<シリア>ホワイトヘルメットの女性隊員 「たくさんの死を見てきた」市民救護の最前線で(写真11枚)
◆救命・医療活動に奮闘する女性たち
戦闘機が投下する爆弾、立ち上る黒煙。血まみれの子ども、泣き叫ぶ住民……。そんな光景が、日常の一部となったシリア。爆撃の現場にいち早く駆けつけ、負傷者の救助にあたるのが、地元市民からなる組織、ホワイトヘルメット(民間防衛隊)だ。イドリブを含む反体制派拠点の北西部一帯で活動し、隊員は3000人を超える。うち1割は女性だ。地元記者の協力でネット回線を通して女性隊員たちを取材した。(取材・構成:玉本英子/アジアプレス、協力:ムハンマド・アル・アスマール)
◆姉を空爆で失い、ホワイトヘルメット隊員に
ハディジャ・アルカタニさん(25)は、教師を目指す学生だった。5年前、姉がいた建物が政府軍の空爆を受けた。瓦礫(がれき)をかき分けて捜索してくれたのがホワイトヘルメットだった。姉は遺体で見つかったが、彼らの懸命な姿に心を打たれた。人の助けになりたいと、看護訓練を受けて隊員に加わった。
「この地域では女性が負傷した際、肌を見られたくないとの理由で男性の救護を拒む人もいます。女性隊員の存在意義は大きいのです」とハディジャさんは語る。
彼女にとって忘れられないのが、92人が死亡した2017年のハーン・シェイフンでの化学兵器攻撃だ。ハディジャさんは、被害者の体についた毒ガスを水で洗い流し、点滴や酸素吸入器をつける処置にあたった。
「子どもたちが次々と死んでいくのを見て涙が止まらなかった。でも泣いているようでは務まりません。夜通しの救助を続けました」
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◆キャンプの医療支援とコロナ対策
北西部のトルコ国境近くには避難民キャンプが点在し、100万に及ぶ人びとがテントに身を寄せる。劣悪な生活環境から皮膚病を患う者が多い。彼女たちはキャンプをはじめ、各地にある女性センターで、休日を除く毎日7時間、医療活動に従事する。最近は新型コロナの感染者が発生し、マスク着用や手洗いなどの重要性も伝えている。
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ホワイトヘルメットを資金面で支えるのは、欧米諸国や各国の人道機関からの支援だ。反体制派地域を拠点としていることから、中立性を指摘する声もある。訓練課程では、救護を必要とする人には誰であっても救いの手を差し伸べる姿勢も学ぶ。
一般隊員には月150ドル(約1万6000円)が支給される。しかし、救出中の現場に連続して空爆や砲撃が加えられることもあり、危険と隣り合わせだ。
◆「息子を失った私のような思いをしてほしくない」
救急医療班のアスマ・ハジバクリさん(30)と一家は、ダマスカス南部のヤルムークに暮らしていた。地区が政府軍に包囲され、ドラム缶に爆薬と金属片を詰めた樽(たる)爆弾の攻撃で、6歳の息子が亡くなった。その後、実家があるイドリブに逃れた。
「子ども、女性、高齢者、罪のない人びとが殺されています。1人でも多くの命を救いたいと思い、隊員に志願しました」
政府軍やロシア軍の爆撃が市民を殺戮する一方、反体制派の攻撃で犠牲となる住民も出ている。内戦の悲しい現実のなかで、彼女たちはどれほどの不条理な死の現場を見つめてきたことか。
アスマさんは言う。
「市民を攻撃するアサド大統領に怒りを感じます。それでも、もし負傷した政府軍の兵士を見つけたら必ず助けます。どんな人でも息子を失った私のような思いをしてほしくない。その心が伝われば平和は訪れると信じています」
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(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年5月25日付記事に加筆したものです)