呪縛から解き放つ、男子バレーの快挙
〝ミュンヘンの呪縛〟から解き放つ快挙だった。
バレーボール男子の日本代表が23日、ネーションズリーグ決勝大会で銅メダルを獲得した。昨季の世界選手権を制したイタリアを3―2で撃破。主要国際大会では1977年ワールドカップで2位になって以来、46年ぶりに世界の表彰台に立った。
(2009年ワールドグランドチャンピオンズカップで3位になっているが、大会のレギュレーションや価値を考えると、46年ぶりとの表現がふさわしい)
日本のバレー界は長く、1972年ミュンヘン五輪で金メダルを獲得したという成功体験に縛られてきた。一人時間差、セッターから離れた位置で放つBクイック、セッターの後ろに入るCクイック…。多くの技を編み出し、世界を制した。日本が五輪出場を逃すなど低迷が続いた時、多くのバレー関係者が口にしたのが「日本独自の技や戦術を開発しないと勝てない」という言葉だった。
本当にそうだったのだろうか。今大会で強豪国と渡り合い、3位に食い込んだ日本にオリジナルのものはあったのだろうか。答えは〝否〟だ。
日本が突き詰めたのは世界の潮流に乗り、同じ土俵に乗ること。そして、その精度を上げていくことだった。2017年にフランス代表監督やポーランド代表コーチとして実績を積んだフィリップ・ブラン氏がコーチに就任。監督として指揮を執る現在まで、それは一貫している。
まず、徹底されたのはクイックやパイプなど、コート中央エリアからの攻撃を増やすこと。従来の日本ではリスクを恐れて選択できず、サイド偏重になる傾向が多かった。ブラン氏はミスになったとしても、コート中央からの攻撃を通すことを求めた。
それに加え、バックアタックを含めて常時4人で攻撃することも貫き続けた。3人である相手のブロックよりも数的優位に立つ状態をつくることで、日本の攻撃は飛躍的に通るようになった。
そしてサーブの強化。リスクを恐れて弱いサーブを打つのでは、相手に自在に攻撃されてブレイクチャンスを作ることはできない。だからこそ、強いサーブを高確率で入れることを目指して取り組んだ。例えミスが出たとしても、トライする。それを繰り返すことで世界のトップに肩を並べるサーブ力が付いた。3位決定戦のイタリア戦で、相手の7点を上回る9点をサーブで奪ったことが、それを何よりも証明している。
今の日本には石川祐希(ミラノ)や高橋藍(日体大)、西田有志(パナソニック)、宮浦健人(パリ・バレー)といった世界レベルのサーブを放つ選手が並ぶ。そのサーブを練習で受けることができるようになったからこそ、サーブレシーブも堅固になるというプラスの循環が働いた。
今大会の日本の快進撃を支えたトランジション(切り返し)からの攻撃も、進化のたまものだ。
弱点だったブロックを手の出し方、位置取りなど細かな技術から改善。得点こそ強豪国よりも少ないが、イタリア戦の第5セットでの山内晶大(パナソニック)のブロックによる2得点は鍛錬のたまもの。効果的なワンタッチも大会を通して多く取れていた。ブロックが改善されたことで相手のスパイクコースを絞りやすくなり、ディグも劇的に堅くなった。ベストディガー部門で山本智大(パナソニック)が1位、高橋藍が5位に名を連ねられたのはブロックが良くなったことも大きな要因の一つ。技術、そしてリードブロックを基本とした戦術の浸透という世界の強豪と同じことを目指した結果が、実を結んだと言える。
275点を挙げてベストスコアラーに輝いた石川の存在は言うまでもない。大学在籍中から世界トップのイタリア1部リーグで揉まれて力をつけた石川がいたからこそ、海外へと飛び出し、世界を知る選手が増えた。そのことで個々の能力が高まり、結果的に集合体としてのチームも強くなった。突出した〝石川祐希〟という存在が、日本のレベルを引き上げた。高いレベルのリーグで揉まれて力をつけるという選択もまた、強豪国の選手らが実践していることだ。
戦術、技術、個の能力、考え方。全てを世界と同じ土俵で戦うまでに引き上げたことで、日本は表彰台に立った。愚直に世界と同じことをし続けた。そこに「日本オリジナル」はない。
ミュンヘン五輪金メダルをはじめ、隆盛を誇った過去があるから「復活」と表現される。だが、過去とは全く異なるアプローチでたどり着いた46年ぶりのメダルだ。
国際映像の実況は、日本が銅メダルを決めるとこう絶叫した。
〝Japan make a history!!〟
そう、この銅メダルは「復活」ではない。日本を呪縛から解き放ち、新たな歴史を築いたのだ。