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話題沸騰中!『ポケモンGO』がヒットする3つの理由

平林久和株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
スマートフォンの位置情報機能やカメラを使って現実世界でポケモンを捕まえる(写真:ロイター/アフロ)

現実世界の空間を移動して、ポケモンのキャラクターを探すスマホゲーム。『ポケモンGO』が海外でリリースされ大ヒットしている。総ダウンロード数が多いがゆえに、(珍)事件が各地で起きて日本でも連日報道されている。

  • アメリカ・ワイオミング州では、ポケモンを探して川の近くを歩いていた19歳の女性が偶然に死体を発見してしまった。「水生ポケモンをつかまえよう」と思い立ち、自宅近くを流れるビッグウィンド川に出かけた矢先の出来事だった。
  • ミズーリ州では『ポケモンGO』で移動する人を狙った強盗事件が発生した。地元警察は「『ポケモンGO』の位置情報機能を使うと、強盗犯人は被害者の場所や周囲の状況を把握することができる」と注意喚起した。
  • ドローンを使ってチートプレイする男性が現れた。ドローンに貼り付けたスマートフォンとパソコンを操作しながら自宅のベンチに座ったままポケモンをゲットしたらしい。
  • ポケモンを探したいが「家から出たくない」という本末転倒したユーザーのための便乗サービス、PokeWalkがサービスを開始した。
  • オーストラリアでは「署内に入らなくてもポケモンを獲得できます」と建物に立ち入らないよう呼びかけた警察署があった。
  • インターネットアクセス数の調査・分析会社シミラーウェブによると『ポケモンGO』のデイリーアクティブユーザー数は、ツイッターとほぼ互角になったという。
  • 『ポケモンGO』は宇宙でも遊べるのか? という問い合わせにNASAは「宇宙飛行士が使うスマホやタブレットなど携帯端末はインターネットに接続できません」とまじめに解答した。
  • 『ポケモンGO』のヒットを受けて東京株式市場では任天堂が高騰。時価総額はおよそ8カ月ぶりに3兆円の大台を回復した。

『ポケモンGO』はグーグルマップを利用した位置情報ゲーム『イングレス(Ingress)』を産んだナイアンティック、株式会社ポケモン、任天堂の3社で共同開発した。発売元はナイアンティック。

ところで、『ポケモンGO』はなぜヒットしたのか。思いつくその理由を3点に絞って述べたい。

第1の理由、カルチャライズ

そもそも『ポケットモンスター』は海外市場でも受け入れられるように設計されていた。日本のゲーム、特にロールプレイングゲームは海外市場では人気ジャンルではないが『ポケットモンスター』だけは例外である。日本生まれのコンテンツを外国でも売るために文化背景を考慮した最適化、カルチャライズを緻密に行ったからである。わかりやすいのはゲーム内に登場するキャラクターの名前だ。たとえば、「ピカチュウ」。「ピカ」は雷の閃光を意味し、「チュウ」はネズミの鳴き声を意味する。日本人にとってはある種のイメージが浮かぶが、日本語がわからない人にとっては意味不明である。それでも語感のかわいらしさは世界で通用するだろうということでピカチュウはピカチュウのままにした。この方針が功を奏したのか、米・カンザス州州都のトピカ(Topeka)市が1998年、1日だけトピカチュウ(Topikachu)に市名変更して『ポケットモンスター』の販売促進に一役買ったこともある。

しかしながら、日本語のままのキャラクター名に定めたのはごく一部である。「フシギダネ」のように、種を意味するBulbと恐竜を意味するSaurusを合わせて「バルバザー(Bulbasaur)」。英語に翻訳したキャラクターが登場する。では、「プリン」は直訳して「プディング(Pudding)」で良いのかというと、そうはいかない。「プリン」の柔らかさが伝わりにくい。そこで、英語で「プルプルしたパフ」を意味するJigglypuffの名を造語している。このように『ポケットモンスター』はゲーム内の一語一語を、日本語のまま、翻訳、造語を丁寧に使い分けてカルチャライズを行っている。

第2の理由、スーパーボウル

『ポケモンGO』のブームは夏に表出した珍事ではない。寒い冬の時期から準備されていた。今年、2016年は初代の『ポケットモンスター』が発売されてから20周年にあたる。これを記念して大胆なプロモーションを行った。アメリカ最大のスポーツイベント、2月に行われたアメリカンフットボールリーグの優勝決定戦、第50回スーパーボウルのハーフタイムショーでCM(以下の動画)を流したのだ。高視聴率のスーパーボウルCM枠は30秒で500万ドルと言われるほどの高額だが、あくまでもサブカル扱いされるポケモンを一気にメジャーにする狙いがあって投資した。「I can do this(私にもできる)」をキーメッセージにした約60秒のCMは好評で、YouTubeの再生回数でスーパーボウルに出稿したCM全52作品のうち2位になっている。『ポケモンGO』のアメリカでの異様な盛り上がりは、今年のスーパーボウルと無縁ではないだろう。

第3の理由、プロダクティブ

筆者は『ポケットモンスター』20周年のWebサイトの企画で、株式会社ポケモン代表取締役で、『ポケットモンスター』のプロデューサー・石原恒和氏にインタビューを行った。一通りのインタビューを終えたあとに、『マインクラフト』と『ドラゴンクエストビルダーズ』について。すなわち、地形・都市・町などをつくるゲームについての雑談になった。与えられたシナリオを進めるのではない。自分で何かを創作するゲームは、まだまだ可能性があるとの見解を筆者は述べた。この考えを受け入れつつも、石原氏がさらに発展させたキーワードとして提示したのが「プロダクティブ」だった。「プロダクティブ」というのは、1980年代に一部のゲーム好きの間で使われたソフトウェア批評用語である。創作や教育に限らず、もっと広い意味で生産的な。ゲームをしたら実生活で何かの得が残るような。そんなニュアンスが「プロダクティブ」の語には込められている。筆者は「プロダクティブ」は2016年のヒットゲームのキーワードになると直感した。なぜならば、海外、特に北米市場のヒットランキング上位はゲーム機、スマホを問わず、いわゆるシューター。敵を銃で撃つゲームが独占している。また、スマホゲーム市場では、スロットマシンなどカジノを題材にしたものが上位にランクインしている。ようは殺伐としていて、味気ないのだ。現在のゲームは、合理性を突き詰めるあまり、ユーザーに時間とお金を消費してもらうための仕掛けが極度に進化した。こういう時にはその反動が起きるのが、ゲームの進化史の常である。そのキーワードは「プロダクティブ」だと思ったのだ。

『ポケモンGO』はスマホを持って歩いて運動になり、街のモニュメントや建築に触れ、友人とモンスターを交換して交流する。生活にささやかな価値をもたらす。まさに「プロダクティブ」な魅力があったからヒットしたと考える。

『ポケモンGO』はまもなく日本でもリリースされる。ゲームジャンルを問わず、ガチャでいかに課金してもらうか。ここに労力を割いたゲームが上位を占める日本のスマホゲーム市場である。「プロダクティブ」な魅力を持つ『ポケモンGO』は日本でも旋風を巻き起こすだろう。

株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト

1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社(現・宝島社)に勤務。1991年にゲーム分野に特化したコンサルティング会社、株式会社インターラクトを設立。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。デジタルコンテンツ白書編集委員。日本ゲーム文化振興財団理事。俗論に流されず、本質を探り、未来を展望することをポリシーとしている。

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