのプレスを含めて有効なピースだと考えている様子。となると、南野の使いどころがなくなってしまうのだ。
今季モナコのように1トップ2シャドウの布陣を森保監督がベースにするのであれば、まだ南野の活躍の場が広がるかもしれないが、現段階では4-2-3-1か4-3-3を軸としているため、やや難しい。「南野を再招集するのであれば、彼が今のような活躍を長期間、継続できるかどうかを確かめてからでも遅くない」といった判断もあって、9月シリーズは招集外となったのではないか。
それは小川航基(NEC)や町野修斗(キール)ら欧州で結果を出し始めた面々についても言えること。「継続性」を重視する森保監督にとって、シーズン序盤数試合の活躍だけでは「既存戦力と入れ替える」という決断には至らないのだろう。最低でも半シーズンは今の状態を維持しなければ、信頼を勝ち取れないという見方もできる。
つまり、彼らがまず目指すべきなのは、2024年1~2月のアジアカップ(カタール)だ。そこまでコンスタントに存在感を示し続ければ、浮上の可能性も出てくるはず。ただ、国内組の大迫勇也(神戸)らベテランも気を吐いているだけに、代表の枠を勝ち取るのは容易なことではない。高いハードルを越えるべく、自分自身を高めてほしいものである。
ケガから復帰の田中碧は再浮上のきっかけをつかめるか?
分厚い選手層を誇る前線に比べると、ボランチや守備陣にはやや不安も感じられる。というのも、ボランチに関しては、ケガから復帰した田中碧と国内組の伊藤敦樹(浦和)がドイツ・トルコ相手にどこまでやれるか未知数な部分もあるからだ。特に田中碧はカタールW杯で輝きを放ったものの、第2次森保ジャパン発足後はあまり爪痕を残せていない。今夏の去就もいまだ不透明で、デュッセルドルフ残留となれば、本人の成長曲線が劇的に上がるとは言いきれなくなる。森保監督が描くチーム強化の中で、田中はコアメンバーの1人という位置づけであるだけに、ここで停滞してほしくないと考えているはず。彼には今回の2連戦を新たな飛躍の起爆剤にしてもらいたいものである。
守備陣の注目は冨安と菅原か?
守備陣についても、センターバック(CB)要員の谷口彰悟(アルラーヤン)、板倉滉(ボルシアMG)は安定感が見られるが、長期離脱から戻った冨安はまだ万全とは言い切れないだろう。彼がいない時期に伊藤洋輝(シュツットガルト)がCBと左SBを兼務することでいい仕事をしていたが、森保監督としては冨安をコンスタントに使えれば越したことはないと考えているはず。強豪相手の2連戦で「冨安はもう問題ない」という確信をつかめれば理想的だが、果たしてどうなるか。それは大きな注目点と言っていい。
そして人材不足のSBに関しては、前述の通り、右は菅原由勢(AZ)と橋岡、毎熊、左はCB兼務の伊藤と町田、そして長友佑都(FC東京)の大学の後輩・森下龍矢(名古屋)という陣容で挑むことになる。このうち、第2次森保ジャパンで最も実績を積み重ねているのが菅原。ほぼレギュラーと言っていい状況ではあるが、わざわざ森保監督が橋岡を呼び戻し、毎熊も追加したところを考えると、まだ、かつての内田篤人(JFAロールモデルコーチ)や酒井宏樹(浦和)ほどの圧倒的存在感を示しているとは見ていないのかもしれない。
そういった指揮官の評価をより引き上げるためにも、菅原は今回の2連戦では大仕事をしなければいけない。特にドイツの左サイドはジャマル・ムシアラ(バイエルン)やダヴィド・ラウム(ライプツィヒ)ら実績ある面々が陣取るケースが多い。それをしっかりと封じ、持ち前の攻撃力を発揮できれば、菅原も内田や酒井のような領域に達する布石を打てるかもしれない。
左SBの起用法にしても、おそらく伊藤洋輝が今のところのファーストチョイスで、攻撃的に行きたい時には森下という選択肢になりそうだ。町田はまず日本代表での地位を確立するところからスタートしなければならない。GKもそうだが、今は絶対的な選手はいないだけに、ここで誰が抜け出すか注視したいところだ。
このように見どころの多い今回の9月代表シリーズ。まずはドイツ戦だが、10カ月前のように防戦一方ではなく、主導権を握る時間も増やすなど、内容的に異なるゲームで結果を出してくれることを大いに期待したい。