茨城「常総新花火」2024年4月開催への挑戦!どんな花火大会?その先に何を目指す?主催者の思いは?
茨城県常総市で2024年4月20日(土)開催を目指している「第2回 常総新花火」。しかしこの報を聞いた時、私の頭に浮かんだのは「なぜ?」という疑問だった。「常総新花火」は、コロナ禍により3年連続で中止となった「常総きぬ川花火大会」に替えて開催されたと理解していたからだ。そして、開催にあたっては相当な苦労があったという話が漏れ伝わってきていたので、「常総きぬ川花火大会」が2023年に復活した以上、2回目は難しいだろうと思っていた。
なぜ第2回の開催を? クラウドファウンディングを選んだのはなぜ? リターンの選定理由は? 開催できたとしてその先はどうするの?
もろもろの疑問と、「常総新花火」にかける思いを、実行委員会の母体である「一般社団法人 常総青年会議所」に直接伺ってみた。
そもそも「常総新花火」とは?
【常総新花火】
2022年11月26日(土)に茨城県常総市にて第1回目を開催。40歳以下の若手花火師による「尺玉」「スターマイン(音楽つき)」の2部門の競技と、地元茨城の野村花火工業・山﨑煙火製造所によるプログラムなどが披露された。
第2回目の開催を2024年4月20日(土)に予定。
茨城県常総市には、2023年に第56回大会を迎えた「常総きぬ川花火大会」がある。1949年(昭和24年)に「関東花火競技大会」として始まり、何度か名称やスタイルを変えながら、近年では地元茨城の有名煙火店のプログラムに加え、全国の有名煙火店によるファイヤーアートコンテストなども行われ、見ごたえある花火大会として多くの花火ファンに認知されている。
そんな「常総きぬ川花火大会」も、コロナ禍が始まった2020年より、中止を余儀なくされた。
3年にもわたり中止が続くと、やはり花火大会の開催を望む声が高まった。その声に応える形で企画されたのが「常総新花火」である。だが、単に「花火大会がないから別の花火大会を」というわけではないという。
常総市は、2015年に鬼怒川堤防決壊による大水害を経験している。その決壊した堤防も現在は修復を完了。大水害からの復興の象徴として、修復されたその堤防で花火大会を開催してはという声が出た。だから、「常総新花火」は「常総きぬ川花火大会」とは異なる会場で開催されている。「常総きぬ川花火大会」の穴埋めではなく、まったく新しい花火大会として、若手花火師による競技花火をメインに据えた内容となった。
「常総新花火」は、「常総きぬ川花火大会」の復活を待ちわびていた、常総市内外のたくさんの人から支持され、人口約6万人の常総市に、それを上回る約8万人を動員した。「常総きぬ川花火大会」の2019年の動員が約13万人と言われていることを考えても、その期待値の高さが伺える。
そしてその内容も、野村花火工業と山崎煙火製造所によるスターマイン(※)や、有名煙火店の若手による花火競技と、見ごたえがあった。
※速射連発花火ともいい、数十~数百発の花火を短時間に連続して打ち上げる方式。音楽に合わせたスターマインは特に人気。
当日は少し煙の溜まりやすい状況で、煙待ちの時間もあったが、のちに「そよそよお姉さん」の異名(?)をとったアナウンサー・篠崎恵子さんのMC力もあいまって、全体的にとても楽しい花火大会だった。
そんな「常総新花火」を企画・開催したのが、常総青年会議所。常総青年会議所とは、常総市、つくばみらい市および常総市近隣在住の、20~40歳までの青年有志で構成され、より良い社会づくりをめざし、様々な社会的課題に積極的に取り組む団体。2023年12月現在は23人で構成されているが、2022年「常総新花火」開催時点では、20名だったそう。この人数で、しかもわずか3か月の準備期間で8万人規模の集客イベントを成し遂げた。
今回お話を伺ったのは、その常総青年会議所の第43代理事長・野村衛さんと、まちづくり委員会委員長の高島伸明さん。
お二人に、まず第1回開催時のお話から伺った。
第1回「常総新花火」を振り返って
――花火大会の立ち上げにはご苦労があったと思いますが、特に大変だったところは?
