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<ガンバ大阪・定期便99>前半戦を5連勝で締め括り、後半戦に向かう。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
32336人を集めた雨のパナスタで昨年の王者を撃破した。写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ19節・ヴィッセル神戸戦の勝利を引き寄せたのは『守備』だったと感じている。

 もちろん、少し流れが傾いた時間帯でのウェルトンのパナソニックスタジアム吹田での初ゴールや、終盤、相手のオウンゴールを誘った追加点がなければ、試合に勝つことはできなかった。

 ただ、それは、苦しい流れの中でも耐え抜いた『守備』があってこそ、だ。

 試合前日、キャプテンが話した言葉が印象に残っている。

「今は、仮に良くない展開でも、それを自分たちが受け入れてネガティブになっていないのが大きい。例えば、相手にボールを保持されて、チャンスを多く作られても、うまくいっていない理由を探すとか、誰かのせいにするのではなく『こういうゲームもある』『勝つためには今は耐えることが必要だよね』と選手同士がピッチでしっかり話して、状況を受け入れて、耐えるべき時には全員で耐えることができている。そういう意味ではメンタル面で相手に上回られている試合がないことが、内容が良くない試合も含めて連勝できている理由だと思う(宇佐美貴史)」

■昨年の王者に押し込まれ、苦しんだ前半を無失点で乗り切る。

 神戸戦はまさに、宇佐美の言葉を象徴するような試合になった。

 立ち上がりから相手の示した強度に上回られることも多く、耐える時間帯が続く。結果的に20分に神戸・大迫勇也がゴールネットを揺らしたシーンはVAR判定によって認められなかったものの、仮に先制点を許していれば、一気に畳み掛けられていてもおかしくはなかったはずだ。

 しかも、34分には山田康太が負傷交代になるというアクシデント。いきなり交代カードを一枚切らなくてはいけなくなった事実が、試合展開にどう影響を及ぼすかも気になった。

 だが、そうした展開の中でも、個々が守備の意識を切らさずに、集中して戦い続けられるのが今のガンバだろう。途中交代で入った坂本一彩も、体が暖まりきってはいない状況での出場だったものの、ピッチに立った瞬間からギアを上げ前線からの守備で味方を鼓舞する。出場からわずか約2分後、前線から圧力をかけたプレーで相手のミスを誘発したシーンも、まさにそれを象徴するものだった。

「これまで途中から出場した試合は一気にギアを上げなければいけない分、キツく感じていたんですけど、今日はそれがなくてスムーズに入れた。展開的にはオープンな展開になっていたからあまり最初はボールを触れなかったけど、自分のところでしっかりプレスの強度を出すことができれば流れを取り返せるんじゃないかと思っていました(坂本)」

 何より、神戸のロングボール主体のサッカーや、それに合わせて束になって圧力をかけてくる前線に試合のテンポを乱され、思うように流れを取り返せない展開の中でも、セカンドボールへの意識を含めて、最後の最後でゴールを許さずにスコアレスで折り返せた事実は後半、盛り返しを狙う上での勇気に変わった。

「前線の大迫選手、武藤(嘉紀)選手という2枚をどう抑えるかという部分では、前からプレスに行った分、あそこを目掛けて蹴ってこられることも多く、対応が少し遅れて後手を踏むことが増えてしまった。正直、あそこまでボールを持てない、動かせないとは想像していなかったし、もうちょっと全員が勇気を出しながらポジションを取れれば、もっといい展開に持っていけたとは思うんですけど、雨だったり、神戸の圧力だったり、というので尻込みしてしまってボールを失うことも多く、結果的に守る時間が長くなってしまった(中谷進之介)」

前半戦はフィールド唯一のフル出場。不可欠なDFリーダーとして存在感を示した中谷。写真提供/ガンバ大阪
前半戦はフィールド唯一のフル出場。不可欠なDFリーダーとして存在感を示した中谷。写真提供/ガンバ大阪

■個人の成長を光らせながら『無失点』で時計の針を進めた後半。

 そうした前半の戦いを受け、ハーフタイムには個々のポジショニングの修正を行って臨んだ後半だったが、流れを取り戻すには至らなかったというのが、立ち上がりの15分間だ。

