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米で成功するのは千原ジュニア、さんま、ダウンタウン浜田~NYコメディで成功した日本人が語る5/5

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
コメディクラブの楽屋にて。モニターで前の出番のコメディアンと客の反応を確認

お笑い芸人のピース綾部さんが、2017年の4月をもって、日本での芸能活動をストップ。単身ニューヨークに拠点を移し、ハリウッドスターを目指すという。

「何もない状態で、ニューヨークに行くピースの綾部さんは、当時の僕そのもの」。

英語力なしコネなしカネなしキャリアなし。ゼロから登りつめた成功には秘訣があった。

「できるはずがない」と周りからバカにされながらも、アメリカ版M-1グランプリの全米お笑いコンテスト、NBC『ラストコミックスタンディング』で準決勝に進出。非英語圏の外国人初の偉業を成し遂げた。

あのビヨンセも笑わせた、世界唯一の日本人プロスタンダップコメディアン、RIOさん。NYのコメディクラブを中心に1万回以上の舞台経験を誇る。20年間の活動で世界中のセレブゲストを含む40万人以上を爆笑の渦に巻き込んだ実力派エンターテイナーから学ぶ「無謀とも思える挑戦へ向けての準備と心がまえ」。

日本の芸人で、今、アメリカに行って、爆発的に売れると思える人は? 日本とアメリカの笑いの違いから見えること。

Q 日本で、芸人になりたい人、すごくいるじゃないですか。売れたら、バーンと生活が変わるけど。例えば、日本人で、アメリカに進出して、今の日本でやっているネタで、イケるという人はいますか。

現状でイケるのは、僕が一番すすめるのは、3人いて。千原ジュニア、明石家さんま、ダウンタウン浜田雅功。全員、有望なんですけど、全部タイプが違うんですよね。

ジュニアさんは、テレビの脚本家として有名になれそう。松本人志さんもそう。アメリカでは、今、テレビに出ていて、プレイヤーとしてやっている頭のいい人たちが、ライターとしても支えている。彼のネタは彼しか言えないじゃないですか。でも、そのネタを他の人に提供してあげれば、彼みたいにしゃべれる人が、10人とか、100人になって、効率がいいわけなんですよ。

Q シンガーソングライターが、他の歌手に楽曲提供するみたいな。

A そうそう。頭のいい人は、プレイヤーとして出なくて、ライターとして、ネタをあげる人になるんだよね。

Q 放送作家みたいな。

A 放送作家が優秀だと、番組が面白いじゃないですか。それの、ネタまで作るパターンですね。でも、すでにやっていますよね。セリフもありますしね。

Q さんまさんは。

さんまさんは、スタンダップコメディのスタンダードなやり方ですね。大きな変化を好まずに、ちょっとずつたくさんの言葉をずっとしゃべっていって、平面的な感じで言っていって。

Q じゃあ、それが、スタンダップコメディアンの王道なんですね。

A そう。あんまり大きな落差をつけずに。たくさんしゃべることによって笑いを作る。ちっちゃいパンチ(オチ)をポンポンあてる。ジュニアさんは、大きなパンチが急に1個くるみたいな感じですよね。だから、コメディのプレイヤー向きではなくて、ライター向き。さんまさんは、プレイヤー向き。で、テレビのスターとなるのは、浜田さんしかいない。

Q それは、どういうところがですか。

A まずはね。ジュニアさんとか、さんまさんのようなタイプは、すでにアメリカにいるんですね。アメリカでスターになるためには、今まで見たことがないやつが出てこないといけないわけですよ。浜田さんみたいなコメディアンはアメリカにはいないんですよ。

Q それは、どういう。

A つまりね。みんなが集まった時に、自分で笑いを取らずに、人に笑いを取らす人はいないんです。彼が何かを起こして、他の人が笑いを取るじゃないですか。そんなコメディアンは、普通、コメディアンじゃないんですよね。

Q サッカーで言うところの、パスが上手な人ということですか。

A そう。けして点は取らないけれど、その人がいないと、その点数は絶対に生まれてこなかったというような。彼がわーっと怒って、周りがザワつき始めて、困ったりしていて、最終的にパスを受け取った人が笑いを取る。自分がアシストした相手を輝かすみたいな。本人自身が笑いを取らないコメディアンてね、世界探しても、浜田さんくらいなんですよね。

Q なるほど。

A テレビを観ていると、彼がいないと、笑いになっていないものがいくつもあって。必ず一役買っていますね。あと、アメリカで見たことがないというと。手を出すというのはない。アメリカではやってないけど、彼なら、それを定着させることができるかもしれない。アメリカ人は見たこともないことを楽しみにしているし、それがタブーを破ってくれるというか。トランプみたいなもんで。すごいと思いながらもなんかいいと熱狂してしまう。

