「牛肉食べるな」金正恩命令に北朝鮮国民から不満
北朝鮮において牛は、農耕に欠かせない重要な生産手段とされている。生産手段の個人所有が禁じられていることから、牛を個人の所有物として飼うことはもちろん、屠畜して販売することも禁じられ、違反者は単なる経済犯ではなく政治犯扱いとなる。
刑法の91条から94条で、国家財産の窃盗、横領、搾取に最高で労働教化刑(懲役刑)10年と定めているほどの重罪だ。許可なく食べたり販売したりして銃殺される人もいたほどだ。特に1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に際しては、そのような悲劇が少なからず起きたという。
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そんなご禁制の牛肉が市場で売られることが増え、当局は取り締まりに躍起となっている。
デイリーNKの北朝鮮内部情報筋によると、金正恩党委員長の「牛は国家機関の承認なくして個人が保有、処理できるものではないと正確に知らしめよ」との方針に基づき、中央党(朝鮮労働党中央委員会)は、党の各支部、行政機関、司法機関に対して「農耕用の牛を個人が私的に所有、密売、屠畜する行為を徹底敵に管理、統制せよ」との指示を今月11日に下した。
朝鮮労働党農業部と内閣農業省は、過去数年の間に生まれた子牛を国に登録せずに育てた上で、屠畜、密売する行為が露骨になっているとの報告が全国から相次いだことで、このような状況を是正すべきだと提議書を提出した。
協同農場の農地を家族ごとに任せ、収穫量に応じて利益を配るという「圃田丹東責任制」の導入以降、このようなことが増えたとのことだ。農場から農地とともに牛も譲渡されたことで、個人が勝手に所有して処分してもいいと思い込んでいる人も少なくないようだ。
しかし当局は、農業生産量が増えなかったことから、牛の管理を徹底する必要性を感じたようだ。
指示には、協同農場と牧場は牛の頭数を道、市、郡の農村経営委員会に正確に登録し、国家機関は牛の管理を徹底せよ、違反行為は国家財産の侵害と見なし処罰する――とある。
かつて北朝鮮では、牛の飼育からして厳しく制限されていた。しかしそれも、その後に若干緩和された。工場、企業所、農場では役所に登録した上で牛を飼育しているが、その数をごまかして少なめに登録、食肉にして販売することで収益を得ているという。
それで牛肉の流通量が増え、人々もかつては食べることのなかった牛肉を口にする機会が以前よりは増えたとされる。
そのようにして、いったん国民の食文化に馴染んだものを、これからなくすのは至難の業だろう。すでに市場では、庶民の間から不満の声が上がっているようだ。
一方、当局の方針は一部牧場からも不興を買っている。自分たちの牧場で育てている牛は、すべて9号製品(金正恩氏向け)として納品したり、中央党が持っていったりしているのに、自分たちも方針の対象になったことが気に入らないようだ。
ということはつまり、庶民に対しては「牛を食べるな」と言っている金正恩氏や高級幹部が、特別に飼育された牛を食べているということだ。牛肉に限らず、北朝鮮にはこうした理不尽がはびこっている。