「教え子は外国人」ー4月から「先生」になるみなさんが、外国にルーツを持つ子どもと出会った時のために
日本語がわからない外国人の児童生徒は全市町村の47.1%に
現在までに大半の都道府県で教員採用2次試験合格発表が行われました。2017年4月より晴れて「学校の先生」になる予定のみなさん、合格おめでとうございます。何かと「大変だ」と言われている学校の先生という職業に就き、日本社会の子ども達の成長を支えようとしてくださっている皆さんに、近年、増加している外国にルーツを持つ児童生徒についてぜひ知っておいていただきたいことがあります。
平成27年度の学校基本調査によると、国内の公立小、中、高校、中等教育学校、特別支援学校には7万6,290人の外国籍児童生徒が在籍していることがわかっています。さらに、文科省が毎年調査を行っている「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」最新版(平成26年度)によると、この内、日本語がわからず勉強についていくことのできない外国籍の児童生徒が29,198人含まれていることに加えて、最近では「日本国籍を持つ、日本語指導が必要な児童生徒」が増加し、同年の段階で7,897人が3,022の公立学校に在籍しています。
その範囲は各都道府県にまたがり、外国籍の日本語がわからない児童生徒が在籍する学校数は6,137校。全市町村(1,741市町村)のうち、47.1%を占めています。
外国にルーツを持つ子どもと出会う可能性は低くない
みなさんがどの都道府県でこれから先生としての第一歩を歩みだそうとしているのかにもよりますが、ご自身の専門が文系科目か、理系科目かに関わらず、4月から赴任する学校で外国籍の子どもや、外国人の親を持つ日本国籍の子どもたちと出会う可能性はそう低くはないことを念頭においていただくと、いざという時に慌てずに対応ができます。
「自分は理科/数学など文系ではないので関係ない」とは言えない、というのは、実際に公立中学校の理数系科目の先生がその科目の担当者が余っているから、という理由で校内に設置された国際学級(または日本語学級)に配属されるような事例が珍しくないからです。
日本語が母語でない子どもや、外国籍の子ども、外国人の親をもつ子どもなど、何らか海外との接点を持っている子ども達のことを、「外国にルーツを持つ子ども」や「外国につながる/つながりを持つ子ども」と呼んでいます。こうした外国にルーツを持つ子ども達が日本の学校で学ぶ時、いくつかのことに注意をしたり、関連する情報を持っていることで、子どもや外国人保護者だけでなく、先生自身の負担を軽くすることができます。
外国にルーツを持つ子どもと出会ったら、特に気をつけたい5つのこと
1)日本語は日本語のみで指導可能。
よく、日本語が話せない子どもと出会うと「その子どもの母語が話せる支援者が必要」だと思われる方がいますが、日本語教育という点では、日本語のみで日本語を教える「直接法」という指導方法で支援が可能です。母語のサポートの重要性はもちろんですが、「母語がわからないから、何もできない」と考えるのは早計です。
2)日本語が聞くだけで上達できるのは概ね10才くらいまで。
「子どもだから耳で聞いてすぐに言葉を覚える」という方程式が成立するためには一定の要件が必要です。そのうちの一つが、年齢的な制約で、聞いているだけで外国語である日本語を習得するのは10才くらいが限度であるといわれています。
もちろん個人差があり、その子どもの性格や特性や環境などによって、必ずしも10才を超えたら自然習得ができないかと言われるとそうではありませんが、おおむね10代に入って以降はいわゆる「文法」などを用いて、体系的に日本語を学んだほうが、習得が早く、読み書きもスムーズであるケースが大半です。
3)日本語ペラペラまで2年、勉強スラスラまで7年。
意思疎通が可能となり、日常生活に困らないくらい日本語ができるようになるまでには、だいたい1~2年くらいかかりますが、「日常会話がペラペラであること」と、「学校の勉強が理解できるくらいの日本語の力がある」ことの間には大きな溝があります。
