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なぜ、この時期に在韓米軍家族らの「国外退避訓練」が行われるのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
昨年実施された米軍輸送機による在韓米軍家族の国外退避訓練

 北朝鮮がミサイル発射など軍事挑発を止め、米韓両国に対して首脳会談を呼び掛け、これに米韓当局が春の恒例の米韓合同軍事演習の規模と期間の縮小で応じたことで朝鮮半島の情勢は一触即発の軍事的緊張状態からデタントの方向に流れている。

 こうした状況を反映してか日本は昨年3月から秋田県男鹿市を皮切りに全国の地方自治体で実施されていたミサイル避難訓練は今年1月22日の都内(文京区)での訓練を最後に行ってない。北朝鮮がミサイル発射実験を凍結したこともあってJアラート(全国瞬時警報システム)も今年は一度も作動してない。

 ところが、米軍による朝鮮半島有事を想定した在韓米軍家族らの退避訓練が昨日(16日)再開され、在韓米軍当局によると、20日まで実施されるようだ。

 在韓米軍は「退避訓練は春と秋に行う恒例訓練の一環である」として、朝鮮半島情勢や米朝関係に影響を与えるものではないと説明しているようだ。確かに一昨年も10月から11月にかけて、昨年も6月(5~9日)と10月(23~27日)に2度実施されていた。

 一昨年の避難訓練には60人が参加して行われ、対象者は避難の際に一人当たり最大で27キログラムの所持品の持参が許され、ソウル市龍山区にある米軍基地で身元確認の腕輪を渡され、保安検索の手続きが行われた。その後、一行は生物・化学兵器による攻撃を12時間防止することのできるマスクの着用方法に関する訓練を受け、大型輸送ヘリで南方の京畿度・平澤に移動した後、大邱にある米軍基地で一泊して翌日C―130輸送機で釜山にある金海空軍基地から日本の沖縄に向けて飛び立っていた。

 昨年6月の訓練には驚いたことに1万7千人以上が参加していた。韓国に居住している米国人は約20万人だが、およそ、十数人のうち一人が参加する計算となった。トランプ政権が北朝鮮の核とミサイル開発を阻止するため軍事オプションも辞さないと、公言したことが影響したようだ。

 当時の駐韓米第8軍のフェイスブックによると、訓練は朝鮮半島有事の際「旅券など書類を持ってソウルの龍山基地など韓国全土に散在している集結場所や退避統制所に集まる非戦闘員(米軍兵士の家族など民間人)らを航空機や鉄道、船舶で安全に日本に退避させる」ことを目的としていた。実際にこのうち、約100人以上が航空機に搭乗して、国外に出る訓練を受けていた。一方、10月の訓練は参加人数も規模も明かにされなかった。

 今回の訓練には米兵家族ら約100人が参加するようだが、計画では参加者らを軍用機で一旦、日本(在日米軍基地)へ運んだ後、米本土に移送することになっている。第三国を経由して米本土まで運ぶ退避訓練の実施は今回が初めてである。

 朝鮮半島有事の際に米国国籍の民間人を韓国から米本土まで実際に脱出させることを「非戦闘員退避活動」(NEO=Non-combatant Evacuation Operation)と米軍は呼称しているが、これまではコンピューター・シミュレーションや韓国国内に限定され実施されていた。

 ところが、北朝鮮が一昨年9月に5回目の核実験を強行し、緊張が高まったことで2か月後の11月に米軍輸送機に乗せて日本に輸送することになった。韓国からの脱出訓練は実に2009年以来7年ぶりのことであった。

 思えば、2009年という年は4月の北朝鮮による人工衛星と称した長距離弾道ミサイル・テポドンの発射をめぐってゲーツ米国防長官(当時)が「発射すれば、迎撃も辞さない」と警告し、これに対して北朝鮮人民軍参謀部が「(米国が)我々の人工衛星に迎撃行動をとれば、発射手段(イージス艦)への攻撃だけでなく、根拠地への報復打撃を開始する」と威嚇し、軍事的緊張がピークに達していた。

 米国が軍事攻撃を仕掛ける場合、先制、奇襲攻撃が成功の前提条件となるが、米国は軍事攻撃を開始する前には必ず自国民の被害を最小限にするため前もって紛争地域から非戦闘委、即ち民間人を疎開させる。クリントン政権が1994年6月に北朝鮮への核施設への先制攻撃を決断した際にも事前に駐韓米大使を通じて米国人の国外避難指示を出していた。

 在韓米軍が韓国在住の米民間人を米国に移す訓練を実施するのは、トランプ政権が来る米朝首脳会談を決して楽観視してないこと、米国が求める条件なしの非核化、それも完全で検証可能で不可逆的な非核化に北朝鮮が応じない場合は、次の段階(軍事攻撃)に移るかもしれないとの証とみる向きもある。

 韓国の軍消息筋は「南北・米朝首脳会談を前に、北朝鮮の非核化に対する期待感が高まっているが、米国は最悪の状況にも備えている」と韓国のメディアに語っているようだが、米朝首脳会談を前にシリア空爆に続く今回の在韓米軍家族らの退避訓練を金正恩政権がどう受け止めているのか、北朝鮮の反応が注目される。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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