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全米プロ初日。なぜ、タイガー・ウッズは「ほんの少し長い」新パターで好発進できたのか?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
エースパターを「ほんの少し長い」新パターに持ち替え、初日に好発進を切ったウッズ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今季最初のメジャー大会、全米プロが開幕した。

 初日、5アンダー、65で回り、首位に並んだのはオーストラリア出身で2015年の同大会覇者ジェイソン・デイと米国出身で通算3勝ながらメジャー未勝利のブレンドン・トッドの2人だった。1打差の3位タイには、同大会3連覇を狙うブルックス・ケプカを含む9人がひしめいている。日本人選手は松山英樹がイーブンパーで48位タイ、石川遼が2オーバーで90位タイ。

 だが、この日、最大の注目を集めたのは、やっぱり、この人、タイガー・ウッズだった。

 今大会はウッズにとって今季わずか5試合目、今年わずか3試合目と極端に少なく、なかなか試合に臨めなかった原因は、2月のジェネシス招待の際に発症した腰痛が尾を引いていたからだ。

 今大会の舞台、TPCハーディング・パークは深く重いラフが選手たちを苦しめる。サンフランシスコの冷たい空気は選手たちの飛距離を落とす。そんな難条件に試合経験の不足と腰の状態、さらには44歳という年齢が加われば、この全米プロでウッズがメジャー16勝目を挙げることは「きわめて難しい」と見る向きは、開幕前には多かった。

 しかし、蓋を開けてみれば、初日のウッズはスタートホールの10番でバーディーを先行させ、5バーディ、3ボギーの2アンダー、68で回り、首位と3打差の20位タイと好発進を切った。

【今までのパターより「ほんの少し長い」】

 初日の午前中は風も気温も穏やかで、それがウッズの好発進を助ける要因の1つになった。だが、ウッズの好プレーを可能ならしめた最大の要因は、ウッズが握った新パターのおかげだった。

 TPCハーディング・パークにやってきたウッズが新しいパターを握ったことは、開幕前から大きな話題になっていた。ウッズのパターといえば「スコッティ・キャメロンのニューポート2」と相場は決まっていた。これまでウッズが挙げたメジャー15勝のうちの14勝は、このパターで手に入れたものだった。

 しかし今大会では、このエースパターとそっくりだが、少しだけ違う別のスコッティ・キャメロンを起用。

 何が違うのかと言えば、開幕前は「ヘッドにウエイトをコントロールできるアジャスターが付いていることだけが違う」と米メディアは報じていた。

 だが、ここ数年、ウッズにしばしばパットのレッスンを施しているスティーブ・ストリッカーは「これまでのパターより少し長いパターだ」と、一目で見抜いた。

 初日のラウンドを終えたウッズ自身も「今までのパターより、ほんの少し長いんだ」と、新パターの違いを明かした。そして、「ほんの少し長い」ことが、ウッズ好発進の最大のカギだった。

【功を奏した「理由は2つ」】

 なぜ、パターが「ほんの少し長い」ことが、好発進を支えたのか。その理由は2つある。

「このパターは、今までのパターより、ほんの少し長い。僕のサンドウエッジとほぼ同じだ。僕は(フロリダの)自宅で練習するときは、いつもサンドウエッジでパットしている」

 ウッズにとっては、その感覚が「一番しっくり来る」そうで、そのサンドウエッジと同じ長さの新パターを握ったことは、全米プロというメジャー大会の戦いの場でありながら自宅練習の再現のような錯覚を覚え、それが功を奏したという。

 そして、もう1つ。今までのパターより少しでも長いパターなら、前傾姿勢がわずかながら浅くてすむため「ほんの少しだけど、これまでより長く練習できる」。

 それは、4度の手術を受けたとはいえ、いまなお腰に問題を抱えているウッズにとっては、何より嬉しく、何より役立つことだった。

「再びパットの練習ができ、時間を有効に使うことができ、この大会にしっかり備えることができた」

 TPCハーディング・パークは、ウッズが2005年に世界選手権シリーズのアメリカンエキスプレス選手権を制した場所であり、2009年プレジデンツカップで5戦全勝を挙げた思い出の場所でもある。

 しかし、「腰に爆弾を抱えた44歳のウッズにとって、その相性の良さやグッド・メモリーは、もはや昔話」と厳しい見方をしていた米メディアも見受けられた。

 相性云々はさておき、深く重いラフは若い選手にとっても強敵であり、そこに風雨が加われば、コースはさらに難敵になる。

 とりあえず初日のウッズは「ほんの少し長い」パターで、悪条件、難条件をなんとか跳ね除け、好発進を切った。果たして、その状態をサンデーアフタヌーンまで維持できるのかどうか。残る3日間が楽しみだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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