Q じゃあ、浜田さんは、お笑い界のトランプになれると。

A そう。今までにないタイプだから。

Q つまり、お笑いのパイオニオアになればいいわけですね。でも、どうですか。パーンと頭叩いたりするのは。大丈夫ですか。

A もちろんダメだとは思うんですけど。それが、アメリカ人も変わりつつあって。ドッキリみたいな番組、日本にはたくさんあるけど。アメリカにはなかったわけよ。危ないじゃん。銃持っているわけだから、ドッキリの途中で、事件になってしまうかもしれないからって。でも、最近、ドッキリが多い。悪ふざけみたいな。そのへんが、ゆっくりだけど、氷解しつつあるから。

Q 言葉でいじられるのは許せるけど、叩かれるのはダメ。反射的に、反撃してしまう。

A アクションもだんだん解禁されつつある流れがある。だから、浜田さんの笑いにウケる人は少なからずいると思いますね。そういうのを受け入れる歴史の国だから。タブーを破っていって定着させる、の繰り返しだから。まさに、トランプ的な。

Q なるほど。例えば、笑いにもいろいろあるとは思いますけど、ちょっと系統が違う、高田純次的な笑いはどうですか。

あれは、アメリカっぽいですね。むしろ、あれが王道。重鎮がけっこうあんな感じ。高田純次風なアメリカ人いっぱいいます。日本では一人だけ。これが日米の差だね。

Q 日本人ならではのお笑いってあるんですか。例えば、リアクション芸とか。いじられ芸とか。

唯一、アメリカにないのは、リアクション芸かな。出川哲朗さんみたいなパターンがないかな。

Q あとは、すべり芸みたいな。

A すべり芸はあるよ。すべり芸は多い。すべった後のフォローで笑わせるというのは基本だから。リアクション芸はないね。

Q へええ。じゃあ、出川さんもイケるのでは。リアクション芸がアメリカにないなら。

A いや、それが。

Q あ、そうか、アメリカ人の場合、すでにみんな、普通にリアクションが大きいからかな。

A そうだね。今さらやっても成立しないのかもしれない。アメリカのコメディって、強者の証だから、痛いを連発して、弱者のフリをしても笑えないというか。強いやつが、余裕を見せる笑いだから。

Q ということは、むしろ、熱湯風呂でゆでタコになっても涼しい顔をして入っている、みたいなのがいいんですか。

A そうそうそう。

Q あえて、熱湯風呂に入りながら、余裕の顔で、鍋を食べるみたいなことをしたら、笑いを取れるわけですね。

強者の証じゃないとダメなんです。

Q それ、面白いかもしれない。

アメリカはプライドだから。世界のトップにいるという自負があるから。日常的に、世間がいつもSの状態だから、非日常のコメディクラブにいったら、お客さんはいじめられたいのよ。Mでありたいわけ。だから、ガンガンいじめてほしいわけ。

Q ということは、いつも強気な姿勢でいること。たとえ、ヤジをとばされても、涼しい顔して、受け流す。それをほんとに、痛みつけられて、いじけていたらダメなんですね。

痛、痛いとか、熱っとかは笑えないんです。ほんとに可哀そうになっちゃうというか。あれは、普段、日本人が可哀そうだから、自分が。それよりも弱い人を見て。

Q そうかそうか、小市民的な文化。

アメリカ人は小市民じゃないから、弱い人を見たら、助けてあげなきゃって、感じになる。だから、そこで、笑いは唯一生まれない。

Q だから、そこが違うんですね。日本人はMキャラの人が多いから。ドッキリもそうですよね。言いたいのに、言えない、困っている感じが面白いという。アメリカでは、裸の王様的な笑いということですね。本人は堂々としているという。なるほど。

A そうそう。

Q 例えば、何かできないことがあっても、できないとは言わない、強がりで押し通すという感じの。

A 俺はできるんだから、できていなくても。俺は世界のアメリカ様だから、みたいな。なんで、出川さん的笑いだけはアメリカでは通用しないですね。出川さんの笑いって、日本の象徴じゃないですか。結局、日本で長期にわたって安定的に一番売れているのは出川さんじゃないですか。どの番組にも出ているし、若い頃からずっと出続けているし。だから、僕は、日本に来て、やりたいことは、ビジネス的には、リアクション芸がしたい。一番、やっている層が薄いしね。出川さんに弟子入りします。

