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露呈した日本の弱点 女子バレー 課題が残った攻撃力

柄谷雅紀スポーツ記者
中田監督の就任1年目が終わった。課題も収穫もあるシーズンだった。(写真:松尾/アフロスポーツ)

 中田久美監督のもとで東京五輪に向けてスタートを切ったバレーボール女子日本代表。10日に閉幕したワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)女子大会で、今季の活動が終わった。各大陸王者などの強豪が集ったグラチャンでは2勝3敗で6チーム中5位。強豪国と善戦した場面もあったが、力不足が目立った場面もあった。

 日本には何が足りなかったのだろうか。それは相手から点数をもぎ取っていく攻撃力だろう。点を取りにいくための過程に、上位チームと差があった。

攻撃に必要な「過負荷」と「分断」

 バレーボールは6人でするスポーツだが、ブロックに飛べるのは前衛の3人だけ。トスが上がったアタッカーに対して、ブロックが1人の1対1ならアタッカーが有利。そうならないために、守る側はアタッカーに対して複数人のブロックをつけるべく戦術を練っている。それが世界で主流のトスを見てからブロッカーが移動する「リードブロック」である。

 中国のシュ・テイやロシアのゴンチャロワのような絶対的なエースがおらず、高さでも劣る日本が強豪国のブロックに対峙していくには、組織的な攻撃を仕掛けてアタッカーに有利な状況を作り出すことが必要だ。しかし、それができていなかった。

 キーワードは「過負荷」と「分断」。相手の3人のブロッカーに対して許容以上の負荷をかけること=「過負荷」、3人のブロッカーを分断してしまうこと=「分断」である。

 ブロッカーを過負荷にするには、攻撃の枚数を増やすことが最も有効だ。つまり、3人のブロッカーに対して4人のアタッカーで攻撃を仕掛けるのである。そのためには後衛のウイングスパイカーは常にバックアタックに入ることが求められる。さらに、セッターが前衛の時には前衛のアタッカーが2人になるため、後衛のウイングスパイカーに加えてセッター対角の選手もバックアタックに入ることが必要になる。そのため、オポジットと言われるセッター対角には、高い攻撃力を持った選手を配置するのが世界の流れだ。4人のアタッカーが連動して攻撃をすることで、3人しかいないブロッカーに負荷をかけ、ブロックの網をかいくぐるのである。

 中田監督の就任以降、日本も「4枚攻撃」を掲げて取り組んできたはずだった。

足りなかった攻撃枚数

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 日本はグラチャンの全試合、全セットでセッター対角に新鍋理沙を起用した。新鍋のディフェンス面、そして前衛時の攻撃面での貢献度は非常に大きい。しかし、新鍋が後衛に下がったときに、何度も連続失点して流れを失った。新鍋がバックアタックに入らないことで攻撃枚数が減り、数的有利な状況を作り出せていなかった。5試合中4試合で先発したセッター冨永こよみは「新鍋はディフェンスメインでっていうことになっている」と、バックアタックに入らない理由を説明した。

 さらに、もう一つ問題点があった。後衛のウイングスパイカーのバックアタックへの参加意識が低いことだ。今大会、ほぼ固定で出場していた内瀬戸真実のバックアタックの打数はほとんどない。後衛時にバックアタックの助走に入らないことも多かった。内瀬戸も「全員バックアタックに入るという意識はしていたけど、ラリーが続いたりするとどうしてもレシーブに意識がいったり、フォローに入らなきゃという意識の方が強くてバックアタックが呼べていなかった。劣勢になったときにいろんな攻撃ができていなかった」と振り返った。広い守備範囲を受け持っており、レシーブ面の負担も大きい。しかし、世界的に見ると、それでもウイングスパイカーはバックアタックに入っている。

弱点だったローテーション

図は中国戦のケース
図は中国戦のケース

 日本にとって、内瀬戸が後衛におり、前衛に2人のアタッカーしかいない図1のローテーションが最大の弱点だった。バックアタックを打つ後衛の選手がいないため、前衛のアタッカー2人で3人のブロッカーと対峙せざるを得ない。数的不利な状況での攻撃は決まらず、連続失点を幾度も喫した。ブラジル戦で落とした第2セットで24―20から逆転されたのも、ロシア戦の第4セットで22―20から逆転されたのも、このローテーションだった。(ブラジル戦の第2セットは図1の野本の位置に石井、荒木の位置に奥村。ロシア戦の第4セットは図1の荒木の位置に島村。問題点は同じ)

 高さのない日本が、強豪国のブロックに立ち向かうためには攻撃枚数を増やして数的有利な状況を作り、ブロッカーを「過負荷」の状態にしなければならない。しかし、新鍋がバックアタックに入らないことで、セッターの前衛時には後衛のウイングスパイカーを合わせても最大で3人の攻撃しかなかった。後衛のウイングスパイカーが内瀬戸の時には、2人のアタッカーで3人のブロッカーに対峙する数的不利な状況だった。結果的に、ここで日本の攻撃が決まらなくなり、相手にブレイクポイント(自チームにサーブ権があるときの得点)を奪われて連続失点していた。

 セッター冨永は言う。「ライト側のバックアタックが得意な堀川(真理)が入ってくると別になる。それに加えて(ウイングスパイカーの)真ん中のパイプ(中央からのバックアタック)もあるので4枚になったりする」。しかし、堀川の出番はセット途中での2枚替え程度にとどまり、その攻撃の形を見ることはできなかった。

