「その場は凍り付いた」金正恩 ”集金マシーン” 党幹部を銃殺
未だに国内に新型コロナウイルスの感染者はいないとしている北朝鮮。だが、感染が広がっているかのように、強力な措置が取られている。
防疫ルールに違反すれば厳罰が下されるが、そこには処刑も含まれる。先月には金正恩党委員長の統治資金作りに携わっていた幹部が処刑されている。資金作りの効率よりも、国民を「見せしめ」で統制する恐怖政治を強化していると言えるだろう。
(参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー)
北朝鮮国営の朝鮮中央放送は2日、超特級非常防疫措置を復活させるにあたり、中央非常防疫本部が、非常防疫の規律と秩序を徹底的に厳守するよう強い対策を取っていると報じた。
対策とは、一部商店、飲食店、銭湯の営業中止、移動の制限、テレワークの拡大、地上・空中・海上を問わず国境閉鎖、国外からの物資が搬入される国境の橋や港への消毒施設設置などだ。
WHOは根拠なしとしているものの、北朝鮮は物資を通じて新型コロナウイルスが流入することを極めて恐れているようだ。今年7月15日、首都・平壌近郊の南浦(ナムポ)港に到着した貨物の検疫で、新型コロナウイルスが検出された事例がある。また、慈江道(チャガンド)満浦(マンポ)市で10月末、コロナ疑い患者が発生した際には、中国から輸入された品物を触って感染が拡大したとの噂が広がった。
平壌のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党中央委員会の貿易機関を対象にした総和(監査)を行った。10月27日から先月17日までの3週間に渡って行われた総和のターゲットは、国の承認なしに輸入された物品だ。
その結果、一部の貿易機関が、非常防疫規定に違反し、南浦港、羅先(ラソン)港などを通じて密貿易が続けられてきたことが判明した。違反者に対しては、ワク(輸入許可証)の没収、今後1年間の再発行停止などの処分が下された。
ところが、処分はそれだけにとどまらなかった。処刑だ。それも、よりによって北朝鮮の外貨稼ぎの中枢を担う部署の幹部が処刑されたのだ。
朝鮮労働党中央委員会39号室といえば、数多くの貿易会社、銀行、企業を傘下に抱え外貨を稼ぎ出す北朝鮮の集金マシーンとして有名だが、その39号室のキム副室長は、その地位を利用して、美術品など国の承認を受けていない品物を輸入したばかりか、資金の一部を着服していたことが判明し、銃殺刑に処された。
また、彼の指示を受けて品物を取り寄せた貿易機関の駐在員2人には、無期教化刑(無期懲役刑)の判決が下され、咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)教化所に収監された。
施設の管理不備が金正恩党委員長の逆鱗に触れ、銃殺された大同江スッポン工場の支配人の事例など、幹部の処刑はそう珍しいことではない。
しかし、外貨稼ぎに関してはオールマイティだったはずの39号室幹部の銃殺が言い渡されるのは前代未聞。情報筋によれば「その場の空気は凍りついた」という。幹部銃殺の素早い決定は、防疫関係者全体に「防疫には例外がなく、どんな地位にある者でも処罰から逃れられない」という警告を発するための見せしめと思われる。
ただ、重責を担う人物の処刑には、別の理由が隠されていることもあるため、単なる綱紀粛正ではない可能性も考えられる。
今回の総和では、今まではなかった珍現象が起きている。課せられた商品輸入のノルマを達成できなかった場合、担当者は撤職(更迭)されたり、閑職に追いやられたり、山奥の農場に追放されたりするなど、何らかのペナルティが与えられるものだった。
海外にいる駐在員も例外ではなく、帰国命令は恐怖そのものだった。
ところが、今回の総和では口頭での警告で済まされたというのだ。なぜか。
「かつてなら、目標量を超過達成した貿易会社には賞を与え、未達成なら罰を与えたものだが、今年はこのような世界的な状況で、大きく問題視しなかった」(情報筋)