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世界恐慌時と同様の今回の米株の下落、当時は何が起きていたのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 米国の株式相場が歴史的な下げに見舞われている。ダウ工業株30種平均は90年ぶりに8週続けて下落した。ダウ平均は20日までの1週間で、前の週から934ドル(2.9%)下落した。8週間の下げ幅の合計は約3600ドルに達した。金融情報会社リフィニティブによると、8週連続の下げは世界恐慌のさなかにあった1932年以来、90年ぶりとなる(22日付日本経済新聞)。

 世界恐慌のさなかにあった1932年には何か起きていたのか。少し遡って確認してみたい。

米国の投機ブーム

 米国では1913年にFRBが設立されたことで金融システムの安定とともに、好不況の波が抑えられるとの安心感も高まった。第一次大戦後の国際金融市場は、シティに変わり、ウォール・ストリートが次第に地位を高めて行く。ニュー・エコノミーへの期待も手伝って米国の好景気は1929年まで継続し、ウォール街は次第に過熱感を強めて行ったのである。

 金本位制に復帰した英国が金(ゴールド)の流出に苦しんでいたことに対応し、イングランド銀行への支援を目的として米国ではFRBが公定歩合を引き下げたことにより、米国の株式市場の投機ブームに拍車をかけるかたちとなってしまった。

 株式市場の過熱を防ぐためFRBは1928年1月から1929年5月にかけて公定歩合を3.5%から5%に引き上げた。しかし、株式市場への投機熱は収まらず、また1920年代に米国では会社型投資信託がブームになり、この投資信託を経由して個人資金が株式市場に流れこんだのである。

暗黒の木曜日

 1929年6月に米国では鉱工業生産指数がピークを打ち、景気が後退局面に入っており、9月3日に米株式市場はピークを迎えた。1929年10月24日の「暗黒の木曜日」と呼ばれたニューヨーク株式市場の急落をきっかけに発生したのが大恐慌である。

 1930年以降、大恐慌による通貨危機で金が流出し、再び金本位制が機能しなくなり、英国は1931年に再び金本位制を離脱した。この結果、今度は米国から金が流出したことに対処するため、恐慌時にもかかわらずFRBは公定歩合の引き上げを実施した。

 これをきっかけに金融機関の破綻が相次ぎ、再び金融危機が発生した。1932年にFRBは一時的に10億ドル近い政府証券の買いオペレーションを実施した。

 米国をはじめ各国で銀行の倒産が相次ぐ。「図説 銀行の歴史」によると、1929年に営業していた25000行あまりのアメリカの銀行のうち、少なくとも1350行が1930年に閉鎖に追い込まれ、1931年にはさらに2293行が、そして1932年には1453行が破産した。

 米国の失業率は1929年の3.2%から1933年には24.9%に拡大し、鉱工業生産もピーク時の5割程度に落ち込むなどマイナス成長が続き、デフレが深刻化した。

現在の姿

 当時と今回の株式市場を取り巻く状況は、時代背景等は異なるものの、FRBの金融政策が絡んでくるあたり、似通ったところがある。同じことが起きるとは限らないが、当時のことを学んで、1932年のような危機的状況を招かないようにすることも必要かと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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