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“東大乱立”の中、東大を出て芸人をするということ。「田畑藤本」が語る今の本音

中西正男芸能記者
「田畑藤本」の田畑勇一(左)と藤本淳史

 吉本興業初の東京大学卒業芸人として2008年の結成当初から注目を集めた藤本淳史さん(36)と立命館大学卒の田畑勇一さん(36)のコンビ「田畑藤本」。経歴を生かし、クイズ番組などでも存在感を見せてきましたが、相手を論破していくオリジナルカードゲーム「ROMPA!!」を考案するなど、さらに独自の道を歩んでいます。今はテレビ番組、タレント共にあらゆる“東大ブランド”がひしめいていますが、その中での東大卒芸人の意義とは。リアルな思いを語りました。

東大ブランドの乱立

 田畑:藤本が吉本初の東大芸人ということで、1年目の頃からいろいろとお話をいただいたりもしてきたんですけど、ここ10年ほどで、東大もだし、あらゆる高学歴の方が芸能界にもたくさん出てこられたなと痛感しています。

 藤本:“東大”とか“高学歴”という要素は、嫌われる方向のイメージを持たれる。そういう入りで僕もつもりをしていましたし、それで当然という思いもあったんですけど、最近の流れを見ると、好感度も高い高学歴の人が次々に出てこられて。これはね、やっかみですけど、納得いかないという思いはありますね(笑)。時代の変化というか。

 あと、僕の方を向く目が確実に少なくはなっています。芸能界における“高学歴需要の総数”は今もほぼ変わってないと思うんですけど、昔は半分が宇治原さん行って、残りの半分を何人かで分けていたという感じだったんです。それが、現在はものすごくたくさんの人で分けているので、こちらの分け前も減ってきたと言いますか。そこはリアルに感じています。

 田畑:ま、今となっては、僕には高学歴の分け前はほとんど来てないですけどね(笑)。

 自分のことだからあえて言いますけど、この立命館大学という部分が高学歴タレントというところに入るとね、すごく立ち位置が難しいというか(笑)。

 「僕みたいなもんが…」と遠慮したら遠慮したで、それこそ、さっきの世間のイメージじゃないですけど「謙遜して、逆にあざといわ」みたいになりかねないし、胸を張ったら張ったで、こっち(藤本)にバカにされるというね。ホンマにね、今の高学歴乱立の中、立命館大学は本当に難しいですよ。自分のことだから、これもリアルに感じています。

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明石家さんまのハイスペックさ

 藤本:東大を出て芸人の仕事を始めて12年ほど経ちますけど、その中でいろいろと経験して思い知ったのが、売れている芸人さんの超ハイスペックさです。

 こちらは、テストを制限時間内で解答して点数を取るというトレーニングはしてきましたけど、お笑いの世界はこの制限時間が極端に短い。何か言われた時の返しとか。まさに、一瞬の制限時間の中で適した答えを出していく。そして、売れている人はそこで正解を連ねていく。これは、すごいことだなと改めて感じました。

 田畑:知識の取り入れ方もすごいし、記憶力もすさまじい。それを僕らが体感したのが「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出してもらった時でした。

 相方が東大卒ということで、まだ芸歴半年くらいの時に出演させてもらいまして、もちろん、ほとんどの人が僕らのことを知らないですし、さんまさんとも初対面でした。

 よく漫才のツカミなんかで「よかったら、名前だけでも覚えて帰ってください」というのがありますけど、あれになぞらえて、当時から「学歴だけでも覚えて帰ってください」というフレーズを使っていたんです。

 収録が始まって、さんまさんが僕らを紹介してくださる時に「次はこのコンビ『藤本田畑』」と言われまして。すぐに「逆です!『田畑藤本』です」と言ったら「名前なんかどうでもいいやろ」とおっしゃったんです。その場ではすぐに「いやいや、名前、大事でしょ!」みたいなことを言ったんです。ただ、後からよくよく考えたら、あれは“フリ”やったんやと…。「そうなんです。名前はいいので、学歴だけでも覚えて帰ってください」を引き出すための。

 当時、さんまさんが僕らのことを知ってくださってるなんて夢にも思ってないですけど、その流れからしたら、恐らくは何かで僕らのことをご覧になって、そのフレーズが頭に残っていた。それを僕らに言わせてあげようと思ってくださってのフリやったんやと。