「前半、それぞれの立ち位置が良くなくて、相手の2トップに隠れてしまうような状況も多く…。もう少し近くに寄ってきてくれたらスペースが空くのにな、とか、相手の初速を抑えられるのになって思うシーンも多かった。そこはハーフタイムにダニ(ポヤトス監督)にも修正されたので、後半は間延びしないようにしながら、GKやセンターバックがボールを持った時にもう少しパスコースを作れるように顔を出そう、ということは共有して入りました。ただ、現実的に『今日はプレッシャーがかかってなかなかそれが難しいんだろうな』とも感じていたので、ある程度、後半も割り切りを持って守備をしていたところもあります(一森純)」

 だが、そこで失点しなかったのは「こういうゲームもあるから今は全員で耐えられるところは耐えよう(宇佐美)」というチームの意思統一ができていたからだという見方もできる。また、最近の試合ではそれで「耐えられてきた」という成功体験も個々に自信を生み、慌てず、焦れない守備に繋がったのかもしれない。

 例えば58分、ビルドアップ時に福岡将太のパスミスから神戸・武藤にボールを奪われた際に落ち着いて対応できたのも、積み上げてきた自信と経験が光ったシーンだったと言える。試合前には「大迫選手も武藤選手も巧くて、賢いプレーができる選手。体をぶつけてくるタイミングでスッとこちらが体を引いたり、賢さを上回るといった駆け引きを冷静にできれば」と話していた。

「もちろん、あれは僕のミスです。ボールの上を叩いてしまうような感じになってパスがボテボテになってしまった。ただ、久々にやってしまった、と思いながらもあそこで変に慌てて突っ込んでいくことがなくなったのは、今、試合に出ている中で整理できてきたところかな、と。後ろにシン(中谷)もいたし、大迫選手が入ってきているのも視界に捉えていた中で、敢えて少し武藤選手に運ばせて、シュートのタイミングでボールに体をぶつけようと思い、あの判断になりました。パスミスをしないことが一番ですが、起きてしまったことに対してスッと切り替えて、次の判断を冷静にできたのは良かったし、何より失点しなくてよかったです(福岡)」

■流れを変えた一森純のビッグセーブ。自分に強く求めていた『砦』としての役割。

 そして、何といっても、一森のビッグセーブだ。

 62分、左サイドを攻略され、ペナルティエリア内に侵入した神戸・佐々木大樹が中央へパス。前線でうまく駆け引きをしてフリーになった武藤が左足を振り抜いたが、失点を覚悟した至近距離からのシュートは一森の素晴らしい反応によって弾き出された。

「正直、やられたと思いました。あそこで純くんがセーブしてくれたことで試合の流れを変えられたと思っています(中谷)」

 最後まで体を投げ出して足を伸ばした黒川圭介の執念も光った。

「圭介がいい感じでコースを消してくれたので、それを踏まえて僕は予測して、最後まで動かずにセーブできた。勝敗を分けるようなプレーになったのかなと思っています。もちろん、それ以前の段階で防げるのが一番ですけど、強いチームが相手だとああいうことも起きうると思うので、しっかりと集中力して対応できたのはよかった(一森)」

1年の期限付き移籍を経て心身両面にスケールアップした一森は声で、プレーでチームを盛り立てる。写真提供️/ガンバ大阪
1年の期限付き移籍を経て心身両面にスケールアップした一森は声で、プレーでチームを盛り立てる。写真提供️/ガンバ大阪

 思えば、少し前から「蛇口から水がポタポタ漏れ始めている」と危機感を口にしていた一森。

「チームの蛇口を閉めるのは簡単じゃなくて、しっかり閉めようぜ、と口にすれば簡単に閉まるものでもない。でも何も言わずに『やっぱり漏れちゃったよね』という状況にはしたくない(一森)」

