北朝鮮に連れ戻された「女子高生」のギリギリの運命
韓国に亡命したチョ・ソンギル前駐イタリア北朝鮮大使代理の妻であるイ氏が、北朝鮮に残る娘の安否を憂慮し、北朝鮮への帰国を希望しているという。このことは韓国の李仁栄(イ・イニョン)統一相も8日に行われた国会外交統一委員会の国政監査で認めている。
北朝鮮当局は、中国などで拘束された脱北者が送還された場合、韓国行きを試みた脱北者を「反逆者」として扱い、特に重い罰を下す傾向がある。
今のところ、夫妻の娘は元気に過ごしているとの情報があるが、予断を許さない状況と言える。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
娘は両親とともにイタリアで過ごしていたが、昨年2月、イタリア外務省は当時未成年(高校生)の娘が2018年11月14日に北朝鮮に帰国したと明らかにしていた。背景には金正恩氏の直接の命令があったと見られている。
韓国などに亡命したほかの元北朝鮮外交官たちの例を踏まえると、チョ氏夫妻は娘を連れて脱出する計画を練りながら、何らかの理由でうまく行かなかったと見られる。
亡命を考える北朝鮮外交官にとって、最大の悩みは子どもをどうするかということだ。北朝鮮当局は外交官が海外に赴任する場合、「人質」として子どもを本国に残していくよう強制する。子どもが複数いる場合は、少なくとも1人を国に置いて行かせる。
2人いる息子を両方とも韓国に連れてくることのできた太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使(現在は韓国国会議員)は、極めて幸運な例だ。それでも英国駐在時は、子どものことで悩みが尽きなかったようだ。英国メディアによれば、次男のグムヒョクさん(19)はリンキン・パークとエミネムのファンで、趣味はゲームとネットサーフィン。13歳の頃からフェイスブックに親しんでいたという祖国・北朝鮮のイメージとはかけ離れた横顔があった。
北朝鮮では、ちょっとした失言(自由な発言)ひとつが命取りになりかねない。そんな体制の本質を知る人ならば、父親が本国からの帰国命令に従った場合のグムヒョクさんの運命を考えたとき、背筋に冷たいものを感じずにはいられないだろう。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
子供を仕方なく北朝鮮に置いてきた他の亡命外交官の例に照らせば、チョ氏夫妻の娘は親戚などに預けられている可能性がある。だとしても厳しい監視下に置かれているはずで、その境遇は生涯にわたり続くはずだ。
母親が娘の身を案じて帰国を希望し、そのことが世間の注目を集めている間、北朝鮮当局は「人質」である娘を収容所送りにするなどの行動には出ないかもしれない。
だが、そのような状況がずっと続く保証はないし、娘はただでさえ閉鎖的な北朝鮮社会にあって、輪をかけて不自由な生活を送ることになるだろう。彼女は今、金正恩党委員長のさじ加減ひとつで運命が大きく変わる、ギリギリの状況に置かれているわけだ。