痛み止め注射を打ってバルセロナ撃破に貢献。リバプールを支えた主将ヘンダーソン
欧州チャンピオンズリーグ準決勝で、リバプールがバルセロナを相手に4−3の劇的な逆転勝利を挙げた。
第1戦を0−3で落としたリバプールだったが、本拠地アンフィールドで行われた第2戦を4−0で勝利。リオネル・メッシやルイス・スアレスといった豪華攻撃陣を擁するバルセロナに、アウェイゴールを許すことなく4ゴールを奪った。見事なまでの逆転勝利に、英メディアは「アンフィールドの奇跡」と絶賛した。
そのなかで、ひときわ眩しい輝きを放ったのが、主将として先発したMFジョーダン・ヘンダーソンだった。今シーズンは中盤の枚数が増えたこともありベンチスタートにまわる回数も増えたが、ユルゲン・クロップ監督は28歳のイングランド代表MFを大一番でピッチに送り込んだ。
ポジションは、4−3−3のインサイドMF。オランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥムがベンチにまわり、ジェームズ・ミルナーとのイングランド人MFコンビで中盤中央を編成した。
立ち上がりから、ヘンダーソンはインテンシティの高いプレーで引っ張った。チームが前方から積極的にプレスをかけるなか、ヘンダーソンは「アグレッシブな動き」と「球際での激しいプレー」で抜群の存在感を放った。前半7分には、ドリブルで突進してシュート。こぼれ球をディボック・オリギが押し込み、貴重な先制ゴールにつなげた。前へ、前へと押し込もうとするクロップ監督の狙いを、見事なまでに体現していた。
そんなクロップ監督の思いが伝わってきたのが、ヘンダーソンが右膝を押さえて倒れ込んだ前半の場面だ。
接触プレーで膝を強打し、顔を歪めるヘンダーソン。倒れ込んだままの彼を見て、テクニカルエリアのクロップ監督は思わず「駄目か」と天を仰いだ。主将という精神的支柱として、いかに信頼を寄せているか。指揮官の気持ちが伝わってきた。
治療を受けたヘンダーソンはピッチに復帰したものの、痛みは一向に引かず、ハーフタイムに痛み止めの注射を打って後半に入ったという。そして、後半もフルスロットルで走り回った。
なにより頼もしく感じたのが、4−0で迎えた試合終盤だった。選手たちが一様に疲れきっている中、ひとり気を吐き、相手ボールを執拗に追いかけた。バルセロナのDFクレマン・ラングレに猛ダッシュでプレスをかけて吹き飛ばしたシーンは、チームに活を入れる狙いもあったように思う。
その後のジョー・ゴメス投入時には、クロップ監督の下に走り寄って指示を仰いだ。クロップとの意見交換が終わると、交代で入るゴメスに向かい、グッと固めた拳を見せて“闘魂注入”。今度は側にいたジェルダン・シャキリに近づき、肩を組んで奮起を促した。その姿を見て、筆者はリバプールの勝利を確信した。
ただ、膝に痛みを抱えながらフル出場したヘンダーソンの疲れも相当なものだった。後半のアディショナルタイムには、フラフラの足取りで両肩で大きく息をするシーンもあった。満身創痍でプレーしていたのは間違いないだろう。
そして、試合終了──。リバプールの選手たちは喜びを爆発させ、満面の笑みで抱擁を交わしていった。当人たちですら信じられないといった様子で、頭を抱えている選手がいたのが印象的だった。
英ラジオ局トーク・スポーツは「バルセロナを抑えようと、ヘンダーソンはあらゆる場所に顔を出した。さらに、チャンスも創出。キャプテンにふさわしいパフォーマンスだった」と称賛。主将の座をスティーブン・ジェラードから引き継いだものの、「パフォーマンスが物足りない」と批判されたこともあった。しかし、英紙タイムズは「リバプール加入以来、ベストパフォーマンスだった」とバルセロナ戦のヘンダーソンを褒め称えた。
28歳のMFは語る。
「最初から最後まで、選手たちのパフォーマンスは素晴らしかった。信じられない夜になった。今日のことは、これからもずっと忘れない」
バルセロナとの第2戦は攻守の切り替えが極めて速く、取材しているこちらも目が回りそうなほどだった。取材ノートにメモしようと下を向くと、瞬時にして状況が大きく変わり、何が起きていたのか分からなくなることもあった。とにかく、一瞬たりとも気が抜けない緊迫した試合だった。
そんな緊張感溢れる大一番で、大きな役割を果たしたのがヘンダーソンだった。インテンシティの高いプレーと、極限まで研ぎ澄まされた集中力。そして、チームを引っ張っていくリーダーシップ──。
歓喜に沸くリバプールの輪の中で、ヘンダーソンの貢献度は計りしれなかった。