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中国、1年間で腐敗調査対象になった上場70社リストーー腐敗の構図と影響

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

2月9日、2014年からの過去1年間で腐敗調査対象となった中国の上場企業70社に関するリストを新京報が伝えた。本稿ではそのリストを基に、習近平政権の反腐敗運動の実態とその影響に迫る。

◆腐敗調査対象となった上場企業70社リスト

2月9日に新京報新京報が発表した70社のリストは、 同花順金融服務網(同花順金融サービス・ウェブサイト)が作成したものである。同花順が調べたデータに基づいて、まずは企業名をご紹介する。

1. 有色(非鉄鋼)関連:7社=宏達(株)、錫業(株)、西部砿業、中金黄金、宝●(金偏に太)(株)、中国●(金偏に呂)業、銅陵有色

2. 石炭関連:7社(と数える)=山西焦煤(山西焦化、西山煤電、南風化工が上場)、●(さんずいに路)安環能、中国神華、蘭花科創、鄭州煤電

3. 能源(エネルギー源)関連:4社=崑崙能源、中石油(ペテロチャイナ)、華潤燃気(ガス)、中石化(シノペック)

4. 電力関連:5社=華電国際、●(さんずいの右に上が「立」で下が「口」)陵電力、通宝能源、華潤電力、川投能源

5. 不動産関連:6社=華潤置地、花様年、佳兆業、宜華地産、浙江広廈、雅居楽

6. 金融関連:6社=農業銀行、民生銀行、北京銀行、銀河銀行、海通証券、方正証券

7. 医薬関連:4社=紫●(上に「金」一つ、下に「金」二つ)葯業、三精制葯、国葯控股(持ち株会社)、東富龍

8. 建築関連:5社=中国中鉄、宝鷹(株)、全螳螂、海南瑞澤、華潤水泥(セメント)

9. 航空関連:1社=南方航空

10.運輸業関連:2社=中国遠洋、中国外運

11.通信関連:2社=振芯科技、中国聯通(チャイナ・ユニコム)

12.化学工業関連:2社=金路集団、恵生工程

13.メディア関連:2社=博瑞傳媒、楽視網

14.コンピュータ情報関連:4社=川大智勝、南威軟件(ソフトウェア)、神州泰岳、騰信(株)

15.電気設備関連:5社=長高集団、東方日昇、光一科技、和順電気、明星電纜

16.電子関連:1社=勤上光電

17.鋼鉄関連:2社=馬鋼(株)、柳鋼(株)

18.軽工業製造関連:1社=宜華木業

19.飲料関連:1社=金楓酒業

20.機械設備関連:1社=中航重機

21.造船業関連:1社=中国船舶

22.汽車(自動車)関連:1社=東風汽車

以上である。

このうち、1~4にある「有色、石炭、能源(エネルギー源)、電力」などの関連企業は、資源・エネルギーとしてくくることができ、その数は23社となる。

新京報では4の電力関連企業を入れず、「有色、石炭、能源」の18社を資源関係としているが、いずれにせよ18社から23社(全体の26%から33%)がエネルギー源・動力関係であるということは注目に値する。

不動産関係が6社、金融関係が6社あるということは、民生銀行が突出した現象ではないことを物語る。

民生銀行が特に注目されたのは、2月4日の本コラム「中国の民生銀行頭取と令計画の妻との間に何が?――腐敗構造の一形態」http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20150204-00042781/で書いたように、民生銀行の頭取が令計画の妻などを対象に「夫人クラブ」などを創設して、実体のない役職に就け巨額の不正給料を渡していたからだ。

もっとも民生銀行は地域の銀行を千社ほど傘下に置いていたため、その信用の揺らぎが株価に影響した側面は否めない。

しかし、70社という、これだけ多くの中国の骨幹企業が汚職摘発の対象となっていれば、中国経済への不信感がつのるのも、当然のことだろう。

◆「影の株主」と腐敗の構造――中国経済を崩壊させる要因の一つ

腐敗の構造の根幹にあるのは「一党支配体制」であり、党幹部が(許認可権など全ての領域にわたって)絶対的権限を持っているため、業者が便宜を図ってもらおうと、党幹部に賄賂を渡すということが基本にはある。

今回は、少し変わった形態の腐敗の構造である「影の株主」に関して考察してみたい。

たとえば、2にある石炭関連企業の場合。

地方(この場合は山西省)の党政府幹部は、石炭関連企業の「影の株主」になっていることが多い。株主の名前として信用のおける腹心が必要なので、互いに相手の弱点を握りながら私利をむさぼる。こうしておけば倒産はしないし、闇取引で急激な成長もでき、またインサイダー取引も日常茶飯事として起きるわけだ。さらに企業内の不正がばれそうになったときは、関係の党幹部に「ご挨拶」に行けば、事なきを得る。

これを中国語では「保護傘」と称する。庇護者というか、特に黒社会と癒着し、その後ろ盾となる党政府高官や公安などを指す。 

どれかの業界の市場のニーズが高くなって競争が激しくなればなるほど、いくつもの「門」をくぐらなければならないので、ポケットに入ってくる金額もふつうではなくなる。

不動産業でゴーストタウンを生んだ原因の一つに、この「影の株主」となっていた「保護傘」が危険を感じて株主から抜けたことも影響している。

銀行の場合は、党政府高官と仲良くなっておけば、国家財政の貯蓄先や大型プロジェクトの融資などの場合、入札することもなく最初から落札先が決まっているという「おいしさ」があるので、当然「金権政治」が跋扈するわけである。

改革開放(1978年)以来、約40年間、中国共産党の党幹部は全国津々浦々で、この腐敗の構図の上に胡坐(あぐら)をかいて私腹を肥やしてきた。中国数千年の封建制度の悪習は、中華人民共和国という、本来なら清廉であったはずの中国共産党政権が誕生しても、全く変わっていない。誕生してからわずか60数年。変わるはずもない。いや、独裁性を増せばますほど、その分だけ権力者の周りで腐敗を蔓延させる。

終わりなき戦いが始まっている。

中国に食い込んでいる日本企業は、ハシゴを外されないように気をつけた方がいい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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