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市場と日銀とのすれ違い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 18日に日銀の植田総裁は「最近の金融経済情勢と金融政策運営」というタイトルの講演を行った。

 この講演内容そのものは、これまでの発言をくり返したものとなっていた。しかし、この講演内容を受けて、外為市場でドル円が153円台が155円台に上昇、つまり円安ドル高が進んだ。ドル円の2円もの上昇は大きな変動といえる。

 どうして日銀総裁がこれまでと同様の発言をしたにもかかわらず、ドル円が大きく動いたのか。これは市場での思惑が影響していたと思われる。

 市場ではFRBの利下げが慎重になるとの思惑が強まっており、米長期金利が4.5%まで上昇していた。これもあって円安ドル高が進んだ。

 この円安もあって、日銀は12月の金融政策決定会合で追加利上げを決めるのではないかとの思惑があらためて強まった。

 日銀は12月か来年1月に利上げを決定するのではとの予想は以前から強まっていたが、その予想が次第に12月にシフトしてきた。12月の利上げの蓋然性が強まったといえる。

 そして日銀がもし12月の決定会合で利上げを行うのであれば、事前にそれを織り込ませてくるのではとの思惑も強まっていたのである。

 これは7月の利上げがややサプライズとなったことで、8月の株式市場などでの動揺を誘ったひとつの要因となったとの見方があった。このため今回はサプライズを避けるのではないかとの思惑が強まっていた。

 つまり市場では、このタイミングで日銀総裁自らが、12月の会合で利上げもありうることを示唆するのではとの見方が強まっていたとみられる。

 しかし結果として、具体的な示唆などはなく、発言内容はこれまでと変わらないものであった。これによって日銀は利上げには「慎重」といった認識も持たれてしまった可能性がある。それによる円安の動きであったかと思う。

 個人的には円安や米長期金利の上昇等はなくとも12月に利上げを決定するであろうと予想しており、これはいまも変わらないし、今回の総裁の発言からも淡々と調整を進めることが引き続き示されている。

 しかし、市場は12月の利上げの可能性について、もう少し裏付けがほしいと思っているのかもしれない。そういった動きでもあった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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