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演歌とレースの二刀流。中澤卓也が思い描くゴールと、二人の恩人への恩返し

中西正男芸能記者
演歌とレースの“二刀流”を実践する中澤卓也さん

日本レコード大賞新人賞などを受賞し、若手演歌歌手として多角的に注目を集める中澤卓也さん(28)。昨年からは幼少時に夢見たカーレーサーとしても再スタートを切りました。歌手とレーサーという両輪で独自の道を進む中で体感する相乗効果。そして、その先に見据える二人の恩人への恩返しとは。

歌とレースの相乗効果

 小さなころからレーサーにあこがれていたんです。中学の頃までは実際に目指してもいたんですけど、残念ながら資金面の問題もあって断念しました。

 高校を卒業して、もう一つ思いのあった歌の世界に進むことを考え、ありがたいことに恩師の作曲家・田尾将実先生とご縁をいただきました。2017年にメジャーデビューさせてもらい、これも本当にありがたいことに日本レコード大賞新人賞などの賞もいただくことができました。どこまでも、本当にご縁の力だと思います。

 そして、19年から始めたYouTubeチャンネルの中で、歌以外のものも何か発信できればと思い、目を向けたのがレース関連の動画だったんです。

 レースの現場から離れて10年以上経ってはいたんですけど、それでもやっぱり体は覚えているもので、乗ってみるとそこそこのタイムでは走れる。それを見てレース関連の方々が「こいつはなんなんだ?歌手じゃないのか?」と興味を持ってくださったこともあり、さらにまたご縁がつながっていきました。

 そこで、レーシングドライバーの武藤英紀さんとご縁をいただいたんです。

 ここまでの道のりやレーサーを目指していたこともお話ししたところ「自分ができることは手伝うから」と言っていただきまして。新型コロナ禍でこちらのステージが少なかったこともあり、常に一緒に動いてくださいまして。武藤さんのお知り合いもたくさん紹介していただきました。

 歌とレース。もちろん全然違う分野です。ただ、僕の中ではすごく似ているとも感じているんですよね。

 音楽のステージも、そしてレースも、本番までにいろいろなスタッフさんが準備をしてくださってその場を作ってくれます。ただ、ステージにしろ、レースにしろ、始まってしまえば、自分が最後は結果を出すしかない。どちらもその勝負なんです。

 ステージとサーキット、場所は違いますけど、最後は皆さんの思いを背負いながら自分がどうにかするしかない。その集中力はどちらも同じだと痛感しています。そして、二つをやってみて思うのは、それぞれがそれぞれの質を高めているということだったんです。

 レースの時はレースだけに集中するので音楽のことを一切考えない。歌のステージも一旦舞台に上がったら歌以外のことを考えない。

 一回頭を空っぽにすると、次にもう一つの世界に行った時に、頭がリフレッシュされているし、新しい発想も不思議と浮かんでくるんです。歌の集中力も高まっているし、レースにクリエイティビティを持ち込むことにもなっています。これは同時に二つのことをやってみないと得られない感覚だなと感じています。

恩返し

 田尾先生、そして武藤さんも、それぞれ分野は違うけれども繋がっているというか。本当に大切なものをいただいていると強く感じています。

 田尾先生のレッスンも非常に特殊で、当初のイメージとしてはマンツーマンで面と向かってのレッスンを想像していたんですけど、先生は料理や掃除をしたりしながら僕の歌を聞いてらっしゃるんです。

 ずっと「なぜそうされるのか」ということが自分には分からなかったんですけど、レッスンが始まって1年ほど経った時におっしゃったんです。

 「今はラジオの前とかでじっくり音楽を聞くということがほぼない。何かをしながらイヤホンで聞くのが主流。そういった環境でどう聞こえるのか。何かをしながらでも、思わず聞いてしまう。作業の手が止まるのが本当に良い歌だから」

 本当に、おっしゃる通りだなと思いました。そういう中でも耳を傾けてもらえる歌い方をしないといけない。そういう意識を持つようになっていきました。

 そのために必要なのがいろいろな技術であり、技術を学ぶために日々のレッスンがある。そういう道が自ずと見えてきますし、自分を磨けば磨くほど、お客さまから「良かったよ」という言葉もいただけるようになっていきました。

 行き着くところ、お客さまのその言葉のために自分はやっているんだし、そのための技術でもある。そういった考えに導いてくださっている田尾先生の懐の深さにも感謝しかありません。

 そうやって立たせてもらう舞台で感じるのも、お客さまへの感謝なんです。コロナ禍の時に配信ライブもさせてもらったんですけど、自分の歌を聞くために、それまでのガラケーからスマートフォンに買い替えてくださるお客さまもいらっしゃいました。

 自分の生活で当たり前だったものを変えてまでチケットを買ってくださる。これって、本当に有り難いことだと思うんです。

 そこまでして自分の歌を必要としてくださる。自分としては、そこに応えられる歌を歌わないといけない。それも改めて強く思いました。

 田尾先生にも、武藤さんにも、そして応援してくださる皆さまにも恩返しをしたい。僕は本当にご縁に救われている人生だと思いますし、そこは何かしらの形にしてお返ししたい。それは忘れちゃいけないことだと思っています。

 ずっと歌い続ける。たくさんの方が自分の歌を聞いてくださる。それを見せることも一つの形だと思います。そして、レースではこちらは年齢的にも頑張れる時間が短くもありますけど、ここまでいきましたというものをお見せする。それは必ずやりたいと思っています。

 ま、お二人とも「そんなことは別にいいんだよ」とおっしゃるとは思うんですけど(笑)、でも、自分としては何かしら形にしてお見せしたいなと。

 自分はまだ28歳ですけど、自分が先輩の歌を聞いて心が震えて歌の世界に入ったように、いずれ自分の背中を追いかけてきてくれる若い人が出てきてほしい。大きな目標ですけど、それは思います。

 そういう存在にあこがれますし、そういう歌い手になりたいなと。そこを目指していれば、皆さんへの恩返しにも自然と近づくのかなとも思っています。

(撮影・中西正男)

■中澤卓也(なかざわ・たくや)

1995年10月3日生まれ。新潟県出身。身長178センチ。幼少期からモータースポーツに関心を示し、プロレーサーを目指すが資金難などで断念。レーサー同様、あこがれを持っていた歌手の世界を目指すことを決意し、2015年に日本クラウン新人オーディションで準グランプリを獲得。それを機に、作曲家の田尾将実氏に師事する。17年に「青いダイヤモンド」でメジャーデビュー。日本有線大賞有線奨励賞、日本レコード大賞新人賞などを受賞。昨年、歌手の西田あいと結婚。公式Youtubeチャンネルでモータースポーツを紹介する投稿を開始したことをきっかけにレース活動を再開した。今年2月にリリースした「陽はまた昇る」を展開中。7月27日には大阪・箕面温泉スパーガーデン箕面劇場で公演を開催。8月31日には大阪・エルシアターでコンサートを行う。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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