「まずスケジュールがギリギリでした。常総青年会議所で花火大会開催を検討し始めたのは2022年7月末頃、やると決まったのは8月末で、動き出したのは9月に入ってからでした。なので、会場の設計から設営、チケットの販売方法、販売にいたるまで、スケジュールがギリギリで。認知されていない花火大会なので、当初はチケットの売れ行きもよくなかったのですが、資金繰りも、チケットの販売が見こせないと成り立ちません。協賛金も集めて回ったけれど、それとあわせても諸費用を考えるとギリギリで、自転車操業的に回さざるを得ない状況でした」
――確かに、8月末から11月末までの3カ月で、まったく初めての会場で開催するというのはタイトだと思います。そもそも開催日を11月26日に決めたのはなぜでしょうか?
「花火競技大会をやると決めて、現実的な開催スケジュールを逆算して、また、各地の花火大会を担当している有名煙火店のスケジュールや日程を洗い出すと、最短で秋だろうという結論でした」
――例えば半年ぐらい準備に時間をかけて2023年春頃にやるという考えはなかったのですか?
「2023年だと『常総きぬ川花火大会』も動くので、2022年のうちにやりたかったんです。常総市で3年連続で花火大会が開催されない、という状況を避けたいという思いがありました」
――40歳以下の花火師のコンクールということで、他の花火競技大会との違いはいかがでしたか?
「正直、花火師のみなさんとあまり細かいお話はできていないのですが、花火大会終了後の懇親会で花火師さんとお話した印象では、自由度高く挑戦できたということで、楽しんでいただけていたように思います。打ち上げ場所もフラットで広いので打ち上げやすかったようです。また、「常総きぬ川花火大会」は最大8号玉(直径約24cmの花火玉)ですが、「常総新花火」の打ち上げ場所は尺玉(直径約30cmの花火玉。10号玉とも)まで打ち上げることができます。尺玉とスターマインの若手の競技大会は、全国でここだけ(2023年時点)なので、試せたことはいろいろあったようでした。花火師さんのチャレンジに寄与できていたのではと思います」
第2回開催へ向けて
――「常総新花火」は評価も高く、成功裏に終わったと思います。反面、2023年は「常総きぬ川花火大会」も復活しました。そのうえで第2回目を開催しようと思われたのはなぜですか?
「まずは、周囲からの期待の声が大きかったからです。有名花火会社の若手の競技花火ということで見に来られた方も多く、花火の質が高かったとの評価もいただきました。その期待値に応えたい気持ちがありました」
――すぐ開催へとならず、まずクラウドファウンディングをスタートしたのは?
「実際にどれくらい開催が求められているのか、その期待値を測れるようなやり方で開催を決めるといいのではないかと考えました」
――それでAll or Nothing方式(目標額を達成した場合にのみ、プロジェクトが実行され支援金が受け取れる方式)に?
「開催には多額の費用が掛かります。前回は約5500万円が掛かりました。その資金源はチケット販売と協賛金になります。前回は、市のバックアップもあり、『常総きぬ川花火大会』に毎年協賛している企業からも協賛を受けることができました。ただ、年に2回となるとやはり協賛を受けるのも厳しくなります。それなら別の収益源を見つけないと不可能ということで、今回はクラウドファウンディングを選びました。これなら、全国規模での支援を受けられる可能性がるので。そしてその結果で、本当に求められているかどうかを検証することもできます」
クラウドファウンディングの進捗状況
クラウドファウンディングはCAMPFIREにて実施。
【期間】2023/10/27 0:00~2023/12/25 23:59
【目標額】2000万円
【主なリターン】
プレミアムセンター席(堤防上桟敷4名席・堤防下イス1名席・土手法面1名席)
ヘリコプター観覧席、天守閣観覧席
団体区画席(50名用・100名用)
5号玉・8号玉・10号玉メッセージ花火
ミュージックスターマイン音楽選択権
大会審査員権
・・・・その他多数
――クラウドファウンディングの進捗状況は?
