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オンライン採用の浸透はコミュ力に自信のない人にプラス!

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
面接に緊張する、という人こそ、オンライン採用はチャンス(提供:2F_komado/イメージマート)

■コロナ禍によって採用がオンライン化

全世界的な新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、あらゆることが制限を受けて、リアルな場で何かをすることができなくなってきています。採用活動もそのうちの1つで、説明会も面接もどんどんオンライン化が進んでいます。

採用担当者や就職・転職活動をしている方々は、新しい採用方法に戸惑っている方が多いのですが、この連載のテーマである「コミュニケーション力がなくても大丈夫」という観点からすると、実はコミュ力に自信のない方にこそ、採用のオンライン化はプラスなのではないかと思っています。なぜ、そう考えるのか。順にお伝えします。

■オンライン説明会は緊張しない

まずは説明会です。リアルな会社説明会は緊張しますよね。スーツを着て、満員電車に揺られ、都会の立派なオフィスビルに圧倒されることから始まり、受付でも会場に入っても、どこにいても誰かに見張られているような気がします。そして、長時間姿勢を正して座りながら、ずっと集中して会社の説明を聞かなければならない。終わって変える頃にはグッタリです。

しかし、オンライン説明会はYouTubeで動画をみるようなものです。こちらの映像が映らない形式なら、パジャマで寝そべってリラックスして見ていることさえできます。そして集中して純粋に会社のことをこちらがジャッジできるわけです。

■エントリーシートがWebテストになると楽

その次は、エントリーシートなどの書類選考が通常あるわけですが、ここでも変化が起きています。オンライン化することによって、グループ面接などができなくなるため、その後の面接ボリュームを減らさなければなりません。その関係で、手間がかかる割に評価精度があまり高くなく、候補者を絞り込むには適していないエントリーシートから、Webで簡単に実施できるためマンパワーもいらず、数字で結果が出てくるWebの適性検査に移行が進んでいるのです。

適性検査は質問に対して、「はい、いいえ」と答えていくだけですから、文章力がない不安から解放されることになります。話を作るのは苦手だが能力試験は任せろという人にとっては有利です。

■Web面接は会話の「キャッチボール」をしなくてよい

そして、面接に進むわけですが、リアル面接ではよく「キャッチボールをすることが大切だ」といわれ、面接担当者と丁々発止のテンポの良い会話をすることが求められがちです。また、実際にそれが面接の評価に影響を与えることが知られています。

しかし、オンラインで行うWeb面接は、小さな画面越しでいろいろ制約を受けながら行います。そのために面接は、スピーディな「キャッチボール」面接から、事前にしっかり詳細な質問を設定されて、それに対してじっくりと考えて回答をする「プレゼンテーション」面接にシフトしてきています。アドリブで回答を要望され、頭が真っ白になってしまう苦労からも解放されるのです。

■データ重視の選考なら評価基準も変わる

最後に、人対人のリアルな面接を最重要視したこれまでの採用選考では、研究によると、人の心理的バイアスによって、外向性と情緒安定性が高い「コミュ力の高いタイプ」が高評価を受けていました。ところが、適性検査のデータや、面接も録画してAIなどを用いてデータ化して評価をしていくということが徐々に主流になっていけば、この心理的バイアスからも解放されます。また、リアル面接だと、誠実性や知的能力はあまり評価されないという研究もあるのですが、それもなくなります。内向的でセンシティブだが、真面目にしっかり仕事をする知能の高い人が有利になっていく可能性があるのです。

■最初からそうしておけばよかった

さて、このように見ていくと、コロナによって図らずも進んだ採用のオンライン化・データ化ですが、実は、エンジニアが主流の会社であれば、そもそも最初からそうしておけばよかったことばかりだと思いませんか。採用といえばこういうもの、面接といえばこういうものという先入観から逃れられず、今やっていることを変える勇気が持てなかったのでズルズルと旧態依然とした採用手法をしていたわけです。コロナは大変な厄災ですが、この点に関していえば、強制的に新しい採用手法、しかもこれまでよりも精度高く、欲しい人材を発掘できる可能性がある手法を取り入れる機会になったともいえます。

オンライン採用を「代替物」と考えるのではなく、今後も続けていく新しい採用手法なのだと前向きに考えて対策を検討することをぜひお勧めします。

HRZineより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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