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就活終われハラスメント(オワハラ)とは何か〜企業が入社して欲しい学生を口説くことの是非〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「早く就活終えてうちに来てくれよ!」(写真:アフロ)

■「オワハラ」はいけないこととされているが

以前、テレビのニュースや情報番組にまで特集として取り上げられ、就活におけるワードとして定着した感のある「オワハラ」。企業の採用担当者の皆様には釈迦に説法ですが、念のため説明をしておきますと、「オワハラ」とは「就職活動終われハラスメント」の略で、「企業側が学生に自社の内定を無理に受諾させようとする行為」を指します。

要は「就職活動を止めてくれたら/他社を断ってうちに決めてくれたら」内定を出すということなのですが、長年採用担当実務をしてきた自分からするとどうしても違和感を持ってしまうことがあります。あくまで字面だけで考えると、私などは、ずーっと「オワハラ」をしてきた張本人であるような気がして、あれはいけないことだったのかと悩んでしまいそうです(実際には、オワハラ的に非難されたことは一度もないのですが・・・)。

■自社に合う人を口説きたくなる背景

まず、優秀で自分の会社にどうしても来てほしい学生に対して「口説く」行為は大変ふつうなことで、悪いことは何もないのではないかと思います。

「うちに来て欲しい」というのはすなわち「他社に行かないで欲しい」ということですので、必然的に「就職活動を終えてくれないか」と要望することもよくあることです。もちろん、「うちは内定を出すけど、他の会社も回ってくれていいよ。その上で、納得が行ったらぜひうちに来て欲しい」と多くの人事は言いたいことでしょう。

しかし、企業の採用には「採用枠」がありますから、無尽蔵に人を採って良いわけはありません。ご存知のように内定には企業側に法的拘束力があり、一度内定を出してしまえば、簡単には取り消すことはできません。上記のような内定の出し方をしていて、もし採用枠以上に内定者が出てしまったら、会社は想定外のコストを負担することになり、中小企業においては死活問題にもなりえる大変なことです。だから、「来てくれるなら内定を出す」という判断自体は順当なものであり、それほど非難されるものではないのではないでしょうか。

■大手や人気企業が後から来ると苦しい

それなのに、なぜ「オワハラ」の問題視という現象が起こっているのでしょうか。環境的な問題は、日本の少子化による構造的な人手不足です。経団連の採用状の取り決めも解消された今、企業の採用活動は徐々に前倒しになっています。

しかし、大学や政府の3月採用広報解禁、6月選考解禁、10月内定解禁という「要請」は残っているため、大手・有名企業はある程度この基準を守って、「終盤の方」で就活生を待ち構えています。

このため、人気企業の採用選考が後ろに控えた中で、「気軽に内定を出せないが、採用にも困っている」という事情を抱えた中堅・中小企業が早期に採用活動をしたため、内定を出した学生を人気企業・大手企業にとられまいと、必死になった結果、内定者フォローが行き過ぎて「オワハラ」と呼ばれるような事例が生じてしまったのでしょう。

■これは「オワハラだ」という基準

事例から見ると「行き過ぎ」とは、「強い立場をひけらかしながら」「相手の不安感を煽って」「物理的な拘束や強要などの方法を用いて」というところが問題でした。口説く行為自体ではなく、「やり方」「程度」の問題とも言えるのではないかと思います。

確かに、「今すぐここで他社を断れ」とか「この日(採用競合の採用選考日)に来てくれなければ内定を出さない」とか「毎日のように終日拘束する」などのような行為は「オワハラ」と言われても仕方がないことでしょう。そもそもされた学生の方も気分はよくないはずです。それどころか、そもそもそういう、力づくで、言うことを聞かせるような「体質」の企業には、むしろ行きたくないと、辞退をしたい気になったのではないでしょうか。それでも、第一志望の人気企業は大変狭き門であることもわかっているので、学生はその「オワハラ」を無下に押しのけることもできずに悩み続ける。ここまで学生を追い込んではやはりダメです。

■就活がスマートになりすぎた弊害かも

本来ならば特に問題とは言えないはずの「口説き」に、このような「行き過ぎ」が生じる背景は何でしょうか。

私は上述の人手不足の問題に加えて、もともとは「仲間探し」的なウェットでホットだった企業の採用活動が便利にスマートになりすぎて、本来ならば腹を割ってコミュニケーションをして、信頼関係を築いた上で、その中で本気で強く口説いたり、苦渋の決断で辞退したりといった「本気のぶつかりあい」がなくなってきているからではないかと思います。

現在では、企業と学生との出会いは、形式化されて乾いた「会社説明会」で、その後はベルトコンベアのように選考ルートに乗せられることも多いです。オンラインで行われることも多くなった面接では、どこの誰かもわからない面接官から、自分のことについて根掘り葉掘り聞かれるわけですが、どこまで本音を言っていいのかわかりません。そんな選考ののち、内定をいただくのはよいが、それによって、信頼関係もできていない謎の相手から強く口説かれても、学生が嫌な気持ちになるのは当然かもしれません。

■就職活動/採用活動も、ふつうの人と人の出会いだと理解する

ですから、「オワハラ」予防の本質的な対策は、採用担当者が採用という行為を、「ふつうの人と人との出会いの場」であると再認識して、通常、初めての人が出会い、コミュニケーションを取り、信頼関係を結んでいくプロセスを、採用活動においても同じように行うということなのだと思います。

例えば、当たり前の話ですが、初めて会った人には、相手のことを聞く前に、きちんと自己紹介をしましょう。応募者だからと下に見ずに(そもそも売手市場なのに「下に見る」というのが、わかっていない証拠ですが)、ふつうに敬意を払って接しましょう。信頼しているなら、ふつうしないこと(疑っているから物理的拘束をするのです)はしないようにしましょう。

このように「オワハラ」と非難されないようにすることは、別に何ということはなく、人と人が出会う時にする「ふつう」のことをすればよいのだと思います。それができない/ついやってしまう採用活動は異常と言われても仕方がありません。

採用担当者の皆さん、(ほとんどの方にはおそらく蛇足ですが)ぜひ「ふつう」に「本気のぶつかり」をやっていきましょう!

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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