マイナス金利政策の功罪
日銀のマイナス金利の導入の理由とその功罪についてまとめてみた。
○ 何故、このタイミングで金融政策の変更を行ったのか」
年初からの原油安などを要因とした世界的な株価の下落、原油安によるデフレ圧力に対処するため。ドル円は1月20日に115円台をつけた。21日には日経平均が16000円近くまで下落した。
黒田日銀総裁は1月20~23日のスイスで開かれたダボス会議の前に、帰国後仮に追加緩和を行うとしたらどういうオプションがあるか検討してくれと指示。
21日のECB理事会でドラギ総裁は3月の追加緩和を示唆。
12月のECBの追加緩和や日銀の量的・質的緩和の補完措置を受けて市場はネガティブに反応(株安等)したことで、タイミングとしても政策変更は難しいとみられていた。1月の決定会合での政策変更ありとの見方は少数派であり、その意味では日銀はサプライズ効果も意識していた可能性がある。
2013年4月の量的・質的緩和、2014年10月の量的・質的緩和、2015年12月の補完措置と同様に機密保全が徹底され、日銀の企画担当などの一部にしか知らされていなかった可能性が高い。具体的にはごく少人数で企画されたと予想される。
○ 何故、マイナス金利なのか
日銀総裁は量・質・金利の3つの次元で緩和手段を駆使して金融緩和を進めるとしているが、特に量による政策が限界に来ていることで、政策目標を金利に戻すことが今回の主目的となっているとみられる。
12月の補完措置はあっても、ここから国債を大胆に買い増すことは国債の年間発行額をも大きく上回ることになり、技術的にも困難となりつつあった。
ただし、岩田副総裁らリフレ派の主張が間違っていたと認めることもできず、量を残したまま政策目標を金利に移行させるために取った方式が、スイスなどで採用されている階層構造方式である。これを使えば量を残せることで、それによる効果も維持させるとの説明が可能となる。これ以上、量を増やすこともしなくて済む上、超過準備の一部の金利をマイナスにするだけで、追加緩和が可能となる。つまり黒田総裁がこれまで否定していた戦力の逐次投入が可能となるのである。
○ マイナス金利政策はレイテ沖海戦か
今回の政策変更は、最初の異次元緩和が太平洋戦争における真珠湾攻撃、二度目がミッドウェー海戦、今回がレイテ沖海戦に例えられるのではなかろうか(レイテでは栗田艦隊の謎の反転が敗戦を決定づけた)。
先制攻撃に成功し勝利に沸くが、二度目でも物価目標への道は絶たれ、今回は量の政策から金利への謎の反転により、量による物価目標の達成が困難であることをむしろ示してしまった格好となった。
ただし、今回の政策に市場は驚き、株式市場も乱高下後にしっかりとなるなど当初はポジティブの反応となった。ところがこれがあっさりと反転してしまい、2月5日の日経平均は再び17000円割れとなり(株安が進行)、ドル円は116円台に下落した(円高が進行)。
ただし、短期金融市場と債券市場に向けては今回の日銀のバズーカによる破壊力はすさまじいものがあった。利回り低下が著しくなり、長期金利は0.1%を大きく割り込み、残存9年半程度の国債利回りがマイナスとなった。
○ マイナス金利の副作用
マイナス金利でも国債を買えるのは日銀と、スワップを使った海外投資家(主に外銀)、そして入札で落とした国債を日銀に売却するプライマリーディーラーなどの業者(証券会社等)だけとなる。債券市場はますます流動性が低下し、その分、何かしらのきっかけで値が大きく動くことも予想され、価格変動リスクが大きくなる懸念がある。
国内投資家でマイナス金利で国債を保有できるところは基本的にはない。それとともに現在保有している国債も売りづらくなり、短期金融市場ばかりでなく債券市場を機能不全にしかねない。
マイナス金利で物価に効果があるかといえば、超過準備の一部をマイナスにしただけで効果が出るとは考えづらい。個人を含め、いきなりリスク資産に資金がシフトすることも考えづらく、ポートフォリオリバランスが大きく進むとも考えづらい。
民間金融機関にとり、マイナス金利により金利の利ざやの確保が難しくなり、利回り確保が難しくなるとともに、マイナス金利の国債の買入も困難で国債での運用にも支障を来す懸念があるなど、収益力が低下する懸念がある。これは個人の資産運用などにも影響が及ぶ。貸出金利や住宅ローン金利の低下という恩恵もあるかもしれないが、金融機関の収益力が落ちることでそれらの金利低下も限定的なものになると予想される。