高市早苗氏が総裁選所見発表演説会で強調していたサイバーセキュリティ「新たな戦争に対応できる国防体制」
「ゲームチェンジャーは衛星、サイバー、電磁波、無人機、極超音速兵器」
2021年9月17日に、自由民主党(自民党)の総裁選挙が告示された。河野太郎規制改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4名が立候補を届け出、4人で所見発表演説会を行った。
所見発表演説会でも、高市氏はサイバーセキュリティ対策の強化を訴えていた。高市氏は以前から自身のコラムでも、安全保障の観点からサイバーセキュリティの重要性を訴えていたし、出馬会見の中でもその重要性を強調していた。
高市氏は所見発表演説会でサイバーセキュリティについて凛とした表情と明確な言葉で以下のように言及していた。
国の究極の使命は国民の生命と財産を守り抜くこと。領土、領海、領空、資源を守り抜くこと、そして国家の主権と名誉を守り抜くことだと考えております。(中略)
経済安全保障と国防に関わる脅威力の強化について述べます。また機微な技術、先端技術、重要物資、また個人情報の海外流出を防ぐために、経済安全保障包括法を制定し、秘密特許や一定の外国人研究者のスクリーニングを可能とする法整備を行うことを検討します。
今年2月に施行された中国の海警法に対応できるように海上保安庁法の改正に取り組みます。また新たな戦争の形に対応できる国防体制を構築します。このゲームチェンジャーは衛星、サイバー、電磁波、無人機、極超音速兵器と考えています。敵基地の無力化はなかなか困難な取組ですが、これを可能とするための法制度の整備、訓練と装備の充実、防衛関連予算の増額、さらに海底ケーブルと衛星の防御をしっかりと行ってまいります。(中略)
私の政策で特に大きな財政出動を伴う投資は、大胆な危機管理投資、成長投資です。産学官の力を結集して、急いで着手すべき危機管理投資の例をいくつかあげさせていただきます。(中略)今、海外の送信元から日本に向けたサイバー攻撃ですが、4年前の衆議院選挙の時には、1日平均3億9000万回でした。昨年の1年間で海外から日本へのサイバー攻撃は、1日平均13億6600万回です。私は国民の皆様の大切な命や財産を守るために、特に医療、航空、鉄道、電力、ガス、水道、金融、クレジットの分野でのサイバー防衛体制の樹立を急ぎます。また情報を安全にやりとりできる量子暗号通信の研究開発と社会実装も急ぎます。そして高度セキュリティ人材の育成が何よりも必要です。
またデジタル化の進展によって消費電力が増えていきます。2030年には約30倍になると予測されています。省電力化研究の促進と電力の安定供給体制の確立が非常に重要になりますので、早急に着手します。(中略)これらは国内でも富や雇用を創出します。そして同じ悩みを抱えている諸外国へのサービス展開によって、成長投資にもなります。技術成果の有効活用と人材育成、国際競争力の強化に向けた戦力的な支援を行っていきます。(中略)経済安全保障上、また日本のニーズにあった国産の量子コンピュータの開発を行っていきたいです。
外局にサイバーセキュリティ庁を有する情報通信省の創設、経済安全保障の観点から対日外国投資委員会の創設も検討しています。
(自民党総裁選挙の所見発表演説会での高市早苗氏の発言より)
また、共同記者会見で経済安全保障包括法について、高市氏は以下のように語っていた。
例えば今、中国が開発している、いや開発を終えていると思いますが、極超音速兵器に使われている耐熱素材、スクラムジェットエンジンの技術は、中国人の研究者が日本に来て、しかも日本の科研費も使って研究しています。そして中国に戻って、このような技術開発に従事している例が散見されています。経済安全保障包括法が必要な一番大きな理由はここにあります。このようなことが起きないように外国人の研究者のスクリーニングをしたり、秘密特許をしっかりと整備するための法制度が必要です。
(所見発表演説会後の共同記者会見での高市早苗氏の発言)
サイバースペースにおける安全保障の重要性
国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。サイバー攻撃による情報窃取は経済の安全保障において危機であり、重要インフラへの攻撃によるブラックアウトや原発事故などが発生した場合は国家の安全保障においても非常に危険である。
そしてサイバー攻撃では、攻撃側が圧倒的に優位で強い。サイバー攻撃は相手のシステムの脆弱性を見つけて、そこから攻撃を仕掛ける。相手を攻撃をしている時に、自分のシステムにも同様の脆弱性を見つけて、修正することもできる。サイバー防衛にとってもサイバー攻撃は効果があり、サイバースペースでは「攻撃は最大の防御」である。
さらにサイバー攻撃を受けた際に、リアルな経済や金融制裁などで反撃を行うことは、抑止になる。「対話」と「抑止」は国際政治と安全保障の基本であり、特に大国間同士では重要である。抑止の前に対話が必要だ。サイバーセキュリティがイシューとして国家間でテーブルに上がって対話が行われているうちはまだよい。お互いが相手側からのサイバー攻撃を意識していることであり、牽制を目的として対話している。そこには抑止効果もある。だが、例えば米中間では、もはやサイバーセキュリティをめぐる対話や、中国人容疑者の起訴などによる抑止では止まることなく、2020年7月には中国政府はヒューストンの中国総領事館を閉鎖してしまった。そして米国政府は対抗措置として四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖してしまい一触即発の危機になったこともある。
またサイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけではできない。サイバー攻撃はどこから侵入してくるかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。
同じ価値観を共有し、同等の能力を保有している国同士でのサイバー同盟は非常に重要である。サイバーセキュリティの能力の高い国家間でのサイバー同盟は潜在的な敵対国や集団からのサイバー攻撃に対する防衛と抑止能力を強化することにつながる。防衛同盟において重要なのは、リアルでもサイバーでも対外的脅威に対する安全保障だ。
そのため多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、サイバー攻撃対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。マルウェア情報やサイバー攻撃対策の情報交換だけでなく、平時においてもパブリックでの議論を行うことも信頼醸成に繋がるので重要である。