 藤本:それが間違いなくフリだったと確信したのは、そこから10年くらい経った時でした。さんまさんに直接その時の話をさせてもらったんです。じゃ「あぁ、それな。あった、あった」とおっしゃたんです。

 10年前の、そんな一瞬のやり取りまで覚えてらっしゃる。そのこと自体も驚きですし、それを覚えてらっしゃったということは、多少なりとも、僕らに話を振ってやろうという意識を持ってくださっていたということでしょうし。どこまでもありがたいばかりですし、幾重にもすごい…。確実に、東大受かります(笑)。

 それと、今から10年ほど前に「やりすぎコージー」(テレビ東京)に出してもらったんです。NSCの卒業生企画で、卒業したばかりの超若手が短いネタをやるという内容で。

 そこから1年ほど経った時に、また別の千原ジュニアさんの番組に呼んでいただいて、僕がシークレットゲストの一人として出してもらうという流れだったんです。

 ジュニアさんとの接点は「やりすぎ―」での短いネタ披露だけだったんで、シークレットとしていきなり僕が登場した時に、思わず「誰か覚えてますか?」と尋ねたんです。

 「あれやんな、東大の!ほんで、相方も頭エエねんな、立命館で。せやせや!でも、キミに言わせたら…?」

 「中学です」

 相方をくさす漫才のツカミを覚えてくださっていて、さらに一瞬で取り込んで、こちらにオリジナルのフリまでやってくださったんです。記憶力、そして、瞬時に処理する対応力。こんな話を先輩に対してするのは不遜な物言いなんですけど…。「君に言わせたら…」という部分は、あまりにも答えやすすぎて震えました(笑)。

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“それ以外”の戦い

 藤本:それこそ、さんまさんの「さんまの東大方程式」(フジテレビ)とか、いろいろな番組も増えて、東大生のイメージもかなり変わりました。

 僕らがコンビを組んだ頃は、まだ東大生イコール面白くないというイメージがあったので、そのイメージを変えようという思いもあってお笑いをやり始めたんですけど、周りの空気とか環境は変わったと感じています。

 それと同時に、実は、芸人という概念もかなり変わってきたと思います。もっと広義になってきたというか。ネタだけでなく、オールマイティーに活動するというか。

 田畑:僕らが出てきた頃はとにかくネタでした。今でもネタが大切なことは全く変わらないんですけど、そこに“それ以外”という戦い方も増えたと言いますか。

 僕らで言うと、こうやってカードゲームを出させてもらったり、他の若手だったらアートの個展を開いて注目されるパターンもありますし。幅が広くなった分、自由でもあり、より難しくもあり。両面あるとは思うんですけど、だからこそ、僕らの色を出しやすい時代でもあるんだと思うんです。

 カードゲームは1年ほど前に企画のお話をいただきました。コンビの色というか、これまでの活動からいただけたお話なので、本当にありがたいばかりなんですけど、僕がもともとおもちゃに興味があって希望を言わせてもらいました。

 たとえば“無人島に持って行くもの”“日本が世界に誇れるもの”みたいなお題が出まして、それについて配られた絵札を使って自論を展開して相手を論破するという。

 このゲームがたくさん売れたら、印税的に、僕らにもたくさんお金が入ってくるかですか?いや、これがね、まだあまり話ができてませんでして…。

 ただ、吉本の担当者さんいわく「カードゲームは印税的に儲けるというよりも、これを出すことでコンビの方向性を示す。認知度を上げる。クリエイターとしての面も見せる。学校で使ってもらって教育分野にも強い存在になる。そういう今後の展開こそが意味があるのでは」ということでして。お金云々の話はまだ何も聞いていないんです。

 藤本:結局、僕らが論破されてる気もしますけど(笑)。ま、柔軟にどんな形ででも、自分たちの色を出していく。それが僕らがやるべきことなんだと思っています。

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(撮影・中西正男)

■田畑藤本(たばたふじもと)

1984年4月10日生まれの田畑勇一(本名・田畑祐一)と84年4月3日生まれの藤本淳史が2008年コンビ結成。二人とも京都府出身。東京NSC13期生。田畑は立命館大学、藤本は東京大学を卒業しており、吉本興業初の東大卒芸人のコンビとデビュー当初から注目される。相手を論破していくオリジナルカードゲーム「ROMPA!!」を考案。12月の発売を目指し、クラウドファンディング(https://silkhat.yoshimoto.co.jp/projects/2029)を実施中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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