現状判断はほぼ基準値にまで回復…2020年9月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2020年10月8日付で2020年9月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直している。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。
2020年9月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス5.4ポイントの49.3。
→原数値では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.7。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「小売関連」のプラス1.0ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「住宅関連」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス5.9ポイントの48.3。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは47.1。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「住宅関連」「非製造業」のプラス4.4ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「飲食関連」「サービス関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、持ち直しの動きを継続中。新型コロナウイルス流行前の水準どころか消費税率引き上げ以前に戻ったと判断できる値である。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下げ、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直す。今回月は現状判断DI同様に、新型コロナウイルス流行前の水準どころか消費税率引き上げ以前に戻ったと判断が可能な値となっている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では2020年2月以降において新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。4月で景況感悪化の動きは底を打ったようで、5月以降は盛り返しを示している。今回月は前回月比においてはすべての詳細項目でプラスとなった。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「住宅関連」の3つ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」の2つ。「住宅関連」の回復がもたついているように見えるが、同項目の業界では新型コロナウイルスによる影響の大きさと、回復への期待が持てないとの心境が透けて見える。
Go To Travelキャンペーンの効用続く
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・前年超えとはいかないまでも、ある程度の水準まで販売台数が戻ってきている。来店傾向も家族連れが多くなっており、その会話からも過剰に新型コロナウイルスを心配する声は薄れているようである(乗用車販売店)。
・8月ほどではないが宿泊稼働も50%近くまで回復してきている。特に、9月の4連休はほぼ満室の状況が続き、久しぶりに忙しかった。3か月前と比べると、Go To Travelキャンペーンの影響で販売量が大幅に伸びている(都市型ホテル)。
・6月の頃に比べると来客数が微増しており、4連休は県外の客も多く来店している(一般レストラン)。
・街に人が戻り、活気は出てきたが、高齢者は相変わらず外出を控える傾向にあり、消費が力強いとはいえない(商店街)。
■先行き
・新しい生活様式に人々が慣れてくることで、年末の帰省も含めて、徐々に人の動きが活発になると見込まれる。そのため、今後の景気はややよくなる(スーパー)。
・新型コロナウイルスの感染者数がやや落ち着きつつあり、Go To Travelキャンペーンなどの施策により外出も増加している。新たな生活様式にも慣れつつあり、一定水準の消費は期待できると想定している(百貨店)。
・新型コロナウイルス対策が、幅広く浸透してきている。Go To Travelキャンペーンの東京参加解禁による効果が、大いに期待される(観光型ホテル)。
・新型コロナウイルスの影響も残るなかでのたばこと第3のビールの値上げは大きな逆風で、10月からの売上動向がとても心配である(コンビニ)。
報道の限りでは散々な扱いを受けているGo To Travelキャンペーンだが、現場からの声は前回月同様に概して良好。他方、10月におけるたばこや第3のビールの値上げが消費行動への大きな足かせとなるとの懸念も見受けられる。
企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルスの影響で、5~6月は出荷量が非常に落ち込んだが、9月は前年比で若干のマイナスにまで回復してきた。特に、車載関連が回復している(化学工業)。
・総じて取引先の売上は戻ってきているが、新型コロナウイルス発生以前の水準までは戻っていない。新型コロナウイルス対策関連の経費などが増加しており、収益面、資金繰り面では厳しい状態が続いている(金融業)。
■先行き
・少しずつであるが輸出、輸入関連貨物で回復の兆しがみえる。また国内貨物においても新型コロナウイルスで延期になっていた業務が動き始めている(輸送業)。
・まだまだ新型コロナウイルスの影響もあり、海外の状況次第という部分が非常に強い。自動車関係の一部にはよいところもあるが、全体でみればほぼ横ばい状態が続く(電気機械器具製造業)。
新形コロナウイルスの影響で停滞していた人や物の流れが復調傾向にあることがうかがえる。他方、新型コロナウイルスの対策コストが負担となっているところもあるようだ。
雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。
■現状
・全産業において求人数は、新型コロナウイルスの影響により、前年同月より大きく減少している。特に、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業での減少が大きい。製造業は先行き不透明という事業所が多いが、復調しつつあるという事業所も少し出てきている(職業安定所)。
■先行き
・人の動きが活発化するに伴って人手不足感が出てくるように思える。とはいえ、前年比でみるとまだまだである(新聞社[求人広告])。
雇用の観点では新型コロナウイルスの影響は否定できないものの、少なくとも最悪期は脱し復調状態だとの認識があるようだ。もっとも新型コロナウイルス流行前の状況に戻るのはまだ当分先のようである。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで44件(前回月4件)、先行きのコメントで14件(前回月18件)の言及がある。現状でコメント数が急増したのは、前年同月が消費税率引き上げ直前の駆け込み需要が発生した月であり、それとの比較の話が出ていることによるもの。関連する形で去年と今年の状況を比較し、色々とネガティブな材料が挙げられており、心理的に足を引っ張っている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。なお「財政再建」は現状・先行きともに一件も言及されていない。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で434件(前回月584件)、先行きで670件(前回月871件)。前回月と比べれば減ってはいるが凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「来客数は減少したまま」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい(ただし中にはデマや流言の類をそのまま信じていると推定できるコメントも見受けられる)。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。他方、冬場に感染再拡大が生じるとの懸念を持つ人も多くいるのが気になる。
なお「Go To Travelキャンペーン」については現状のコメントで113件、先行きのコメントで224件。肯定的な意見が多く、政策の効果の実情が確認できる。他方キャンペーンに関して「最低でもインバウンド客の入国が全面解禁されるまで継続してほしい」との意見もある。
リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ何らかの形で終息(効果的なワクチンや治療薬の開発と十分な数の確保、あるいは普通の風邪と同レベルまでの弱体化)とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。「また流行が拡大するかも」との懸念だけで経済には大きな足かせとなる。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い事態の終息を願いたいものだが。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
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