 前節・柏レイソル戦の前日練習でもセットプレーの確認の際に『緩み』を感じて、仲間に声を荒げたこともあった。

「キャンプの時期にでていたような課題が、この時期になってまた出るなんて、あってはならないこと。もちろん、ミスは僕を含めて誰にでもあるものだし、うちに限らず、この先、暑くなっていくにつれて、体が動かないということも出てくるとは思います。ただ、やろうとした上でのミスならともかく、怠慢のミスは絶対に許しちゃいけない。『これくらいでいいか』が続いて、足元を掬われて取り返しがつかないところまでいっちゃうのがサッカーの怖さですしね。長いシーズンで『何が原因かわからないけど、這い上がれなくなっていく状況』ってきっとそういう小さなことからスタートすると思うんです。だからこそ、今、緩みかけている蛇口をしっかり閉めないと。そういう思いから練習でブチ切れちゃったんですけど、誰かに厳しく言うということは、当然、自分にもプレッシャーをかけることにも繋がるので。同じように自分に対しても『偉そうに言ってるけど、お前やぞ。お前も散々みんなに助けられているんやから、お前がしっかり頑張れ』って、みんなに言う10倍くらい自分にも投げ掛けています。特に暑くなればオープンな展開になることが多くなって決定機が増えるかもしれない、と想像しても、より自分がしっかり押さえられるようにしなければいけないと思っています(一森)」

 その決意もあってだろう。チームを救えるセービングをできたことに安堵の表情を浮かべた。

「あのノイアー(FCバイエルン・ミュンヘン)でも、一人でゴールマウスを守ることはできないように、GKは絶対に一人では守れない。チームメイトの信頼、フィールド選手の協力があってこそのGKで、僕もチームメイトが頑張ってくれているおかげで、思い切ったプレーができる。だからこそ、最後の砦になる自分は、何が何でもゴールを割らす訳にはいかないと思っています」

■そして、生まれたウェルトンのホーム初ゴールと追加点。

 話を戻そう。一森のビッグセーブを機にややギアが上がり、ペースを掴む中で、先制点が生まれたのはその8分後だ。

 ダワン、宇佐美に代わって、ネタ・ラヴィ、イッサム・ジェバリがピッチに立った直後、右サイドの山下諒也からパスを受けた半田陸がジェバリを目掛けてふわりとクロスボールを送り込むと、相手DFのクリアボールがウェルトンの目の前へ。狙いを定めて振り抜いた左足は、ホームサポーターの目の前でゴール左下を突き刺した。

「実はあの瞬間、ダイレクトで打とうとは考えていなくて、最初の選択肢としてはコントロールして、トラップをしようと思ったんです。ただ相手選手との距離、ゴールまでの距離を考えるとダイレクトで打つのがベストだと思って判断を変えました。パナスタでの初ゴールを決められて、しかもそれが勝利に繋がったのは嬉しい。今日はチームだけじゃなくて、スタジアムの雰囲気、サポーターの皆さんと一体になって戦った中での勝利だったので、皆さんに感謝しています。引き続き、目の前の1試合に目を向けながら、継続して日々のトレーニングに取り組み、こういう結果が続くように準備したいと思います(ウェルトン)」

今シーズン2得点目、待望のホーム初ゴールを挙げたウェルトン(左)。黒川(右)も安定した攻守を継続している。
今シーズン2得点目、待望のホーム初ゴールを挙げたウェルトン(左)。黒川(右)も安定した攻守を継続している。

 さらに85分には、この日初めてコーナーキックのキッカーに立った鈴木徳真の蹴ったボールが相手選手のオウンゴールを誘い、追加点を掴む。思えば、開幕前のプレシーズンマッチ・サンフレッチェ広島戦でも、鈴木の左コーナーキックを半田陸がニアサイドで逸らし、それを岸本武流がゴールに沈めたが、今回もそのイメージが残っていたのかもしれない。

「徳真くんがキッカーに立った時に、(ニアサイドの)あそこら辺で自分が触って、というのは二人の共通認識としてありました。結果的には僕は触ってないです。触ったって書いてくれてもいいですけど(笑)。そういう意味ではチームとして狙っていた形の1つだったし、いい時間帯に追加点を奪えたのもよかった。ああいう事故が起きるのもセットプレーだし、何よりあの2点目を奪えたことでずいぶん、楽になった。試合の流れを考えても、大きな2点目でした(半田)」