「苦戦していると感じています。SNSなどのご意見を見ると、こちらの提供している情報やリターンを見直す必要があると思っています。クラウドファウンディングは初挑戦なので、正直、やり方がわかっていないというのもあります。観客席を増やせばいいのか、他の形のリターンを増やせばいいのか、探り探りやっているところです」
――リターンの良さがもうひとつ伝わっていないようにも思います。たとえばプレミアムセンター席にしても、どのような点が「プレミアム」なのか具体的にわかりにくい。
「プレミアムセンター席は打ち上げ場所の真正面になります。堤防上を桟敷席にしています。土手法面席はカメラマンにお勧めの席です(※座った状態でカメラが頭の高さを越えないなら三脚使用OK)。堤防下はイス席で、打ち上げ場所に近く迫力を感じていいただけると思います」
※ここでちょっと比較写真を出したい。下の写真は「第1回 常総新花火」で、今回のプレミアムセンター席エリアの堤防上から撮影されたもの(公式カメラマン撮影)。
下の写真は、筆者自身がカメラマン席から撮影したもの。
実行委員会提供写真と同じプログラムのほぼ同じ場面を撮っている。写真としての良し悪しはちょっと置いておいて、見え方の違いがよくわかると思う。
下が取材時に撮影した、プレミアムセンター席エリア付近。
――そのほかに人気のリターンは?
「SNSをみると、ミュージックスターマインの選曲権は注目されているようです。2名の枠がすでに売り切れ、追加を検討しています」
――大会審査員権などもなかなかできない体験なので、面白そうだと思いました。
「第1回開催時は観客の皆さんからの投票で審査しましたが、第2回は特別審査員との2本立てでの審査を考えています。その特別審査の方に参加していただきます」
――審査員はどんな基準で審査しているのかを知ることもできそうですね。ほかに実行委員会お勧めのリターンはありますか?
「1回目よりもさらに企画性・エンタメ性を高いレベルにしていきたいと考えたうえでのリターンをいくつか設けています。
『天守閣観覧席』があるのですが、こちらは豊田城(※常総市のランドマークともなっている、模擬天守を備えた城。7階建て約48.5mの高さを誇る)の天守閣から花火を見ていただいて、地元のおいしい寿司屋のお寿司をケータリングでその場で提供します。おいしい料理とお酒を飲みながら、殿様気分で花火を楽しんでいただけます。(100万円、定員20名)
また、ヘリコプター観覧席や、追加リターンとして、堤防法面に川床を作る計画をしています」
――全体的に、個人のお客さんが対象のものよりも、団体や企業向けのリターンが多いように感じられますが。
「単に花火の観客を集めるというやり方だと集まる資金にも上限があると感じています。なので、リターンの設計として、花火が好きな純粋な花火ファンはもちろんですが、エンタメ系のイベントが好きな方、VIP向けのイベントが好きな方、面白そうなイベントがあれば行きたいなと思うような人にも興味をもってもらえるように、『他では見たことがない』という観覧席や権利の設定をしていこうという意図があります。
クラウドファウンディングは今回だけで、さすがに3回目にはできないと思っています。それもあり、他の花火大会と違う特色(特殊な観覧席や体験の付与)を今回で伝えていきたいと思っています」
――追加のリターンは検討していますか?
