AI人事は使わない手はない。しかし、乗り越えなければいけないハードルはまだまだあります。それは何か。
人事にもAIが進出してきた
AI(Artificial Intelligence(人工知能))という言葉自体が何度目かの流行ですが、とうとうそこに「人事」がからむようになってきています。人事ではAIという言葉はあまり厳密に統一された意味では使われておらず、「人事のさまざまな現象を数値・データ化し、統計処理やAIの力で、何らかの法則性を見いだして、それを組織マネジメント向上のために適応する」というようなことです。
AIにも落とし穴はある
採用活動における選考に使われたり、配属の際に参考情報として使われたり、退職者予測にも、最近では使われるようになってきています。基本的には私個人はこの領域・手法には可能性を感じていますが、しかし、落とし穴がないわけではありません。とくに新しい領域ですので、流行に飛びついて「時代はAIだ」と拙速に導入すると、その危険な罠に陥りがちです。注意すべきポイントをあげてみます。
問題1:人事データは不完全でミスリードする可能性
AI人事はデータが命です。知りたいことに関連しそうな過去のデータをとにかくたくさん集めることから始まります。人事で言えば、「どんな人がどんな成果を出し、どんな評価になったのか」というデータ(教師データと言ったりします)をたくさん集めます。それを分析したり、AIが学習したりして、何らかの法則を見つけるわけですが、そもそものデータ集めがかなり大変なのです。
例えば、いちばんわかりやすい採用選考ですらそうです。「採用時評価と入社後評価は相関があるのか」という単純な問題ですら難しいのです。
よく、この問題は「なんと採用評価と入社後評価は相関がなかった!」という結果が発表されたりするのですが、調査方法をみるとやや怪しいものも多いようです。というのも、「採用基準に満たないと評価をした人が、もし入社したらきちんと活躍したのか」というデータと「採用基準に満たしていると評価したが、他社に入社してしまった人がもし自社に入社したとしたら活躍したのか」というデータはありません。
この2つのデータがないのに、「合格と評価した人のうち、入社した人だけ」のデータで相関を測っても、それは十分なデータと本当に言えるのでしょうか。
問題2:AIは説明してくれないので納得感を持ちにくい
AI人事の最後の根本的な問題は、「意味がわからない」ことです。数学的に法則性が成り立ったとしても、そこを解釈して、何らかの意味を見出すことができなければ、人事で実際に使うことはなかなかやりにくいものです。例えば、マーケティングでの事例で言えば、ある場所に売り場を設置すれば売り上げが上がるということが、たとえ「意味がわからなかった」としても、何度やっても再現性があるのであれば、そうすればよいと思います。
ところが、人事においては、そうはいきません。配属を考える際に、「あなたは、AI分析によれば、関西がいいと出たので、来月から関西に転勤してもらいます」と言われたらどうでしょうか(実際はそんなストレートなことは言わないと思いますが)。実際に行けばAIの言うとおり成果が出るのかもしれませんが、そもそもの最初から意気消沈してしまい、結果、AIの予測虚しく、ローパフォーマーとなり退職してしまうかもしれません。
人間は「意味」の動物です。どれだけ確実な法則であっても、そこに意味を感じることができなければ、モチベーションがわくことはありません。
問題3:現状を拡大再生産するだけになってしまう
以前、Amazon社の採用でAI人事を一時凍結するというニュースがありました。AIの選考に女性を差別する傾向があったということでした。
もちろんAmazon社に差別意識などなく、むしろ逆に女性重視をしていたからこそ、検証を行い、このことが発覚したわけですが、AIの旗手でAmazon社のAI人事でも、まだまだ完璧ではないということです。本件に関しての詳細の真実はわかりませんが、ニュースを基にAIの素人なりに解釈すると、要は教師データに「優秀な男性」が多かったことを学習して、法則化してしまったということでしょうか。
データは過去のものです。過去のものをベースにするだけでは、なかなか未来を創造的には描けません。さまざまな対策はあるのでしょうが、素朴にAI人事を導入すると、「現状を再生産する」ことになってしまう可能性があるのです。
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このように、AI人事を効果的に用いていくためにはいろいろハードルがまだまだあります。もちろんだからといって、使うべきではないということではなく、むしろ、現時点での限界をきちんと知ることで、適切にAIを使いましょうというのが私の意見です。
そうでなければ、なんでもかんでも新しいものは怖くてやりたくないという人たちからの抵抗を乗り越えることはできないでしょう。