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野球賭博関与者への「期間限定の減刑措置」施行から5日目、果たして名乗り出た選手はいるのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
この時限立法はコミッショナーの乾坤一擲の策か?それとも・・・(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

NPB機構が、野球賭博への関与を自己申告する選手に対し適用する「今月6日から25日までの期間限定減刑」がスタートして今日で5日目だ。中間報告は今の所ないが、果たして自ら名乗り出た選手はいるのだろうか?

この特別措置では、 自ら野球賭博への関与を告白すれば、たとえ無期失格が適当と思われる選手でも1年の失格に軽減されるという。シーズンも開幕後のこの対応に関しては、病巣の根絶に向けたNPBの断固たる決意の現れとする見方もあるようだ。しかし、最終的には空振りに終わる懸念もあるのではないかとぼくは思っている。その理由を述べたい。

仮に、ぼくが昨年秋以降ビクビクしながらも野球賭博への関与を告白していない選手だとしたら、今回の軽減措置があってもまず自首しない。そもそも、自分の場合はどの程度の処分に該当するのか、名乗り出ればどこまで軽減が得られるのか明らかではないからだ。

NPBは「無期失格の場合でも1年に軽減」としているが、少しでも関与していれば全て無期失格なら分かりやすいが、高木京介のケースを見ても分かるように、熊崎勝彦コミッショナーの裁定は数々の要素を良くも悪くも微妙に加味したバリエーションに富んだものである可能性が高い。「声出し」に関しても、当初は協約に抵触せずとの判断から公表すら控えながら、周囲が騒がしくなると「あってはならないこと」として事実上禁止するという矛盾に満ちた判断を下しているくらいだ。本来相当する処分が不明な以上、名乗り出た場合の「メリット」が分かりにくいと言える。

また、だんまりを決め込んだ場合の危険度も高くないかも知れない。そもそもこの措置自体が、NPBによる内部での調査には限界があることを告白しているようなものだからだ。ならば、今後も密告者が出ない限り逃げ通せるのではないか、と考えるのが人間の心理だろう。自首を促すには、「25日を過ぎたら警察に捜査を依頼する」くらいの脅しが必要だが、NPBからそのようなコメントは発せられていない。「これ以上逃げられない」と観念しない限り、悪事を働いた輩は自首などしないと思う。

要するに、今まで見つからずに済んだが今後はそのリスクが高まるという懸念が特になく、名乗り出た場合のメリットももうひとつ明快ではない。ましてやすでにペナントレースは始まっている。そういう状況で自首するような選手がいるだろうか?ぼくには甚だ疑問だ。したがって、NPBがこのような措置を取ることを決意したのが不思議で仕方ない。それでも、 自首する選手が出てくるとすれば、それこそ「出来レース」であった場合くらいのものだろう。

どこかの球団に「無期失格が適当」と考えられる選手がいることが内部ではすでに明らかになっていると仮定してみよう。そして、その選手をなんとか1年程度の失格で済ませたいとする力が働いているとする。ならば、その選手に自首させれば思惑通りにことが運ぶ。そして、名乗り出る選手がいた、という実績とともに一連の騒動に幕を引くことが可能かも知れない。

いくらなんでも出来レースとは勘ぐりすぎかもしれない。しかし、ファンを猜疑的にさせることが、この手のスキャンダルの最大のマイナス点のひとつだということも指摘しておきたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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