鈴木徳真も前半戦の結果を後押しした一人。攻守の繋ぎ役としての存在感を光らせた。写真提供/ガンバ大阪
鈴木徳真も前半戦の結果を後押しした一人。攻守の繋ぎ役としての存在感を光らせた。写真提供/ガンバ大阪

 その後も、途中出場のネタ、ジェバリらの試合状況を踏まえた献身的かつ好パフォーマンスにも支えられ、ガンバは落ち着いて時計の針を進めていく。6分間のアディショナルタイムにはPKを献上して失点したが、それ以外では、集中した守備を示しながら2-1で締めくくり、20年以来となる5連勝を飾った。

PKを与えてしまったシーンは、もう少し冷静な判断ができれば良かったです。あの角度で相手が足を振り抜けたのか、を考えても、体は寄せても足は出さなくて良かったのかな、と。そこは反省して次に繋げたい。試合後、シン(中谷)とも話しましたが、ここ最近は2点取った後に1失点をするという試合が続いているので、そこはなくさなければいけないと思っています(福岡)」

■後半戦に向けて。それぞれの決意。

 これで、ガンバが前半戦で積み上げた勝ち点は37に。三浦弦太が長期離脱を強いられるというアクシデントもありながら、リーグ最少失点を数えた守備の安定。個性豊かな新加入選手たちのフィット。キャプテン・宇佐美の攻守における躍動。その宇佐美をはじめ、鈴木、中谷、一森らが築いたセンターラインの安定。そして、チームとしての結束力など、数多くの収穫を手に、ガンバは後半戦の戦いに向かう。

「前半戦は、チームとして我慢しながら戦えたところもありましたが、守備というのは点を取られ始めると、どんどん増えてしまうもの。だからこそ今がどうというより、全ての試合が終わった時に、どれだけ失点数を減らせたのかが大事だと思っています(中谷)」

「DFラインだけではなく、全員が体を投げ出して守備をしたり、チームのために走ったり、というプレーがあってこそ今の結果がある。後半戦も先を見ず、目の前の1試合に集中して、やるべきことを継続するだけかな、と。毎試合、みんなの『必死』を繋げて戦っていきたいです(福岡)」

「これまでと同様に、守るべきところはしっかり守る、繋ぐところは繋ぐ、ゴールを目指すべきチャンスなら、全員でゴールに襲いかかる、ということをやるだけ。特にゴール前、アタッキングサードでのクオリティ、崩しはまだまだ出していかなくちゃいけない。これから夏場に入って、どのチームも戦術的に熟成されてくると考えても、自分たちがボールをどんなふうに持って、回すのかを含めて、攻守のギアをもう1つ、2つあげることを意識して戦っていきたいです。後半戦で結果を掴むには、前半戦の戦いをみんなで一皮も二皮も剥けたような状態にしていくことがより大事になっていくと思うから(鈴木)」

「前半戦は、個で守れたり、打開できたというシーンも多かった。もちろん、それもサッカーの一部ですけど、より勝つ確率を上げていくにはチームとしてのオーガナイズ、組織としての強さをより示せるようにならなくちゃいけない。せっかくみんなで我慢強く戦って積み上げてきた勝ち点を、今後より大きな数字にしていくためにも、この先も現状に慢心なく、常に自分たちがどういう姿になりたいのか、どういう結果を掴みたいのかをしっかり描いて戦い続けられるか。そのために毎試合、隙を見せず、緩めずに臨めるかだと思っています(一森)」

 それぞれが話す言葉の端々に感じた「まだまだ、ここから」という決意をしっかりと繋ぎ合わせて臨む後半戦。神戸戦で約2ヶ月半ぶりにピッチに帰ってきたファン・アラーノをはじめ、長いリハビリを乗り越えた福田湧矢や中村仁郎の戦列復帰なども追い風にしながら、ガンバは次節、鹿島アントラーズとのアウェイ戦に臨む。

 やるべきことは変わらない。先も、見ない。前半戦同様、目の前の1試合に全てを注いで、勝利だけを追い求める戦いが始まる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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