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人事における「戦略・戦術・戦闘」の違い〜最終的には戦闘力の差で優劣がつくことが多い〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
結局のところ人事は、個のレベルの動きで優劣がつくことが多い。(写真:Paylessimages/イメージマート)

■「戦略」「戦術」「戦闘」

「戦略」と一続きの言葉に「戦術」と「戦闘」という言葉がありますが、私が述べる際の、これら3つの言葉の定義の違いについて明らかにしておきます。特に、人事における意味についてご説明します。

■「戦略」とは

「人事戦略」とは、「組織をどうしたいか」「どんな組織構造、人事システム、人材、文化にしたいか」という、組織の「ゴールイメージ」です。何をするか、つまりWhatを指します。例えば、「採用戦略」と言えば、どんな人をどれだけ採りたいかを決めるということです。「今年の採用は、ポテンシャル(潜在能力重視)の採用から、スペシャリティ(専門性重視)の採用へシフトする」というようなことです。

■「戦術」とは

人事における「戦術」とは、上述の戦略(組織のゴール)を実現するための手法論です。どうやってするか、つまりHowを指します。こちらも採用を例に取れば、採用の「戦術」とは、どんなチャネル(採用広告、人材紹介、社員紹介、合同説明会、リクルーター等々)から応募者集団を形成するかということや、どんな採用選考プロセス(選考回数、選考手法(面接・適性検査・グループディスカッション等々))で採用活動を行っていくのかということを設計することです。「就職ナビを止めて、リクルーターなどを中心としたリファラル(紹介を通じた)採用を推進していく」というようなことです。

■「戦闘」とは

最後に、人事における「戦闘」とは、戦術を実現する個々の担当者が実際に行っている個別具体的な実際の思考や行動のことを指します。「戦闘力」というように「力」という言葉を追加して使われることが多いのですが、それは、戦略や戦術というものが、特に人事という領域においては、決めればできるものではなく、実現するかどうかは、担当者の「能力」=「戦闘力」次第だからです。例えば、これまでのオーディション型採用(応募してくる人材を待って、来た人をジャッジして採用する「待ち」の採用)から、スカウト型採用(こちらから優秀な人材にアプローチし、最初は自社を志望していなかった人を口説いて採用する「攻め」の採用)へと、採用戦略や戦術を変更することは、そう決めればよいだけなので簡単です。

■人事は「戦闘力勝負」となることが多い

しかし、実現するのは並大抵の努力では難しい。「今年から、優秀な人材を社員紹介中心に集め、そこから出てきた優秀な人材を口説いて採る」と決めるのは簡単ですが、「社員から自社への応募者紹介をうまく増やす力」とか「まったく最初は自社を志望していなかった人材を、徐々に口説いて、最後は入社するまでに導く力」などがなければ、絵に描いた餅です。人事の各業務の中でも特に採用においては、私は「戦略よりも戦闘」と言っているぐらいです。他の人事領域よりも戦略的オプション(選択肢)が少ないため、結局、最終的な他社との勝負は、各担当者の戦闘力の勝負ということになりがちです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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