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アップルの年率4.15%の預金サービスは成功するのか、あらたな潮流となるかどうかは疑問

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米アップルは17日、同社のクレジットカード利用者向けに、年4.15%の利率で預金サービスの提供を始めたと発表した。

 アップルは米国でクレジットカード「アップルカード」を発行している。クレジットカードなどを管理する財布アプリ「ウォレット」内のアップルカードから直接、貯蓄口座を設定して管理できる。

 iPhoneを持っている人すべてが、アップルの貯蓄口座を利用できるわけではない。

 今回はあくまで口座を開設できるのは米国居住者で、「アップルカード」を利用している人に限られる。

 年4.15%の利率もウリになっている。0.3%台にとどまる貯蓄口座の全米平均の10倍以上となる。これは米銀はFRBの利上げにもかかわらず、預貯金金利を引き上げづらい環境にあることを示す。

 米国では3月にシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が相次いで破綻し、銀行からの資金流出が起きた。

 銀行預金に比べて、米国債利回りなどが大きく上昇しており、その結果、期間の短い公社債などで運用される投資信託であるMMFに資金が流入していた。

 これは預金保険の保護対象と同じ25万ドルを超えた資金が流出した側面とともに、単純にMMFの利回りが高いということが要因となっている。

 FRBによる度重なる利上げによって、3か月物の米財務省短期証券の利回りが年率5.2%に達した。いわゆる逆イールドも発生し、米国は短中期の金利のほうが長期金利より高くなっている。

 逆イールドそのものが銀行経営を圧迫し、米銀が預金金利をなかなか引き上げられない要因ともなっている。

 そこに付け込む格好で、今回のアップルの預金サービスがスタートしたといえる。預金の管理や運用を担うのはゴールドマン・サックスであるが、預金で集めた資金を中短期の公社債で運用すれば、多少なり利ざやは稼げる。

 しかし、あくまで現在の米国での金利情勢が、このようなあらたな金融サービスを可能にさせた側面がある。

 これからはネットの時代、デジタルの時代だから預金もスマホでということかもしれないが、それにはそれを導入するインセンティブも必要となる。

 しかし、それが一時的な逆イールドによるもの、さらに銀行からの預金流出の受け皿の役目だけであれば、一時的に注目は集めても、あらたな潮流となるかどうかは疑問である。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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