Q え? 日本に呼ばれたらということですか。

A そう。シニカルなアメリカの笑いではなくて。

Q なるほど、日本に来たら、日本に寄せるんですね。なんか、わかるような気がする。例えば、アメリカで成功している日本人スターが凱旋で帰ってきて、エラそうにしていたら、反感を買うということですよね。やっぱり、日本人には、謙虚さが必要なのかもしれませんね。「僕みたいな人が、ありがたいです。たまたまです」みたいな。

A そうそう。アメリカでスターになっているやつが、日本では、熱湯風呂に入る、というのがいいんですよね。でも、かっこ悪いのか、みんな、しないんですよね。アメリカで成功した日本人なんて日本の日本人からしたらどうでもいいと思ってるのに気づかないのかね。

Q わあ(笑)。だから、リオさんの話はかぶれていないというか、日本人にとっても面白いですよね。

A それは、日米の比較文化論がちゃんとわかっているんで(笑)。

Q それは、変えているんですか。日本に帰ってきたら。

A だって、お客さんあってのものだからね。

Q へええ。

瞬時で見分けないと。ウケてるかは見るし。

Q 忘れないんですね。20年も日本を離れているのに。だって、すごくお笑いも変わっているでしょう。帰る度に知らない芸人さんが出ていませんか。

A 出ているけど、風土というのは変わらない。出川さんはずっと出ているし。表面は変わっているかもしれないけど、根っこの部分はずっと変わらないですよね。

Q 日本に帰ってきたら、そうやってよく番組を観るんですか。

A アメリカにいる時も観るし。

Q やっぱり日本のお笑いは気になりますか。

A 普通に、ざーっとテレビつけていたら出ているんで、客観的に。

Q 日本では、一発屋の芸人みたいに、ばーっと出て、一瞬にして消えるというのは、アメリカでは。

一発屋っていうのは、アメリカにもいるの。日米の共通していることはそれ。力のないやつが、ばーっと売れる瞬間があるんだけど、やっぱり消えていくの。まさに、一発屋で。

Q そのへんは同じなんですね。やっぱり長く続けられるのは?

こいつ、なんかのきっかけで売れた、というのではなくて、あれ、こいつ、知らない間に定着してんなみたいな。それが、いいですね。

Q なるほど。ニューヨークにはいつまでおられるんですか。将来的には。

骨をうずめようと思っています。でも、行き来できるし。メールとかでも打ち合わせはできるし。それほど、真剣に日本に帰ってこなくても、アメリカで、オファーがある限りは行くので。

Q ご両親は、社労士を今でもやってくれと言われるんですか。

A まあ、帰国する度に、資格があるんで、ちょこちょこと手伝いますけど。実家が社労士の事務所なんでね。

Q でも、アメリカで、夢をかなえられていると、喜んでおられますよね。

A まあね。でも、戻ってこいとは言われますよ。だから、帰れる時は帰って、手伝っていますよ。昔はね、コメディクラブは空けるとね、僕のスポットを取られちゃうという恐れがあったんだけど。最近は、1か月空けても大丈夫。それで、戻ってもやらせてもらえる。やっと。20年かかりました。

Q わああ、すごいですね。

20年かかって、ニューヨークのコメディクラブがホームとして、認めてくれました。油断はできないですけどね。

Q コメディクラブのギャラ最高額の1万円をいつぐらいの目標にしたいですか。

A 死ぬ間際でもいいんで。

Q そんなあ。

というか、死ぬ間際まで、ジョークを言っていたいですね。看取る人が、「最後まで面白いんだから」と言われるのが、夢ですね。主治医が笑った直後に「わっはは、、、〇時〇分ご臨終です」がベストですね。自分では確認できませんが。

Q わああ(笑)。どういう笑われ方が一番うれしいですか。

A 人がやっていないネタで笑ってもらえたら。

Q 例えば、自虐ネタをしているわけだから、ほんとにこの人はダメな人なんじゃないかと、バカにされるということもあるんじゃないんですか。

実はね、自虐ネタというのは、世界で一番強い人がやることだと思うし。自虐で笑われるのは、強い人の証だから。日本では、逆ですよね。バカにするな、と言いますけど。強い人だからこそ、自虐を言って、笑っていられるという。

Q これ、すごくないですか。この話、いいですね。

A だから、僕は自虐ネタをやっているから、やればやるほど、お前はすごいなと言われるんですよ。笑われるのが、一番高度で、尊敬されて、ステイタスなんです。人をけなして、その相手が余裕で笑ったら、その人はすごいなと。それを怒ってしまったら、「そんなことで怒ってしまうんだね。その程度の器なんだね」と思われてしまう。

