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世界1位のD・ジョンソンが東京五輪を辞退した背景と米国代表候補に「辞退の連鎖」が起こらない可能性

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

世界ナンバー1のダスティン・ジョンソンが東京五輪への出場を辞退――そんな衝撃的なニュースが飛び込んできた。

ジョンソンは現在、世界ランキング1位であり、米国代表として東京五輪への出場資格を満たすことは、ほぼ確定的だ。

しかし、ジョンソンは過密スケジュールを理由に挙げて、東京五輪出場を辞退する意向を、今週開催されているプレーヤーズ選手権の第3ラウンド後に米メディアに明かした。

「東京五輪は、僕にとって大きな意味のある流れ(スケジュール)の真ん中にある。東京までの旅はとても遠い。僕は(その時期は)PGAツアーで戦うことに集中したい」

東京五輪の前には、メジャー4大会の1つである全英オープンがある。とはいえ、全英オープンは東京五輪の2週前の開催で、「直前」ではない。

だが、東京五輪の翌週、文字通りの「直後」には、世界選手権シリーズのフェデックス・セント・ジュード選手権が続き、それがジョンソンにとっては最大の懸案となり、東京五輪出場辞退を決意する最大の理由になったそうだ。

「何度も考えた。トウキョウから(フェデックス・セント・ジュード選手権会場のテネシー州の)メンフィスへ、直接飛ばなくても済むのなら、それなら(東京五輪に出ることも)って、何度も考えたけど、、、、」

フェデックス・セント・ジュード選手権の翌週にはフェデックスシーズン最終戦のウインダム選手権が続き、その翌週からはビッグな賞金がかかるプレーオフ・シリーズ3試合へと続いていく。

不慣れな日本で五輪に出場した後には、一度自宅へ戻って一息ついて、心身の状態やゴルフの状態を整えたい、スーツケースの中身を整理し直したいと考える選手の心情は、とても自然なものであり、なるほどと頷ける。そう、息つく間もないほどの過密スケジュールを避けて、世界選手権やプレーオフにしっかりと臨みたいと思うことは、米ツアーのトッププレーヤーとしては「そりゃそうだよね」と納得できる考え方だ。

しかし、今、急浮上した懸念は「だから東京五輪出場を辞退します」という前例ができてしまったこと。しかも、米国代表候補の先頭に立っていた世界ナンバーのジョンソンが、その「手本」を示したという点だ。

ゴルフの五輪出場選手は男女各60名。6月21日時点でのオリンピック・ランキング(世界ランキングに基づいて算出される)に基づいて決定され、男女とも、各国上位2名ずつだが、ランキング15位以内が3名以上いる場合は最大4名までが出場できる。

米国男子は4名出場となるのだが、ジョンソンが辞退したことで、現在の上位4名はジャスティン・トーマス、コリン・モリカワ、ザンダー・シャウフェレ、ブライソン・デシャンボーとなる。

だが、ジョンソンが出場辞退の理由に挙げた過密スケジュールは、この4名にとっても、まったく同じ過密スケジュールとなるわけで、彼らも右に倣えでジョンソン同様に「過密スケジュールを避けたい」「だから東京五輪には出ない」と言い出す可能性が急浮上したと言えるわけだ。

2016年のリオ五輪の際は、現地に蔓延していたジカ熱や治安の悪化を理由に、出場辞退者が次々に出た。今回もジョンソンの辞退表明に続く形で、連鎖的に辞退者が出る可能性はある。

しかし、まったく別の見方もできる。

今年1月に自身の差別的な発言によってウエア契約を解消されたトーマスは起死回生、イメージ回復のチャンスを伺っており、東京五輪はそのための絶好の機会になりえるであろう。日系のモリカワは「母国」で戦う姿を天国へ逝った祖父に見せたいと考えているのではないだろうか。シャウフェレもアジアの血を引いており、母親が日本に馴染みが深いこともあって、日本には特別な思いを寄せている。そう考えると、彼らが過密スケジュールを押して五輪に出場する可能性は低くはないと見ることはできる。

そして何より、今、最もホットなデシャンボーが五輪に出るのなら、その姿を是非とも見て応援したいと考えるファンは、米国はもちろんのこと、日本でも多いのではないだろうか。ブリヂストンと契約しているデシャンボーは、かねてから日本に感謝の気持ちを抱いている。その意味で、デシャンボーも東京五輪出場を望み、喜んで出場する可能性はある。

ジョンソンが辞退したことは淋しい限りだが、出場辞退が連鎖することなく、素晴らしい4人が米国代表として東京五輪にやってくることを期待したい。

もちろん、東京五輪が開催されたなら、の話ではある。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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