政策矛盾は何も英国ばかりではない
英国のトラス首相は20日、「保守党から選出された任務を果たすことができない」と辞任を表明した。9月下旬に打ち出した大規模減税策が金融市場を混乱させ、経済対策の大半は撤回に追い込まれた。辞任はその引責とみられる。9月6日の政権発足から44日という異例の短命政権となった(20日付日本経済新聞)。
トラス政権が9月23日に発表した大型減税策に市場が動揺し、通貨のポンドや英国債が売られた。年金が資金を捻出するために年金が保有する債券や株式など様々な金融商品の売却を余儀なくされ、危機的状況を迎えた。このため、英国債の売却を検討していたイングランド銀行は国債の買入を行うという異例の事態となった。
英国債はまさに国債が財政などに対して警鐘を鳴らす格好となっていた。これは結局、トラス首相そのものへの警戒ともいえるものであり、その警戒はトラス氏が首相でいる限りはなくならない。その結果としての辞任ともいえよう。
そして、20日の外国為替市場でドル円は32年ぶりに節目の1ドル150円を超えてきた。
財務省の神田真人財務官は20日午後、円相場が一時1ドル150円台に乗せたことを受けて記者団の取材に応じ、「介入をしているか、していないかにはコメントしない」と述べた。円買い介入の原資は「無限にある」と語った(20日付ロイター)。
このように政府・日銀は為替介入の可能性は示唆しているが、いまのところはその兆候はなく、タイミングを見計らっているのかもしれない(22日未明に為替介入が実施された)。
そもそも今回の円安の原因は、米長期金利の上昇とともに、日本の長期金利が0.25%で固定化されてしまっていることにある。米長期金利については如何ともしがたいものの、日本の長期金利の固定化をなくせば、市場は安心して円売りドル買いができなくなる。
21日に発表された9月の全国消費者物価指数は、日銀の物価目標でもある生鮮食料品を除く総合で、前年同月比3%増となった。日銀の目標値は2%であり、それを1%も上回っている。
長期金利を抑える政策は戦時中に取られたような異常な政策である。物価が日銀の目標値を上回るなか、それを続け、それによって円安を招く事態となっている。
トラス政権はまさに政策矛盾によって崩壊したが、それは英国だけの話ではないと思う。