つまり、先生の日常的な問いかけに対して、不自由なく応えることができるようになった児童生徒であっても、必ずしも学習するための日本語の力が十分であるとは限らず、例えば日本語でペラペラ話してるのに、テストの点が悪いという生徒の場合でも、本人が勉強を怠けている/勉強ができない子どもであるとは言い切れません。
4)日本語指導が必要な、日本国籍を持つ子どもが増えている。
冒頭でも触れましたが、今、日本語を母語としない子どもの内、日本語がわからない日本国籍を持つ子ども達が増えています。外国籍の日本語がわからない子ども同様に、「日本語でペラペラと話している」ように見えても、日本語の力が十分でないケースがあります。こうした子ども達の場合、日本名であることも多く、日本語の課題として気付かれないことも少なくないため、ぜひ気をつけておきたいところです。
5)母語の発達が様々な点で重要。
特に学齢の小さなお子さんの場合で、日本語の力が十分でないと、周囲の大人が「子の日本語が早く上達するよう、家庭でも日本語を」とアドバイスしてしまうケースがあるのですが、かえって母語の力を弱めてしまうことになりかねず、結果として日本語の上達を遅らせるようなことにつながる可能性があります。
母語と外国語(第2言語)との関係はまだ明らかになっていないことも多いのですが、筆者が現場で支援してきた400を超える事例を見る限りでは、母語がしっかりと確立されていればいるほど、第2言語としての日本語もスムーズに上達しやすい傾向が見られます。
また、外国にルーツを持つ子どもの保護者の中には、日本語ができない、あまり上手でない方も少なくありません。子ども自身が日本語のみで育つことにより、ある程度成長した段階で外国人保護者と、親子間で会話が成立しない(言葉が通じない)事態を招く危険性を考えても、可能な限り家庭の中で母語の力を育成してもらうほうが良いでしょう。
困ったら、インターネットや学校外の支援リソース活用を
現在、各自治体や大学、国際交流協会、NPOやボランティアなどによって、外国にルーツを持つ子どもたちをサポートするための様々な教材や情報がインターネット上に無料で公開されています。中でも、文部科学省の多言語学校文書・教材検索ポータルサイト「かすたねっと」には、全国各地の自治体や学校が独自に作成した学校の「お便り」の多言語翻訳版や教材が集約され、いつでも無料で使用する事ができ、とても便利です。
また、こうした無料リソースを集めているリンクの一覧を掲載しているサイトもありますので、まずは「外国にルーツを持つ子ども 教材」「外国人児童生徒 支援」などと検索してみてください。
地域によっては、NPOやボランティア団体が外国にルーツを持つ子どものための支援の場を開いている場合もありますし、今はICTを活用した遠隔地日本語教育支援がスタートしたりなど、学校の外での支援が広がり始めています。ぜひ、こうした学校外の資源も積極的に活用してください。
「学校の先生」は、外国にルーツを持つ子どもたちの「日本社会への入り口」
以前、外国人の子どもというと保護者の出稼ぎに帯同し、いずれ帰国するというケースも少なくありませんでしたが、現在は逆に、日本国内での定住・永住志向が高まっているといわれています。実際に筆者が支援する現場でのアンケートでは、97%が「今後帰国・別の国へ移住するつもりはない」と答えています。つまり、外国にルーツを持つ子ども達も日本の社会の中で基礎教育を終え、進学や就職をし、日本社会の大人として成長する可能性が高まっているとも言えます。
その第一歩の入り口となるのが、子ども達が来日後初めて通う事になる学校であり、学校の先生です。
先生が外国にルーツを持つ子どもに特有のニーズについて正しい知識と理解を持って、温かな気持ちで受け入れてくれれば、言葉が通じない段階でも、きっと子ども達は安心して学校に通う事ができるでしょうし、その信頼関係が基盤となり、日本社会に向けて一歩、二歩と歩みだしていってくれるはずです。