日銀も金融政策の正常化の準備が必要に
米労働省が10日に発表した10月の米消費者物価指数の上昇率は前年同月比6.2%と9月の5.4%から加速した。上昇幅は1990年11月以来約31年ぶりに6%台に達し、6か月連続で5%以上の伸びが続いた。中古車価格は26%、ガソリン価格が50%近く上昇し、食品も5%台の値上がりとなった。変動の激しい食料品とエネルギーを除いたコア指数も前年同月比4.6%増と、1991年8月以来30年ぶりの上昇となった。
そして11日に日銀が発表した10月の国内企業物価指数は前年同月比8.0%の上昇となり、1981年1月以来、40年ぶりの伸び率となった。
日銀の金融政策における物価目標は消費者物価指数である。その消費者物価指数は前年比でプラス0.1%増とやっとプラスに転じた程度で、物価目標の2%にはかなりの距離がある。
「金融政策の正常化とは、他国の政策動向にかかわらず、わが国での物価安定の目標を安定的に達成することであり、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する理由は全くない。この点は、対外的に丁寧に説明すべきである。」との意見が日銀の金融政策決定会合における主な意見(2021年10月27、28日開催分)にあった。
本当にそれで良いのであろうか。
企業物価と消費者物価との間に乖離が出ているのは、消費の低迷で企業の価格転嫁が容易でないとの指摘があったが、ここにきて値上げラッシュが続いている。
それよりもサービス価格の低迷、その大部分の賃金が消費者物価指数の低迷に影響しているのであれば、賃金そのものを上げる必要がある。
ところが、企業物価指数が原材料価格やエネルギー価格の高騰やサプライチェーン問題に加え「円安」によって8%もの上昇となっていることは、当然ながら企業には悪影響を及ぼしている。
円安による影響についても、ロイターの企業調査で円安は減益要因としたのが33%、増益要因とした回答は23%となっていたように、以前のように日本企業を潤す要因とはなっていない。
中央銀行は物価の番人ではあるが、その物価は当然ながら、消費者物価指数に限られるわけではない。そもそも消費者物価指数を発表しているのは総務省だが、企業物価指数を発表しているのは日銀である。
日銀はむろん企業物価指数にも目を配る必要がある。特にそれが日本経済に悪影響を与えるのであればなおさらである。さらに企業物価指数の上昇による収益悪化で賃金が抑えられ、これが消費者物価の抑制要因となるのであればなおさらのこと。
少なくとも2%の消費者物価指数の目標が達成されないからといって金融緩和を修正する理由は全くないとは言い切れない。むしろ柔軟性を持たせるためにも、目標そのものにある程度のレンジを持たせるなりすることも必要となろう。
欧米の中央銀行が正常化を進めるのであれば、ここからの急速な円安を防ぐためにも、異次元の緩和を通常次元に戻すことも考える必要があるのではなかろうか。