 仮に堀川が入った場合はどうなっていただろうか。堀川のライト側のバックアタックが、日本が多用するミドルブロッカーがライト側に流れて攻撃するブロード攻撃と攻撃位置が重なる。アメリカはブロード攻撃を使った場合、オポジット(セッター対角)のドルーズがセンター寄りに切り込んで短いトスのバックアタックを打って攻撃位置をずらしていた。こういうコンビネーションが使えると有効だったはずだ。しかし、そこはまだ練習不足だった。「長いワンレッグ(ブロード攻撃)を(ミドルブロッカーが)呼んで、それを聞いて堀川がしっかり短いのに入れればいいんですけど、そこのコンビネーションの練習がまだもうちょっと必要と思う」と冨永。来季に向けて確立していく必要がある。

使えなかったコートの幅

 3人の相手ブロッカーを分断し、複数人のブロックがつかないようにすることも、あまりできていなかった。このためにはコンビの組み立て方が重要で、コートの幅9メートルを使うことが求められる。新鍋が前衛時にはライト側からの攻撃があるため、コートの幅9メートルを使うことができていたが、新鍋が後衛に下がると、できていなかった。

 最終戦となった中国戦を例に出して考えたい。この試合では野本梨佳が先発出場し、後衛の時には積極的にバックアタックに入っていた。しかし、セッターが前衛のときは野本のバックアタックを加えてもアタッカー3人で、3人のブロッカーに対して数的優位な状況は作れていない。そのときに重要になるのが「分断」の考え方である。

 ブロッカー3人で9メートルを守るのと、6メートルを守るのでは、どちらがブロッカーにとって難しいか。それは間違いなく9メートルである。しかし、コートの幅9メートルを使った攻撃ができていない場面が多く、ブロッカーにとっては非常にやりやすい状況となっていた。

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 図2を見てもらいたい。岩坂名奈がBクイック、野本がパイプ、内瀬戸がレフトから攻撃することで3枚攻撃はできている。しかし、使っているコートの幅はセッター前方のレフト側約6メートル。セッター後方のライト側約3メートルから攻撃する選手はおらず、無駄になっている。当然、ブロッカーはそこをカバーする必要はない。3人のブロッカーが日本のレフト側に寄り、3人で6メートルをカバーしていた。

 象徴的な場面があった。第2セット、8-10で日本が取った9点目。レセプションアタック(サーブレシーブからの攻撃)で岩坂はBクイックに入った。相手ブロッカー2人がリードブロックで反応して跳んだ。スパイクはレシーブされてラリーになった。ボールが日本コートに戻り、次の攻撃で岩坂は再びBクイックを打った。このとき、岩坂には中国がリードブロックで3枚ついていた。ブロックの間に打って決まったものの、完全にブロック優位の状況を作られていた。この時の攻撃は2回とも、図2の岩坂がBクイック、野本がパイプ、内瀬戸がレフトだった。

 この場面だけでなく、セッターが前衛の時には同じような状況が多々あった。しっかりと対策してくる強豪国は、ここで日本の攻撃をブロックの餌食にしてブレイクポイントを奪っていた。

 同じローテーションでブロックの分断に成功したときもあった。中国戦の第3セット、5-9の場面だ。ここで野本は、これまでのパイプでなくライト側に回ってバックアタックを打った。そうすると、9メートルの幅を使えている。野本のバックアタックにトスが上がると、ブロックは1人もついてこなかった。それまでの日本の攻撃がレフト側からばかりで、相手ブロックがレフト側に寄っていたこともあるが、このように9メートルの幅を目いっぱい使っていく組み立ても重要になる。

 グラチャンでの日本の攻撃は「過負荷」と「分断」が機能していたとは言いづらい。これから世界の強豪に立ち向かっていくためには、もう一度攻撃を練り直す必要がある。

まだ「40%」、来季は次の段階へ

 中田監督が就任してまだ1年目。チームもまだ成長途上だ。指揮官は言う。

 「完成度を言葉で言うのは難しいが、五輪までが3段階で今季は1段階目。40%ぐらいは土台ができている。来季は今季のことを土台にしながら70%ぐらいまで強化を積み重ねていきたい」

 コンビネーションの構築には時間がかかる。この大会で出た弱点をもとに、戦略を練り、新しい攻撃の形を作ってくるだろう。

 中田監督は「打ち切れる選手を補強していこうと思う」と話し、リオデジャネイロ五輪でオポジットを務め、現在はけがで離脱中の長岡望悠、攻守で高い能力がある黒後愛、井上愛里沙の名前を挙げた。これらの選手が入ることで、またチームも変わってくる。

 

 来年には世界選手権がある。日本がどのような攻撃を作り上げ、世界と戦うのか期待したい。

スポーツ記者

1985年生まれ、大阪府箕面市出身。中学から始めたバレーボールにのめり込み、大学までバレー一筋。筑波大バレー部でプレーした。2008年に大手新聞社に入社し、新潟、横浜、東京社会部で事件、事故、裁判を担当。新潟時代の2009年、高校野球担当として夏の甲子園で準優勝した日本文理を密着取材した。2013年に大手通信社へ。プロ野球やJリーグの取材を経て、2018年平昌五輪、2019年ジャカルタ・アジア大会、2021年東京五輪、2022年北京五輪を現地で取材。バレーボールの取材は2015年W杯から本格的に開始。冬はスキーを取材する。スポーツのおもしろさをわかりやすく伝えたいと奮闘中。

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