金正恩氏の号令で突然始まった風紀取締り ポニーテールは退廃 ハサミで切る 服装も髪型も我われ式にせよ
年の瀬も押し詰まった12月29日に、北朝鮮国内の取材協力者(20代の女性)から連絡があった。突然、街頭で大々的な「身なり検査」が始まったという。
「昨日から辻々に『糾察隊』が立って、服装や髪型の取締りを始めました。チョンパジ(ジーパン)、チョンデパジ(脚にぴったりした細身のズボン)、ピアス、女の子の『刀髪』(ポニーテール)が標的になっています。『糾察隊』はハサミを持っていて、『刀髪』はその場で切ってしまうそうです。一週間から三か月の労働鍛錬隊送りになるというので、びくびくしています。外出しないようにしている若い女性もいます」
※「糾察隊」とは 服装や髪型、金日成バッジ装着などを点検する風紀検閲組織のことで、地域、職場、学校で人を選抜する。
なぜ、年末に突然の風紀取締りなのか。これは金正恩氏の「鶴の一声」によるものと思われる。12月24日付けの朝鮮中央通信は、労働党の末端組織の幹部を対象にした「党細胞委員長大会」で正恩氏が行った演説を、「歴史的」と表現して内容を次のように紹介している。
'''
'''
非社会主義現象とは、北朝鮮式社会主義の秩序と風紀を乱す行為のことを言う。資本主義的な服装、髪型、韓国はじめ外国の音楽、ドラマ、映画見聞きすること、賭博や占い行為、宗教行為なども含まれる。
関連記事 : <北朝鮮写真報告>ミッキー、キティにドラえもんまで拡散 止まらぬ「敵国」文化の浸透 (写真4枚)
金正恩氏の演説は、「腐り切ったブルジョア反動文化を圧倒」できていない現実を物語っていると言えるだろう。2017年度に軍事境界線(DMZ)を越えて直接韓国に亡命した人は兵士4人を含め15人に上るが、その大半が「韓流ドラマを見て韓国に憧れを持った」と供述しているという。
もっとも警備が厳格なDMZを越えて、特に若い兵士が次々に韓国逃げ出した事態は、金正恩政権にとって衝撃だったはずだ。今後、経済制裁によって国内経済の悪化は不可避だ。国内の動揺を防ぎ統制を維持するために、「服従しない者は容赦しない」をあらためて宣言する必要があった。それが金正恩氏の演説と風紀取締りの実施として現れたのだろう。
さて、この風紀取締りは度々行われてきた。例えば2016年4月、36年ぶりに開催された朝鮮労働党大会の直前には、全国で茶髪やポニーテール、ジーパンを着用した若者が街頭で検束され、罰として多くが江原道(カンウォンド)の建設工事現場に送られた。だが、家にも連絡されないままで、行方不明になった子供を心配した親たちが党の事務所前に集まって抗議する事態まで起こっている。
関連記事 :<北朝鮮内部>ピアス、ポニーテールもアウト 違反の若者の強制労働 ついに親の集団抗議に発展
だが、外国の「資本主義退廃文化」の流入と拡散は止めようがなかった。なぜなら、金正恩氏自身がその役割を担ってきたからである。金正恩氏の肝いりで作られた牡丹峰(モランボン)楽団は、超ミニスカート姿で映画「ロッキー」のテーマ曲を演じ、ミッキーマウスの着ぐるみまで登場させた。
夫人の李雪主(リ・ソルジュ)氏は、しばしばミ短いスカートにブランドバッグを持って金正恩氏に随行する。国民に「あの程度までならOKなのだ」とお墨付きを与えたようなものだ。前出の取材協力者は「最近では、胸元がすっかり開いた服を着ている女性もいます」と述べた。