「駐車場や、第1回にエキサイトエリアとして出した、購入しやすい価格帯の席のリリースを考えています。後日、(クラウドファウンディングではなく)観覧席として販売する場合は、少し価格を上げるなど、クラウドファウンディングとは差をつけて、最初に支援してくださった皆様が損をしたと感じないようにしたいと思っています」
2回目、そしてその先の展望
――最後に、2回目が実現できた場合のその先の展望もお聞かせください。
「正統派の花火大会としては、すでに『常総きぬ川花火大会』があるので、それと同じようにやるのであれば1年に2回開催する意味は薄いと思っています。
『常総きぬ川花火大会』にしても、規模を今より拡大することは難しい。なら、正統派の花火大会と、若手が企画する、正統派ではないけれども、他にはないような企画性の花火大会の2本立てとすることで、『常総市の花火大会』を広く周知させることはできるのではないかと」
――2回目の開催が実現し、今後も継続するとなったら、春に『常総新花火』、秋に『常総きぬ川花火大会』の開催というパターンにもっていくのですか?
「そのように考えています。持続性のあるやり方をしていきたいし、常総市を、春と秋に2回大きな花火大会をやる市としてPRしたい。
単に花火大会を開催するだけでなく、それを地域益として還元していけるやり方をしたいと考えています」
インタビューを終えて
お話を伺ってみてわかったのは、「常総新花火」は、「常総きぬ川花火大会」とは、内容だけでなく楽しみ方そのものが異なる花火大会を目指していること。花火大会をエンタメ素材の1つと考え、それをどう発展させていくかというチャレンジをしているのだということ。
伝統的かつ正統派な花火大会は、スタイルも安定している「常総きぬ川花火大会」がすでにある。それに追従するのではなく、あえて別の角度から花火を楽しみ方を追求していこうとしているのが「常総新花火」なのだ。
それは、ある種両刃の剣ではある。なぜなら、そういう新しい楽しみ方は、ときに従来の花火の楽しみ方とぶつかってしまうことがあるからだ。
たとえば、ヘリコプター観覧。以前、別の花火大会で、会場の近くまでヘリが飛んできて、その音や機影がかなり気になったという話を聞いた。大会公式のヘリではなく、無関係の観覧ヘリだったことが余計に反感を買ったのだとは思うが、運航にあたってそのあたりのすり合わせは必要かもしれない。このように、実際にやってみると思わぬところで思わぬ人の不満を引き起こしてしまう可能性もある。
それでも、個人的には、新しいチャレンジに価値はあると思う。現在、花火大会自体が過渡期にある。これまでのように協賛金や補助金頼みで開催することが難しくなり、新しく有料席を設置したり、増やしたりする花火大会が多くなってきている。また、食事を提供したり、花火の前後は屋内でくつろげるスペースを用意したり、テントサイトで観覧してそのまま宿泊したりといった、様々な付加価値を設定する花火大会も増えてきた。現在のところ、そういった特殊な観覧席は、スタジアムやサーキット、公園などの特殊な会場を活かして設定されることが多い。「常総新花火」の会場は一般的な河川敷であり、ここで新しい取り組みを取り入れることができれば、他の花火大会にとっても参考になるだろう。新しいタイプの花火大会が増えていく契機にもなるかもしれない。
2023年には花火大会が多数復活し、花火大会のためにかなり出費した花火ファンも多いはず。そのあたりもクラウドファウンディングの進捗が厳しい理由になっていると思う。花火大会としての質は高く、数少ない「春の花火大会」であることなどのアピールがもう少し届けばと思う。首都圏からも比較的見に行きやすい場所であることもメリットだろう。
※会場へのアクセス
車の場合:圏央道常総ICより約5分
電車の場合:関東鉄道南石下駅より徒歩約5~15分
今のところ個人の花火ファン向けのリターンが多く支援されていることからも、多人数を対象とした団体や企業向けのリターンや、VIP向けのリターンの情報は、それらを好む層に届いていないのではないかと感じられる。これらの層にいかに届けていくか、アピールしていくかが、残るクラウドファウンディング期間の肝になっていくのではないか。
12月25日のクラウドファウンディング終了まであと20日。どのようにその熱意を伝え、どのように支援を開拓していくか。そして開催が決まった際には、どのように花火の魅せ方を拡大していくか。その取り組みに注視したい。