Q じゃあ、バカにされて、キレてちゃいけないんですね。

A そう。ちょっときついジョークを言われて、その反応を見て、人間の器をはかられているんです(笑)。それがアメリカでは普通、スタンダードだから。

Q 文化が大きく違うんですね。

いつもプライドを高く持っているから、笑われたら、余裕でいなきゃいけない、私は余裕でいられる人なんだよというのをアピールしなきゃいけないから。いじられる時はチャンスなんですよね。

Q なるほど。すっごい勉強になりますね。

いじられたら、わっははと笑うとばすことです。余裕感出ますよ(笑)。

例えば、ある人が、英語が下手なのを知っていて、上司が何を話してきても「イエス」としか言えなかったとして、「君と話すと、話が短くていいね」みたいな嫌味を言われたら、スルーしたり、落ち込んだり、ムキになるんじゃなくて、「ありがとうございます。もっと、短縮できますよ」みたいな返しがいいわけ。

Q なるほど。シュンとしちゃいけないんですね。

アメリカではいつも器の大きさを試されているから。

Q なんか、わかってきました。日本人って、小市民だから、いじめられたら、真にウケちゃうけど、余裕で返すのが面白さなんですね。だから、多少すべったとしても、そこからあえて、上げていく、広げていくことが必要なんですね。

A そう。そういうことです。

Q でも、正直すべると、辛いですよね。しかも、最初の5年はギャラもなくて。よくそれでやっていましたね。よく続けられたと思うんです。

A それはね、僕は、ワクワクした興奮に突き動かされていたんだと思うんです。

Q というのは?

A もし、僕が、コメディを「楽しい、好き、幸せ」ということだけでやっていたら、すべって、ヤジが飛んできたら、ショックで、コメディが嫌いになると思う。やっていくのがつまらなくなるし、不幸せに思うと思う。

Q なるほど。だけど、

A 僕は、すべると、もっと次にいいものを提供しようって、ワクワク感が増したんです。まだ、やれる、今度はこうしようって。ワクワクは消えることはないんです。

A わああ、なんて素敵な話なんでしょう。素晴らしいですね。

Q 最後に。売れていない芸人の人がけっこういて、芸人に限らず、なかなか目が出ない、やってもムダかなあ、辞めたいと思っている人に向けて。リオさんがそうだった時に、どうやってモチベーションを上げていたんですか。だって、保証はないですよね、何も。それともいつか自分は大丈夫と思える自信があったんですか。

だから、もし、すべってブーイングされたら、「あ、これは次に向かうため、粘るための課題を与えられたんだな」とどんだけ早く切り替えられるかですね。腐る時間は、僕は「死に時間」と呼んでいるんですけど、どこに向かっていいかわからない時間は誰にでもあると思うんですけど、それが長引くか、数日で終わるかの違いですね。

Q すべて、お試しなんだよと。でも、全部楽観的に考えてもダメですよね。何を言われても響かないんじゃなくて、多少は落ち込んだほうがいいでしょう。

A それはそう。異常に落ち込んだほうがいい。深く短く。すべった時は、自分を見つめて。

Q なるほど。そうですよね。今日は、貴重な話を本当にありがとうございました。勉強になりました。

リオさんにインタビューをさせていただいていると、自分も何か挑戦をしてみようかなという気になる。「絶対無理だよ」というようなことでも。それこそ、ニューヨークに行ってみようかなという気になる。

そして、話してみて、圧倒的に感じるのが、心地よさ。すごくいい人だなあと思う。

ノリがよくて、寛容さがあり、柔軟性があり。何に対しても、「いいですねえ。やりましょう」という、前向きで軽やかなスタンス。成功をおさめているはずなのに、エラそうな感じや、ピリピリ、イライラするような雰囲気が一切ない。「そうならないように、気をつかってきた」とリオさんは言った。なんの根回しもないままに更地のまま向かった潔さが逆にチャンスを作る。打算的ではない、一途さとピュアさ。真面目にコツコツと積み上げた結果。チャンスはすべて自分の生き方にかかっているんだなと改めて感じる。

エネルギッシュな街で闘いながらも、自然の中にいるようなナチュラルさを保ち続ける。

ニューヨークのエンターテイメントシーンで売れること、これこそが、人間力。周りをサポーターにしてしまう能力。これが、「LIKABILITY」(人に好かれる能力)の高さというものなのだろうと確信した。 

第1回はこちら。

第2回はこちら。

第3回はこちら。

第4回はこちら。

プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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